政策レポート−名張市長 亀井利克
自主自立の自治体を目指しゆめづくり地域予算制度を創設

  月刊『ガバナンス』2004年2月号 −紹介記事−

*** 三重県北西部、伊賀盆地の南に位置する名張市。1954年の市制施行時人口3万人程度だった地方都市は、半世紀の間に8万5千人を擁する大阪のベッドタウンに発展した。一昨年に就任した亀井利克市長のもと、「市政一新」を掲げて大胆な行財政改革に取り組む一方、「ゆめづくり地域予算制度」を創設して地域の自立を図っている***

地域づくり委員会の構成も地域ごとに特色

 ゆめづくり地域予算は、14の地区公民館単位で住民による地域づくり委員会を創設し、同委員会が行う地域づくりのための事業に対して一定の金額を交付するもの。従来の補助金制度とは異なって事業を限定せず、地域住民の福祉増進や地域づくり推進に寄与する活動であれば自由に使えるものとする。交付金の基本額は地域均等割(3割)と人口割(7割)で算定し、公民館の管理運営や公園管理など行政からの委託事業を受けた場合は別途加算される。
 亀井市長が就任当初の2002年6月、施政方針の中で打ち出した施策で、関連条例は昨年4月に施行。これを受けて、各地区ごとに区長会や各団体の代表者などを中心として地域づくり委員会の組織化に向けた話し合いが行われ、9月までに全14地区で同委員会が設立された。
 組織の成り立ちや構成はさまざま。たとえば全世帯が委員会のメンバーとなっているケース、代議員制を導入したり、外部監査委員を任命しているケースなど。公正・透明でかつ効率的な組織運営を目指して、各地域で工夫を凝らしている様子がうかがえる。


市民も市民に対する説明責任を果たす必要

 昨年11月には、各地域づくり委員会の代表者で構成する「地域づくり協議会」を設置。活動の状況や課題を互いに出し合う情報交換の場とすることで、全体的なレベルアップを図ることがねらいだ。市側は地域振興推進チーム(各地域に7〜11人)を任命し、情報収集や関係部局との調整、助言などを通じて地域づくりを支援する。
 また、まちづくり支援室が新設され、地域づくり委員会・推進チーム・庁内各部局との間の連携や調整を行うとともに、地域づくり協議会の事務局も担う。まちづくり支援室長の松下英子さんは、行政側の支援を側面的な活動に限定し、気長に成長を見守る考え。
「最初はそれぞれの地域づくり委員会の運営や実践の過程で問題が出てくるだろうが、それは当たり前。自分たちで勉強して課題をクリアしないと、前に進めない」
 また、地域住民の合意をどう図っていくか、住民に対する説明責任をどう果たしていくかなど、地域づくり委員会の課題を指摘する。一方、推進チームのあり方については、「職員によって活動の密度に差が大きい現状を見直す必要がある」と話す。

※松下英子さん<まちづくり支援室長>
   ゆめづくり地域予算制度について、「市民の側の意識改革を
   促すにはうってつけ」と話す。







地域の自由裁量を妨げる規制の緩和が不可欠

 つつじが丘・春日丘地域づくり委員会では、区長会や社協・婦人会・PTAなど各種地域団体の代表を中心に 36人の役員を選任。実施事業については各団体からアイデアを出してもらい、役員会で精査の上決定した。
 今年度実施の全32の事業は、福祉、公園活性化、まちづくりという3本の柱に分けられる。福祉分野では、独居高齢者などの交流の場を提供する「ふれあいいきいきサロン」、夏休みに親子のふれ合いを図る「友遊サタディ」など。公園活性化では、17ある公園の整備充実計画策定とそれに基づく実践、グリーンボランティアの募集、園芸福祉ボランティアの養成など。まちづくり分野では、地区の歴史研究、ごみステーションの増改築、児童の下校時の安全パトロールなど。これらの事業に対する交付金の総額は581万円だ。
 会長の三原孝さんは、「これまで住民は、『地域づくりは誰かがやってくれる』と思いこんでいたが、これからは『みんながやる』時代。それは非常に高いハードルだ」と語り、広範な住民の参加を呼びかけている。副会長の福井義明さんは、「地域住民が自己決定・自己責任で事業費を運用すべきという市長の考え方は正解」と、制度の理念を高く評価。同じく副会長の坂野史明さんは、「公園づくりなどの事業に一度参加してくれた人は、興味を持って活動を継続してくれる」と、一定の手応えを感じている。
 ただ、3人とも民間企業での豊富な経験を持つだけに、官民の違いを痛感する場面も多い。たとえば、公民館の運営委託に関して、三原さんらは利用料の原則有料化を提案したが、市側は「法や条例の壁があって使用料は取れない」と返答。 3人は「サービスにはコストがかかる。地域の自由裁量を高める上で障害となる要素は取り除く必要がある」と、特区のような規制緩和措置を求めている。「行政の話を聞いているうちに、だんだん熱意が薄れていってしまう」(坂野さん)との嘆きは、恐らく全国の地域活動の現場で発せられているものだろう。

※つつじが丘・春日丘地域づくり委員会
  三原孝さん<会長>
  福井義明さん<副会長> 坂野史明さん<副会長>
    「小さなことからこつこつ取り組んでいきたい」と声を揃える。








財政状況と改革の競走がつきつけられている

 名張市は昨年3月、「市政一新プログラム」を発表した。経常収支比率が89・5%、公債費比率が17・8%(いずれも2001年度)と深刻な財政状況で、2002年9月には財政非常事態宣言を発したことを受け、行政システムの根本的な転換を目指して策定されたもの。「市民の幸せと自主自立の自治体を実現すること」を理念とし、協働・効率・自立をキーワードとする。
 また、基本的な取り組みの方向性として、
(1)ガラス張り市政(あらゆる段階での情報公開・開示の徹底)、
(2)ニュー・パブリック・マネジメント(成果志向・顧客志向・市場メカニズムの活用・組織の権限委譲と分権化といった民間の経営手法)の導入、
(3)シティズンズチャーター(目標数値等を明示しての市民と行政との約束)の3点を提示。
これらをすべての改革項目に適用するとしている。

 改革内容は、次の10項目。
@情報提供・共有の推進…電子行政総合窓口の構築など
A市民との対話…市民電子会議室の設置など
B成果重視の行政…行政評価制度の創設、目標管理制度の導入など
C経営観点の導入…組織機構の改革、職員給与制度の見直しなど
D経費節減と合理化…入札契約制度や補助・交付金の見直しなど
E民間活力の導入…保育所の民営化、ごみ収集の民間委託など
F電子市役所の推進…ITを活用した業務革新など
G市民主体のまちづくり行政の推進…地域予算制度の導入など
Hシティズンズチャーター制度
I行政の自立…職員の意識改革、自治基本条例の制定など

 行政改革評価室長の山本順仁さんによると、「2003年6月に各項目の具体的な実施計画を策定し、ほとんどの項目はこれに沿って進行中」とのことだ。たとえば組織機構改革については、今年度当初からフラット化(4階層を3階層に)・フレキシブル化(横の連携強化)・フロント化(市民サービスの総合対応)を基本に実施。また昨年11月からは、行政評価制度を試行的にスタートしている。経費削減についても、「補助金の削減、給与カット、事業の廃止などにより、今年度は十数億円を節減した」(同氏)。
 一方、進行が遅れている項目としては、やはり民営化や民間委託が挙げられる。ただ、体育館や公民館の地域委託は少しずつ実現しており、庁内の事務についても受付や経理まで含めて民間委託が可能かどうか調査中とのこと。山本さんは、「財政状況と改革との競争が目の前に突きつけられている。この競争に負けないよう、全庁一丸となって取り組んでいきたい」と決意を語っている。

※山本順仁さん<市政一新プログラムを担当する行政改革評価室>
    「2004年度までの2年間で行政システムの転換にはすべての
    道をつけたい」と意気込む。









シティズンズチャーターで職員の意識改革を促す

 改革項目のうちシティズンズチャーターについては、昨年10月に「共通の指針」を定めた。「市民の皆さまへの約束」としては、十分な情報提供、行政サービスの水準や処理期限の明示、受け付けた意見がどう検討されたかの報告など5項目。「市民の皆さまへのお願い」としては、まちづくりや行政運営への協力依頼など3項目。今後はこの指針を踏まえて、市民サービスや施設の管理運営などに関する部門を対象に、個別の指針を順次まとめていくことになる。
 共通の指針に関連して、市民からの意見や要望にどう対応すべきかをまとめたマニュアルも作成された。苦情への対応はすべての業務に優先させ、即答できない場合は回答期限を明確にするといった内容が盛り込まれている。
 この制度のねらいは、次の3点。
@市民の立場に立って、親切で質の高い行政サービスを提供する。
A積極的に説明責任を果たすことにより、行政サービスに対する信頼を醸成する。
B苦情や要望をサービス改善の契機として積極的に受け止め、行政サービスの組織的かつ継続的な改善・向上を図る。

 総合企画室長の山口伴尚さんは、「この仕組みが実効性を持つかどうかは職員の意識改革にかかっている」と、顧客満足経営などに関する職員研修に力を入れていく考えだ。一方で、市民の側の意識改革も不可欠であり、「参加・責任なくして市民の意識は変わらない。市民活動をより活発化していくための仕組みや場所の整備に努めていきたい」と語っている。

※山口伴尚さん<総合企画室長>
   「シティズンズチャーター制度を成功させるには、
   継続して職員への働きかけを行うことが不可欠」と語る。





市民投票の結果厳しくても自立の道を選択

 名張市では、上野市など伊賀地区7市町村による任意の合併協議会に参加し、対等合併で新市の名称を伊賀市とすることなどがすでに合意されていた。しかし、昨年2月に市民投票を行った結果、合併反対が約7割という圧倒的多数を占め、名張市は法定協議会へ参加しないことを表明。
 市民投票に際してはかなり丁寧な情報提供と説明を行ったので、この結果は情緒的なものではなく、「財政的には厳しくても自立の道を選ぶ」という市民の明確な意思表示と見ることができる。したがって、市には市民の覚悟に応える責任がより重くのしかかっていると言えよう。
 今年は市制施行50周年という区切りの年に当たり、亀井市長は市民主導による新総合計画の策定を考えている。ただ、前出の三原さんが「なぜ財政がここまで行き詰まったのかをきちんと市民に説明し、けじめをつけることが先決」と話しているように、まだ市政一新はスタートラインについたばかり。市民と行政との信頼関係構築に向け、互いに一層率直な働きかけが求められている。



*** コラム ***
≪ 亀井利克市長に聞く ≫
  
地域づくり委員会の将来像は市と対等の力を持つ地域政府



──「市政一新」を掲げて行財政改革に取り組んでいるが、そのポイントは?

 市政一新プログラムは、長期化する不況や少子高齢化という状況の中で持続可能な社会をつくるための改革だ。それには、補完性の原理に基づいて民間ができることは民間がやり、民間ができないものは基礎的自治体、基礎的自治体ができないものは県、県ができないものを国が担うという構造にすることが不可欠。また、自助・共助・公助の精神で行政を進めることが必要であり、こうした基本的なルールの確立を目指す。具体的な改革については、今年度と来年度で集中的に取り組み、2005年度に新生・名張市の出発を図る。


──「ゆめづくり地域予算制度」のねらいは?

 私は市民に対して、「観客席から下りてきて一緒に働いてほしい」と訴えてきた。目指すのは、自分たちの地域に必要な事業を住民自らが考え、優先順位も自分たちで決める地域政府だ。 14地域すべてに地域づくり委員会がつくられ、ここを土台に多様な事業が展開されていく。最終的には地域づくり委員会と名張市が同格になればいいと考えている。
 一方、地域の枠を越えて活動するNPOなどに対する支援も必要であり、市民活動センターの設立に向けて準備を進めている。その運営も市民自身が行ってほしい。


──合併をめぐる市民投票では「合併に反対」が約7割を占めた。この結果をどう捉えているか。

 合併のメリット・デメリットや合併した場合・しなかった場合の中期見通しについては、 116回の住民説明会のほか全戸配布のパンフレットやケーブルテレビなどで詳しく説明した。その上での結果なので、厳しくても自立した自治体として頑張っていきたいという市民のメッセージだと受け止めている。多くの市民が名張市に誇りと愛着を持っていることを、改めて強く感じた。


──名張市の財源とは?

 山紫水明の自然と文化、そして新しい財産となっているのが人だ。いろんな専門知識を持った市民が住んでおり、そうした人たちの力を、たとえば新総合計画の策定に際しても活用していきたい。名張市は東海地方で唯一、社会福祉事業法に基づく地域福祉計画のモデル地域に指定された。この計画についても、地区懇談会などを通じて市民の参加を得ながらつくっていく。


──今後の抱負を。

 名張市を何とか福祉の理想郷にしたい。福祉のほか保健、医療、情報、教育などの面に力を入れ、暮らしやすさを追求していきたい。


ぎょうせい発行・月刊『ガバナンス』2004年2月号−掲載−
平成17年9月

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