政策レポート−名張市長 亀井利克
IT時代の議会を目指して−議会の弱体化を防ぐため
IT革命が行政にもたらすもの

 21世紀の始まりとともに、IT革命もまた本格化した。来たるべきIT時代に向けて、国も地方も、あるいは民間も、新しい通信技術の普及と活用に全力を注いでいる。しかし、IT時代における民主政治のあり方を予測すると、浮かびあがってくるのは議会の弱体化という事態である。ITという新しい技術は、議会制度を無効にする可能性を秘めているのである。

 議会制度を成立させている議会制民主主義は、すべての住民が政治に直接携わることは不可能であるという、直接民主制の不可能性を前提として成熟してきた。しかしITは、その不可能を可能ならしめる力を有している。すなわちITによって、一人の住民と執行者である知事や市町村長との直接対話が可能になろうとしているのであり、それは市町村合併によって議員定数の削減が進められようとしているいま、行政に民意を反映させるためにぜひとも必要な機能でもある。だが、その機能の究極には、議会が無用の長物になりかねない危険性も存在しているのである。

 ここで、米国の事例を見ることにする。昨年8月、米国カリフォルニア州を訪れ、シリコンバレーの中心にあるサニーベール市を視察した。同市は人口13万人で、パソコンの家庭普及率は80%。市議会に提出される議案や資料はすべて、インターネットを通じて住民にも情報提供される。それも時間差なしで、議員と市民がまったく同時に同じ情報を共有するというシステムである。議会は毎週1回開会されるが、傍聴の市民には発言も許されている。

 こうした開放的なシステムが議会運営に混乱をもたらすことは当然懸念されるが、かりに混乱が起きたとしても、正確な情報が住民に伝わらないことによって発生する混乱の方がはるかに重大であり、問題として深刻であるというのが同市の認識である。

 米国においてこうした例は珍しいものではなく、人口73万人、議員11人のサンフランシスコ市や、人口350万人、議員15人のロサンゼルス市においても、市議会開会72時間前までに、ケーブルテレビや掲示板等で議会事項書を広報することが義務づけられている。議会は週1回の開会で、事前に申し込めば住民が議会に参加し、発言することも可能である。

 こうした事例にITの進化を考え合わせれば、執行者が全住民を対象に直接意見を聴取する時代が訪れたとしても、何ら不思議はないのである。



IT時代の議会に求められるもの

 そうした時代は、米国のみならずわが国においても、いまやすぐそこまで来ていると判断される。現在、県内ではケーブルテレビ8社が営業しており、それらをネットワーク化する事業も進行中で、平成13年度末の時点で県内85%がカバーされる。これはケーブルテレビ存続のために不可欠な事業であるが、整備されたネットワークは直接民主制への道を開くものともいえる。

 今後、三重県や県内各市町村がITを最大限に活用して情報の公開を行い、双方向で住民からの意見聴取をきめ細かく進めてゆくならば、県議会や市町村議会は急速にその存在感を失ってしまうと予測される。その先に見えるのは、冒頭に述べた議会の弱体化でしかない。

 そうした弱体化を回避するためには、議会および議員がいま以上に住民との「協働」を深め、住民の思いを政策にまで高めて政策提案を進めてゆけるだけの力量を備えることが必要である。さらに、提案した政策を現実のものとし、その実行性を高めてゆくためには、議会みずからが条例をつくりあげる能力も要求されるところであり、そのためには事務局の人員と能力の充実が大前提となる。むろん、県議会と市町村議会との連繋強化が要請されることはいうまでもない。

 また、このままでは確実に失われるであろう議会の存在感を維持し、IT時代においてその存在意義をより高めるためには、まず議会みずからが明確な将来展望をもつことが必要であると判断される。たとえば、政策と条例は議会が、予算の編成と執行は執行部が担当するといった、大統領制に近い大胆な権能分
離を目指すことも、視野に入れられなければならない。

 さらに付言すれば、地方分権一括法が施行され、各地の地方自治体において情報公開条例が整備されて、地方分権と行財政改革の流れが大きなうねりとなっている現在、議員定数を削減することも議会には必然的に要請される。

 より少ない定数で、きめ細かく確実に民意を汲み上げたうえで、それに基づいて政策提案を行い、条例をつくりあげてゆく力量を身につけるための努力を、明日ではなく今日、たったいま始めないかぎり、IT時代の議会は弱体化に至らざるを得ないといえるのである。

[亀井利克」
平成13年3月



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