政策レポート−名張市長 亀井利克
行政サービスの向上に「市民と行政の約束制度」を導入  …三重県名張市行政改革評価室…

  月刊『EX』2005年9月号<取材レポート> −インタビュー記事−

 地方分権が進む中、市町村の競争は激しくなり、ある意味で「勝ち組」「負け組」がはっきりすると言われている。当然、「勝ち組」とは質の高い行政サービスを提供する市町村であり、これを目指して市民を顧客と据え市民志向のサービスを提供する市町村が増えている。三重県名張市では、2003年10月、「市民と行政の約束制度」をスタートさせた。この制度は、イギリスで始められたシティズンズ・チャーターを参考にしたもので、市民と直接接する日常の業務の中で何ができるかを職員が考え、公表する。制度開始時に全庁的な「共通の指針」を策定し取組みを進めてきた。さらに今年の6月には「部門別の指針」を公表。その約束を広報やホームページで周知し、窓口に張り出すことで職員の意識も大きく変わりつつあるという。


シティズンズ・チャーターを参考に

 名張市の亀井利克市長は、02年4月に市長に就任して以来、効率的で質の高い行政サービスを提供するために、ニュー・パブリック・マネジメントに基づく行財政改革を進めてきた。「市民と行政の約束制度」もまた、質の高い行政サービスを担保するものとして創設されたのである。
 同制度は、91年にイギリスで導入されたシティズンズ・チャーターを原型としている。シティズンズ・チャーターは、「すべての公共サービスは、一人ひとりの市民によって直接または税金を通じて賄われている。市民には、自らの要求に応じて、妥当な価格で効率的に、質の高いサービスを期待する資格がある」とし、市民には、@提供するサービスの基準の公表、A提供するサービスについての情報公開、Bサービスを選択する機会の提供および住民との協議、C親切で充実したサービスの提供、Dサービスに問題があった場合の謝罪と是正、E効率的・経済的なサービスの提供といった6つの基本的事項を期待する権利があると明記。主要な公共サービスをカバーする42ノナショナル・チャーターと、個々の学校・病院などをカバーする1万以上のローカル・チャーターがつくられた。
 具体的な数値目標を入れる点では共通だが、当時のイギリスは行政サービスの質が低下していたという背景からシティズンズ・チャーターをつくった。この点、今の日本とは状況が異なっている。行政改革評価室の岩本信博室長は名張市での約束制度導入の背景を次のように話す。
 「分権型社会の進展により、市民(顧客)指向型の行政運営が求められています。住民ニーズの高度化・多様化により、行政サービスは行政の都合ではなく市民の視点に立って行うよう転換する必要があります。さらに、厳しい行財政環境の中で施策の選択の主体は市民であることを忘れてはなりません。こうしたことから、シティズンズ・チャーターを参考にしながら、独自の視点を盛り込んだ市民と行政の約束制度を導入することにしました」


5項目の「共通の指針」

 市民と行政の約束制度は、市の行政サービス全般を対象とする「共通の指針」と、市民に直接サービスを提供する部門を対象として個々の行政サービスの内容について定める「部門別の指針」で構成されている。
 導入に向けては、03年9月に「共通の指針」についてのパブリックコメントを実施し、10月に職員説明会を行った後に公表した。その後、各室ごとに「部門別の指針」の策定に入り、04年12月に設置された、各部の主管室長を委員長とし各室から選出された委員によって構成される業務向上委員会で内容を検討。05年6月に「部門別の指針」を公表したのである。「共通の指針」は市の行政サービス全般を対象とする一般的な指針である。その内容としては、@市民への情報提供、A行政サービスの水準や処理期限の公表、B市民からの相談等の窓口の充実、C意見・苦情等に対する対応、D行政サービスの誤りがあった場合の謝罪と再発防止の5項目からなっている。具体的な取組みとしては、庁内サインの一斉点検、役所言葉の見直し、「ご意見箱」の設置、苦情等の処理手順・方法の統一マニュアルの作成、などを実施している。


部門別の指針策定での業務見直しが最大のねらい

 「共通の指針を策定後、各室で自らの業務内容を見直し、部門別の指針を策定したのですが、業務内容の見直しこそがこの制度の一番大きなねらいだといえます。お客様へのサービスという視点で業務を見直すことで、職員の意識が改革される。それが最終的にサービスの向上につながるからです。約束制度はそのための道具の一つなのです。また、共通の指針、部門別の指針ともに市民への約束と共に『お願い』をセットしました。約束を履行するためには市民の協力も不可欠だと考えたからです。それが名張市の約束制度の特徴となっています」(岩本室長)。
 「共通の指針」では、「まちづくりや行政運営への積極的な協力」「限られた財源を有効に活用するために施策を厳しく選択することや、行政サービスに制限を設けることへの理解」「公共の福祉に反することや、法令から逸脱する要求には応じられないことへの理解」がお願いとしてあげられている。
 一方、「部門別の指針」については、市民に直接提供するサービスについて策定することを前提に、すべての室・職員に適用される「共通事項」と、各部ごとに共通の業務について策定した「部の約束」、また、室ごとに固有の業務について策定した「室の約束」からなる。「共通事項としては、@窓口ので受付・応対、A各種の問合せに対する対応、B情報提供、C個人情報の保護、D苦情等の処理のあり方、の5項目を定めている。
 また、「部の約束」としては、公共事業を所管する産業部・建設部・都市環境部が公共事業についての約束を、教育委員会が、同委員会との共催名義の使用申請に関しての約束を定めている。
 その結果、共通事項は5項目、部ごとの共通の約束が4項目、室ごとの約束が138項目(52室、病院・保育所等の施設を含む)となった。
 各室の個別の約束には、次のようなものがある。一例を見てみよう。

・証明書等の交付・発行業務で時間を定めたもの
例: 「住民票・印鑑登録証明書の交付については、受付から15分以内に発行します。15分以内に発行できない場合は、前もってお知らせします」(市民部戸籍登録室)
・維持管理等について定めたもの
例: 「道路等の維持補修の依頼があった場合には、1週間以内に現場の調査を行います」(建設部維持室)
・許認可等の制限を定めたもの
例: 農道敷および井溝敷等の占有許可申請については、申請必要書類提出確認後、1週間以内に返答します。時間を要する場合は、その旨をお知らせします」(産業部農村整備室)
・施設の利用許可申請について定めたもの
例: 施設の利用許可書は、受付から5分以内に発行します」(教育委員会スポーツ振興室)

 その他、月1回発行の広報紙を月4回発行にした広報対話室や、ポルトガル語・英語・スペイン語・中国語・韓国語の5カ国語の資源分別パンフレットを作成したごみゼロリサイクル推進室など積極的に業務を見直し、改善を推し進めている部署もある。


約束を窓口に張り出し職員の意識も変化

 今後の方向性としては、業務向上委員会の充実と部門別の約束の高度化を図っていく。このほか市民の満足度調査や部門別の市民モニターの設置など、市民が行政サービスの向上に関われる仕組みをつくること、窓口の一元化と共にフロアマネージャーの設置も検討するという。
 「部門別の指針を策定してからそれほど時間が経っていませんが、約束を窓口などに張り出すことで職員は約束を守ろうと、意識が変わりつつあると思います。地方分権が進み、いい意味での市町村の競争が激しくなっていますが、『このまちに住みたい』と思われるよう、約束制度を通じて行政サービスを向上させたいと考えています」(岩本室長)。



ぎょうせい発行・月刊『EX』2005年9月号−掲載−
平成17年9月


※参考※
 市民と行政の約束制度(共通の指針) 名張市役所ホームページへリンク
 http://www.city.nabari.mie.jp/webhtml/yakusoku-kyoku.html

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