政策レポート−名張市長 亀井利克
住民主体で進める福祉の理想郷づくり

  月刊『自治フォーラム』2005年9月号 −寄稿文−

自治大学の思い出

 この連載に登場する機会を与えていただき、自治大学時代のことを懐かしく思い出しました。私は昭和六十二年一月から三月まで、第二部課程の八十八期生として在学しました。洗心寮での生活や、南部坂、有栖川公園、広尾商店街のたたずまいなどが今もありありと目に浮かんできます。あの三か月間は、私がもっとも真剣に勉強した時期でした。
 当時の校長でいらっしゃった木村仁先生は現在、参議院議員としてご活躍中ですが、消防大会でお目にかかったり、陳情の際にお力添えをいただいたりしています。自治大学で得た人脈は間違いなく私の財産であり、自治大学に学んだこと自体が現在の自分の支えになってくれていると感謝しております。


名張市の概要

 私が住んでいる名張市は、三重県の北西部に位置し、奈良県と県境を接する山間の地方都市です。万葉集にも名の見える歴史と伝統を誇り、清流と緑に恵まれた山紫水明のまちですが、近年は大阪のベッドタウンとして発展し、人口はここ五十年ほどで三万人から八万五千人に増加しました。
 里山散策や園芸農業に適した豊かな環境が残され、赤目四十八滝や香落渓などの観光スポットは自然を満喫する行楽客でにぎわっています。また、中世に能楽を大成した観阿弥が初めて座を立てたところであり、近代には探偵作家の江戸川乱歩が産声をあげたことでも知られています。
 私は昭和四十九年から平成二年まで、この名張市の職員として奉職しました。平成三年から三期十一年にわたって三重県議会議員を務めたあと、平成十四年四月に名張市長に就任。現在、市長として四年目の年を迎え、一期目の集大成に力を入れています。

市政一新と財政健全化

 市長就任後にまず着手したのは、官の論理から民の論理への転換を目標に、市政を一新することでした。そのため、民間からの公募も含め、市民団体代表や有識者による市政一新市民会議を結成して、民の視点を大幅に取り入れた「市政一新プログラム」を策定しました。いっぽう、市長を本部長とする庁内組織として市政一新本部を設置し、待ったなしのスピードでプログラムを実践してゆきました。
 改革の基本理念には、補完性の原則を据えました。地域住民が主体となり、それを基礎的自治体である市町村が、さらには県や国が補完することで新たな地域社会を構築する。つまり自助から共助、公助へというステップを経ながら、住民自身がまちづくりを進めるための基盤を固めることが、改革の最大のねらいでした。この結果、プログラムでは行政各般にわたって六十一項目の目標が設定されましたが、二年間でその七割をクリアし、四年のあいだに一〇〇%達成できる見通しとなりました。
 全国で自治体の財政難が深刻化する中、財政健全化に大なたを振るうことも必要でした。市長就任直後の平成十四年九月、私は財政非常事態宣言を行い、徹底的な再建に乗り出しました。人件費と管理経費を見直すとともに、投資的事業の抑制を進めることで、平成十五、十六両年度で約二十五億円の削減を実現することができました。
 とはいえ、名張市は平成十二年をピークとして人口が減少しており、それに伴って税収も減りつづけています。いっぽう、すでに着手されていた公共下水道や区画整理などの大規模事業は、そのまま継続してゆく必要があります。国からの補助金や交付税が削減されていることはいうまでもありません。そうしたマイナスの要素も抱えながら、持続的な発展が可能な小さな地方政府を目指す努力は、現在もたゆみなく進行中です。


住民主体のまちづくり

 二十一世紀における名張市の進路を明確に打ち出すため、平成十六年三月には新しい総合計画を策定しました。「あれもこれも」ではなく「あれかこれか」の厳しい吟味を重ねた結果、市民の暮らしやすさに特化したプランがまとまりました。生活者を起点とし、住民自身の自己決定と自己責任によるまちづくりを基本としたプランです。
 そうしたまちづくりの環境を整備するために、夢づくり地域予算制度というシステムを新設しました。従来の地域への補助金を全廃し、市内全域を十四のブロックに分割、それぞれに地域づくり委員会を設置して、市から委員会に交付金を交付する制度です。住民はみずからの自己決定と自己責任で交付金の使途を決定し、それぞれの地域を主体的に運営してくれています。
 地域を単位としたまちづくりをサポートするいっぽうで、目的やテーマを掲げて活動する市民団体の活性化も図りました。その拠点として公共施設の一室を市民活動支援センターとして開放したほか、各種団体を対象にした公募型委託事業を実現しました。団体から自由な発想に基づく公益事業を募集し、プレゼンテーションを経て採択事業を決定するもので、市から委託料を受けた団体が事業を実施することで、さまざまな成果が積みあげられつつあります。


地域住民のサポーター

 これらの試みを通じて、私は市民に対して、まちづくりの主役は住民自身であるというメッセージを発信しているつもりです。地域の課題は地域で解決することを住民に呼びかけ、行政がそのサポーターとして努力しつづけることを約束することで、名張市のまちづくりに一本の道を切り開こうと考えています。
 この道を進んでゆけば、名張市という自治体における都市内分権が進行し、住民自身の意志をきめ細かく反映したまちづくりが実現されるはずです。コミュニティの再生と地域力の向上が進められ、自治体が現在抱えている問題の多くはおのずから解決に向かうものと信じています。
 住民自治が成熟することで、団体自治もまた充実してゆくことでしょう。新しい総合計画の目標には「福祉の理想郷」の実現が掲げられていますが、それもまた近い将来に現実のものになると確信しています。
 理想の実現へ向けて一歩一歩、着実な歩みをつづけている名張市に、ぜひ一度お運びいただきますようお願いしてペンを置きます。



<掲載>月刊『自治フォーラム』2005年9月号vol.552
62頁 エッセイ自治大OBが語る地方自治99
(財)自治研修協会/編集 第一法規(株)/発行

名張市長  亀井利克
平成17年9月

▲TOP




HOME MENU