The しょっぴんぐ 藤宮 蘭・作

「たあああああああ!!」
リヴィングにテノールが谺する。
「甘い!」
黒い服を着た青年が、静かに腕のブレードを振り上げた。
鮮やかなプリズムパープルの髪を翻し、危機一髪でブレードを躱す。
空中で躱せたのはいいが、プリズムパープルは見事に床に落下した。
「ってえパルス!チョット位手加減しろよな!」
「ふん。そこまで面倒見切れるか。だいたいシグナル!
 おまえには戦略がない!跳ぶ時には着地場所を考えろと何時も(いつも)
 言っておろう!」
「シグナル弱〜い♪」
信彦が椅子の陰で笑った。
「っせえな信彦!お前最近、生意気になってきたなあ・・・。(涙)」
そう。彼の名はシグナル。音井信之介教授の手によって造られた
ATRANDOM-NUMBERS最新の最高傑作、〈A-S〉SIGNALだ。
「お二人供ケンカはやめてください!後片付けが大変なんですから。」
金髪の華奢なヒューマンフォームロボっトが困り顔で二人に言い聞かせた。
彼は〈A-K〉KARMA、そして、黒いロボットが〈A-P〉PULSE。
「カルマ・・・そういう問題か・・・・・?(汗)」
「パルス君、どういう問題か分かっておいでなのでしたら、お掃除、
 手伝って下さいますよね?シグナル君も。」
「う・・・・(汗)」
絶句しているシグナルとパルスの手に二本のホウキが渡された。
「流石カルマ、あの二人を止めちゃうなんて♪やっぱ親父の兄貴だよね。」
「ありがとうございます、信彦さん。」
信彦がカルマに笑いかけるとカルマは、にっこりと笑い返した。

 ある日、音井家はでかける事になる。メンバーは、信彦、シグナル、パルス、クリス、
カルマ、みのる、正信の、7人だ。シグナルとパルスはアタッチメントを変えてもらった。
シグナルは、青いジーンズのハーフパンツに真っ白いTシャツ、その上に黒のパーカーを
羽織り、プリズムパープルを隠す為、ブルーのキャップを冠っている。
それと対象にパルスは、黒のパンツに白いシャツ、そしてスプリングコートを着ていた。
「うっわあああ!高いビル!シグナル、早く行こ♪」
久しぶりの外出に信彦ははしゃいでいる。が、一番張り切っているのはみのるだった。
「ああ・・・久しぶりに信彦と買い物ができるわ♪」
「みのるさん、落ち着いて。」
おもわず信彦を抱き締めるみのるに、正信は優しく声をかけた。

「シグナル!シグナル!玩具屋のゲームソフト見に行こうよ!!」
信彦が目を輝かせながらシグナルの黒いパーカーを引っ張った。
シグナルは、うんと頷き、みのるに確認をとり、信彦と駆けて行った。
「では、正信さんみのるさん、私は貴方がたのお手伝いを致します。」
「うん。ありがとう、カルマ。よろしく頼むよ。」
三人が食料品売り場に行こうとすると、パルスが慌てて口をはさんだ。
「と、言うことはですね若先生。私にクリスと行けと言うのですか?」
パルスのセリフに三人は顔を見合わせ、しばらくするとカルマが口を開いた。
「クリスさんは、パルス君とシグナル君のケンカで壊れてしまった食器を
 買いに行って下さるのですから、荷物を持ってさしあげたらどうです?」
「ぐ・・・(汗)」
流石にパルスも自分が悪いのだから反論ができない。
「Love Love Shopping Enjoy・・・・♪」
正信が呟いた言葉を、パルスは聞き逃さなかった。
「わ、若先生!今のだけは取り消してください!」
「フフフ・・・若いねえ。」
聞いちゃいない。
「そうよ。私はかよわい女の子よ。手伝うのが義務ってもんだわ。」
クリスの一言は、「あんたは荷物持ちよ」といわんばかり。パルスは諦めてついていった。

クリスはゴキゲンで婦人服売り場でパルスを振り回した。
「お前、食器を買うんじゃなかったのか?」
パルスが呆れて言った。
「あら、たまには服だって買いたいわよ。」
クリスがクルッとターンすると同時に彼女の横を黒い影が横切った。
「きゃっ・・・!」
倒れそうになったクリスをパルスはとっさに抱きとめた。
「あ・・ありがと・・・。」
クリスの思いがけない言葉にパルスは顔を赤くした。
「大丈夫かと聞きたいところなんだが・・・・今の男、おそらく掏摸(スリ)だな」
「ええ!?うそ・・・いまの財布にカード入ってる・・・・」
「私達だけではどうにもならん。私は若先生をよんでくる。クリス、お前は、
 ここで待っていろ。」
「うん。なるたけ早くね、パルス・・・・・。」
クリスは小さく頷いてパルスを見届けた。
 人々の視線がパルスに向けられる。なんせ、一般人から見ると、
 『very tall でメチャメチャかっこいいロン毛の兄チャンがマッハで走ってる。』なのだ。
(くそっ・・・若先生はどこにいらっしゃるんだ・・・!)
すると、すぐ後ろから聞き慣れた声が自分を呼んだ。
「パルスー!」
「クリス?!待っていろと言ったはずだ!」
「ちがうの・・・ちがうのよ、パルス。」
走って来たのだろうか、クリスは息を切らせていた。
「今の男が持っていったのって・・財布じゃないの!財布より大切なモノなのよ!!」
クリスの瞳からポタポタと雫がこぼれ落ちた。
「何が入っているか・・・・私に言えるか・・・・?」
パルスが信じられないほど優しくクリスに言った。だが、クリスは首を横にふった。
「今は・・今は言えない・・・・。だけど・・・いつか絶対に、貴方に言うわ。」
パルスは意味が分からなかった。が、とりあへず正信にその事を伝えた。正信は、
「まず、自分達で探してみよう。見つかるかもしれないからね。」
と、いうことで手分けして探す事にした。
ペアは、シグナル、カルマ、みのる。正信、パルス。クリス、信彦だ。

「信彦〜、あった〜?」
「ううん、全然。クリス姉ちゃん、オレ疲れたよ。ジュースのもーよ。」
「そうね・・・・・私も疲れたわ・・・買ってくるからそこでまっててね。」
クリスが見えなくなると信彦はベンチに腰掛けた。
「ああ、もう!何でそんな大事な・・・?」
信彦の足下に何かある。
「白い布で出来た入れ物・・・・!そしてこのイニシャル・・・・!
 まさしくこれは、クリス姉ちゃんの!財布じゃないと気がついてすてたんだ!」
信彦がその中を覗いた途端にクリスが帰って来た。
「ああああああ!みちゃだめええええ!!」
しかし、おそかった。
「クリス姉ちゃんって・・・」

 無事、音井家にかえった7人で、あの中身にパルスの写真が何枚かと、パルスへの
淡い恋心が入っていることを知ったのは、信彦、ただ一人だった。

                                 おわり

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