天体写真の撮影法 カメラやフィルムの高性能化に伴い、写真はとても身近なものとなり中学、高校生もよく人物や風景を撮影している。ところが、高校の天文部に入ってくる生徒でも、星の写真を撮ったことのあるものはごくまれであり、天体写真は特殊なカメラを使った難しいものだと思っているものが多い。どのようなカメラでも撮影対象を選べば天体写真を写すことができるので、撮影対象に応じた方法を紹介します。 T,カメラの分類 1眼レフカメラ・・・天体写真全般にわたって撮影可能。オートフォーカス機能は必要ない。レンズをとりはずし交換できるのでさまざまな撮影領域に対応できる。レンズの代わりに望遠鏡を望遠レンズとして使う、またさらに接眼レンズで拡大して撮影することができる。最近の普及タイプには、レリーズが取り付けられない機種、B(バルブ)撮影時に電池の消耗の激しい機種もあるので注意が必要。 コンパクトカメラ・・・シャッター速度が手動で変えられるものであれば、さまざまな撮影が可能。一般的なものは撮影できる対象が限られる。 レンズ付きフィルム・・・シャッター速度1/125〜1/250秒で固定であり、絞りF9程度であるので月の撮影ができる。改造することで星野写真を撮影することができるようになる。 デジタルカメラ・・・コンパクトカメラと同等。ただし、撮影結果がすぐに確認できるので取り直しができる。 ビデオカメラ・・・デジタルカメラと同様。 U,夕方の月を撮る。  どのタイプのカメラでも撮影できる対象は月です。月の写る大きさはフィルム上でレンズの焦点距離の約1/100です。50mmの標準レンズで0.05mmですが、月の模様や満ち欠けのようすは十分わかります。  夕方、空の明るさがどんどん変わっていく中で何枚かシャッターを切れば、オート露出のカメラは自動的に露出を変えながら撮影しますから、月の輝いているところに露出が合う場合、地球照のところに露出が合う場合など、カメラによってさまざまな写真が撮れます。  同様の方法で夕焼けの中の金星や水星も撮影することができます。  マニュアル露出のできるカメラの場合は次の露出表を参考に露出を変えて撮影します。 月の適正露出(フイルム感度 ISO 400) F 5.6 F 8 F 11 F 16 三日月 1/125 1/60 1/30 1/15 半月 1/500 1/250 1/125 1/60 満月 1/1000 1/500 1/250 1/125  撮影する際に注意しなければならないこと。 @ 三脚を使いカメラをしっかりと固定すること。これは天体写真全般についての注意点です。三脚がなければしっかりした台に乗せて固定する。 A レリーズを使い、シャッターを押す際のカメラぶれを防ぐ。レリーズが使えないカメラの場合はセルフタイマーを使うとカメラぶれを防ぐことができる。 B カメラに内蔵されているフラッシュは発光禁止の状態にしておく。近くで写真撮影をしている人や、星を見ている人の迷惑になりますから、十分注意する必要があります。 参考;同様の方法で夕焼けの中の金星や水星も撮影することができます。 V,星座を撮る。(固定撮影)  シャッター速度を数十秒に設定できる、またはB(バルブ)撮影のできるカメラが必要です。  星からの光はとてもわずかなので、長時間シャッターを開けてフィルム上に光をためる必要があります。また、レンズは絞りを開いた状態にして光がたくさんフィルムに届くようにします。 長時間露光をするとその間に星は日周運動で動いていくので線上に写るので、点状に写すには露光時間を考慮する必要があります。レンズは絞りを開放状態で使うと収差のため、星が変形して写ることがあるので、明るい(F値が小さい)レンズは1段ほど絞る方が良いようです  星を点像に写すための露光時間 焦点距離\赤緯 天の赤道 20° 30° 40° 50° 70° 28mm 15秒 16秒 17秒 19秒 23秒 43秒 35mm 12秒 13秒 14秒 15秒 18秒 34秒 50mm 8秒 9秒 10秒 11秒 13秒 24秒   フィルム上での星像の伸びが0.03mmとなる露出時間  実際の撮影手順 ・ 三脚にカメラをしっかり固定し構図をあわせる。 ・ シャッター速度はB、絞りは開放または一段絞る、ピントは∞を確認 ・ レリーズを使って静かにシャッターを開く。 ・ 数秒〜数十秒の露光後、レリーズのリリースボタンを押してシャッターを閉じる。     カメラのぶれを防ぐためには、露光の前後でレンズの前を黒く塗った紙で覆うとよい。 参考;流星や天の川などを写すときは高感度(ISO800,1600)のフィルムを使う。    流星は、数分間露光し流星が写野を流れるのを待つ。天の川は、数十秒から1分程度の露光が適当。 W,暗い星を写す(ガイド撮影)  星は日周運動をしているので、固定撮影で長時間露出をすると流れて線状に写ります。 固定撮影で星を点状に写すには、露出時間を切りつめなければなりませんから、暗い星や星雲星団などはあまり写ってくれません。長時間露出をしてフィルム上にたくさんの光を集めるためには、星の動きにあわせてカメラを動かす必要があります。 日周運動は地球の自転によって生じるので、地球の自転軸と平行な軸を持った赤道儀が必要です。(経緯台式の架台で星を追尾して撮影すると写野が回転して写る。) 撮影方法は、カメラを赤道儀に載せて星の動きを追尾(ガイド)すること以外は、固定撮影と同じ要領です。 追尾は十字の糸を張った追尾用の接眼鏡を使い、望遠鏡で星を見ながらその動きにあわせて赤道儀の赤経微動をゆっくり動かします。モータードライブで自動追尾をするほうが楽で確実です。どちらにしても、赤道儀の極軸はしっかりあわせておく必要があります。 追尾精度、極軸の精度は撮影するレンズの焦点距離によって変わってきます。広角レンズや標準レンズであれば、それほど精度は必要ありません。 X,月を撮る(望遠鏡を使ってクレーターを)  月はとても明るく大きく見える天体なので、望遠鏡を使って案外簡単に撮影することができます。日中に地上を撮影する露出とほぼ同じです。ほとんどの種類のカメラで撮ることができます。1眼レフ以外のカメラレンズのはずせないカメラではコリメート方式で、 1眼レフカメラでは直焦点方式、拡大撮影方式で撮影します。 @ コリメート方式  望遠鏡を肉眼で覗くかわりにカメラに望遠鏡を覗かせて撮影する。  接眼レンズにカメラのレンズを近づけ静かにシャッターを切る。月全面が入っているような倍率であればシャッター速度は1/60秒程度、倍率を上げると暗くなるのでシャッター速度は遅くしなければならない。  1眼レフ以外の撮影像を直接見ることのできないカメラの場合、双眼鏡やファインダーなどの小さい望遠鏡を使ってピントを合わせます。小さい望遠鏡のピントを無限遠に合わせ(星や月に合わせる)、それを使って接眼レンズから覗いて望遠鏡のピントを合わせる。撮影するカメラのピントも無限遠にしておきます。   A 直焦点方式  天体望遠鏡を望遠レンズ代わりにする。  天体望遠鏡の焦点に結ぶ像をそのままフィルムに写す方法で、レンズをはずした1眼レフカメラのボディをアダプターを使って望遠鏡に接続する。専用のアダプターが必要。 焦点距離に応じて月の像は大きくなる。焦点距離1000mmの望遠鏡を使うと月の像は10mm程度になる。 B 拡大撮影方式  天体望遠鏡の焦点に結ぶ像を、接眼レンズで拡大して写す方法で、レンズをはずした1眼レフカメラのボディを接眼レンズの後方にアダプターを使って接続する。専用のアダプターが必要。接眼レンズと接眼レンズとフィルムまでの距離で焦点距離(合成焦点距離)が変わる。大きく拡大することができる。 F値、焦点距離、合成焦点距離について  F値は口径比でレンズの口径をD、焦点距離をfとしたとき F = f / D であらわされます。F値が小さいほど明るいレンズでシャッター速度を速くすることができます。 コリメート方式や拡大撮影方式の場合は上式のfに合成焦点距離を使います。 ・コリメート方式の場合の合成焦点距離   望遠鏡の倍率 × カメラレンズの焦点距離 ・拡大撮影方式の場合の合成焦点距離 ((接眼鏡からフィルム面までの距離÷接眼鏡の焦点距離)−1)×望遠鏡の焦点距離   参考;惑星の写真も同様な方法で撮影します。惑星は小さく暗いので、拡大して撮影するときには、しっかりした赤道儀とモータードライブによる追尾が必要になります。    月も惑星も、拡大して撮影するときには大気の揺らぎの影響を受けぼやけることが多いので、一度に何枚も撮影してその中から大気の影響の少ないものを選び出します。  標準露出時間表(フィルム感度 ISO 400) F8 F11 F16 F22 F32 F45 F64 F90 半月 1/250 1/125 1/60 1/30 1/15 1/8 1/4 1/2 金星 1/10000 1/4000 1/2000 1/1000 1/500 1/250 1/125 1/60 火星 1/1000 1/500 1/250 1/125 1/60 1/30 1/15 1/8 木星 1/250 1/125 1/60 1/30 1/15 1/8 1/4 1/2 土星 1/60 1/30 1/15 1/8 1/4 1/2 1 2 金星・火星は位置によって明るさが大きく変わります。 参考文献   新・天体写真技術  地人書館  天体写真マニュアル 地人書館  天文ガイド     誠文堂新光社  天体写真ガイドブック ビクセン   簡易赤道儀 Y,デジタルカメラで天体写真を撮る  デジタルカメラは、撮影したその場で結果を見ることができ、露出の難しい天体写真には便利なものです。しかし、デジタルカメラの受光素子であるCCDは、通常の仕様では長時間露出をするとノイズがでてくるという性質があり、現在のところ数十秒の露光が限度のようで、ガイド撮影には不向きです。  固定撮影で15秒程度の露出をかけると、星座のかたち程度は写すことができ、手軽に写すという目的にはぴったりともいえます。  デジタルカメラのもっとも得意とする分野は、月や惑星の拡大写真です。レンズのはずせないものがほとんどなので、コリメート方式で撮影します。 デジタルカメラに使われているCCDは非常に小さい(8.8×6.4mm程度)ので、35mmフイルムで撮影するときに比べ拡大率を押さえることができ、露光時間がかなり短くすることができるので、空気の揺らぎの影響が少なくなります。また、露出をモニターで確認しながら何度も取り直すことができるのは大きな利点です。   天体写真撮に適したデジタルカメラ  マニュアル露出ができる。  ピントが無限遠に固定できる。  レリーズ(リモコン)がつけられる  フィルター取り付けネジがある。 6