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公明新聞 2000年10月11日より転載

  
     
 

第6回チャレンジド・ジャパン・フォーラム2000日米会議

 
     



 
 
だれもが誇りを持って働ける社会に
ダイナー・コーエン米国防総省CAP理事長の講演から
 
 
米国では軍事技術を活用したITによる環境整備でチャレンジドを積極的に採用
「障害者雇用はコストがかかる」は“神話”
「雇用するだけでは不十分」 米国防総省では7割以上が昇進
 
 IT(情報技術)を活用して、障害者や高齢者の就労を支援するNPO(非営利組織)「プロップ・ステーション」(竹中ナミ理事長)が先ごろ、東京都内で「第6回チャレンジド・ジャパン・フォーラム2000日米会議」を開催した。ITによる障害者就労支援で大きな実績を上げている米国防総省コンピュータ電子調整プログラム(CAP)のダイナー・コーエン理事長らが、日本からIT関連企業のトップや官僚、各県知事らが出席した。プログラムの目玉は、コーエン理事長の講演で、米国防総省が障害者雇用に取り組む理由を「すべての国民が誇りを持って働けるようにすることが、国防の第一歩だから」と語るコーエン理事長の言葉は、この日米会議のテーマである「LET'S BE PROUD!」の由来にもなった。ここではコーエン理事長の要旨を紹介する。
 

  

 米国では1990年に、雇用、交通、通信など幅広い範囲で障害者差別を禁止する「障害を持つアメリカ人法」(ADA)が発令されました。マネジャー(経営者や管理職)たちは、「障害を持った人を雇うのにはコストがかかる」と疑問を持っていますが、そうした話は“神話”に過ぎません。

 私たちは、障害を持つ人が健常者と同等に働ける態勢づくり(「調整」)にかかるコストを試算しましたが、31%の人が特別なコストを必要とせず、38%が1〜500j、19%が500j〜1,000j、11%が,000j〜5,000j、5,000j以上は1%でした。

 私も障害を持っていますが、私に必要なことは休憩をとることや、医療を受けることなどです。また、ポケットベルも必要ですが、それらは健常者が使うものと同じです。

 「調整費用」は、私にもかかりますし、障害を持っている人にもかかります。有能な人を雇えば、障害の有無によるコストの差は問題にならないというコンセプト(考え方、観点)を理解することが大事です。

 その意味からも、私は、自分が自分であることに誇りを持っています。このシンポジウムのテーマである“LET'S BE PROUD!”(誇りを持とう)という言葉が大好きです。

 さて、米国は世界で最も強大な軍事勢力で、国防総省では120万人の軍人と70万人の文民が働いています。その中で、CAPは、障害を持つ職員が能力を発揮できるように、機能補助の技術を提供し、情報やチャンスに平等にアクセスできる環境を整えているのです。

 CAPは、発足した90年から99年の間に、障害を持つ職員への「調整」依頼を約1万7,000件受けました。障害を持った職員の進出の道が確保されているかどうかも検査しています。障害者を雇うだけでは十分ではなく、リーダーシップを発揮するポジション(地位)につくことが大切だからです。そして、CAPが「調整」した職員の70%以上が昇進しました。

 CAPが提供できるのは、コンピューターの入力・出力装置、電気通信装置、聴力補完装置、点字など多様な文書化フォーム、通訳、リーダー(声を出して読む人)のほか、トレーニング(訓練)などです。

 聴覚障害者には、その人を支援するためのリスニング・デバイス(聞くための装置)を提供しています。テレタイプライター、テレタイプ・モデム、音量を拡張する増幅装置、目で見て分かるシグナル発生装置、卓上型ビデオテレ会議用装置などです。ビデオテープには字幕がつきます。

 視覚障害者には、書物やコンピューター画面に書いてある文字を音声で出力するスキャナーリーダーやスクリーンリーダーがあります。写真を拡大する装置や、コンピューター画面上の文字を点字で打ち出す装置や、全盲の人が点字でノートを取れる携帯記録装置も提供しています。

 背骨の障害、全身まひ、脳性まひなどで、利き手に障害を持っている人には、手を使わないでできる代替的なキーボード、例えば、頭につけた棒で入力できるヘッドスティックなどを提供します。

 国防総省には、カメラをのぞき込み、その目の動きで武器を発射する「アイ・トラッキング・システム」という軍事技術があります。私たちは、この技術を応用して両手足がまひした人のための入力装置を開発しました。頭に小さいバンドをつけ、脳波を出す「サイバーリンク」と呼ばれる軍事技術を活用した入力装置もあります。また、パイロット用に開発された、音声だけで入力できるシステムもあります。

 障害のない人にとっても、ある人にとっても、情報に平等にアクセスできるように、CAPではいろいろなものを提供しています。そして、だれもがプライドをもって仕事ができるようになるわけです。

 また、米国では、政府機関が障害を持つ人を積極的に雇用しています。CAPは大統領就業委員会と合同して、就業者募集事業のプログラムを行っています。全米160の大学の障害を持った学生にインタビューとテストを行い、その情報をデータベース化します。そして、それをもとに、各省庁は毎年夏、インターンとして多くの学生を雇っています。

 去年は、国防総省が200人以上、他の省庁が100人以上を雇用しました。強調したいことは、能力があり、仕事をしたい意欲を持っている人たちがいて、彼らにチャンスを与えるべきだということです。

 そして、国防総省など連邦機関は、オフィスに行かなくても仕事ができるテレワーク(IT機器を使った在宅就労)の採用を急ぎました。というのは、CAPが1人の障害者に使う「調整」費用は1,000j以下です。しかし、障害の有無に関係なく、1人の人が家にいて失業状態になっていると、政府には1,000j以上のコストがかかります。それよりは、1,000jを使って働ける環境を整えた方がいいからです。

 そうすれば、ただ税金を消費する人ではなく、納税者になってくれます。そして、国の経済に貢献してくれるのです。障害者の71%は、仕事をしたいと望んでいます。この人たちの労働力を使わないでどうするのでしょうか。

 2年ほど前、「悪性腫瘍が脳の中に見つかり、医者に3ヵ月しか命がないと診断されました。私はシングルマザーです。6人の子どもがいます。助けてくれませんか」と言う女性が訪れました。私は、彼女の家にワークステーション(コンピューターシステム)を設置しました。その後、彼女は医者の診断よりも1年以上長く生きました。

 彼女には、非常に前向きな態度があり、仕事を続ける意欲がありました。能力を使い、経験を生かし、最後まで働くことができました。私たちは、彼女に価値を与えられたことに、非常に誇りを持っています。

 テレワークは賢いビジネスのやり方です。マネジャーは最初のハードウェアを買えばいいだけです。エネルギーも削減できますし、会社に来ることが難しくなっても、働いてもらうことができます。

 米国では就業者の平均年齢は47歳です。今後も上がっていきます。今まで障害者を雇ったこともないマネジャーも、10年後には必ず部下に障害を持った人がいるはずです。私たちも皆、年をとります。そのときに、どのような環境が整っていればいいのか、を考えることです。

 こうした中から、ユニバーサルデザインという言葉が出てきました。例えば、ペンタゴンの中で働く人の多くは体の強じんな軍人ですが、階段に手すりがあれば、それを使います。障害者のために設計をすれば、必ず皆にとってもいい設計になるということです。

 最後に、私が国防総省を代表して米国や世界中を回るとき、必ず言うことを紹介させて頂きます。それは、明日のリーダーは、障害を持った人に対してITをどう効果的に使うかということを知っている人だということです。

 障害というのは、いつ、だれに降りかかってくるものか分かりません。スーパーマンを演じた俳優のクリストファー・リーブが、まさにその例です。政府や企業の責任者はこのことを理解してほしいのです。

 そして、いつでも意欲的に、障害者を雇ってほしいのです。もし、私たちが明日にでも障害者になれば、その時は私たちを雇っていただきたいと思います。

 

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