戻る

国語学研究部会活動報告

 オストアンデルとヒネルトジャー

NT・MT

 

 私たちは、本年度「日本語の諸問題」というテーマで研究部会を開催してきた。その中でオストアンデルとヒネルトジャーということばが話題となった。オストアンデルは「押すと(中の)餡が出る」という意味から饅頭、大福餅、あんぱんなどを指すことば、ヒネルトジャーは「ひねるとジャー(と水が出る)」ことから蛇口を指すことばである。ところが、これを知っている人はある年齢以上に限られるということに気づいたので実際の理解状況がどうなっているのかを調査してみることにした。

 調査は伊勢市内、志摩市内と知人の協力を得て松阪市内などで行った。その結果がつぎのとおりである。

 これをみると五〇歳代以上の人がほとんど「知っている」と答えたのに対し、四〇歳代以下ではほとんど「知らない」と答えている。どちらのことばも外来語風のことばで日本語がもじってある点が共通している。

 理解語彙の面だけでなく使用語彙としての位置をみてみると、

(オストアンデル)

 戦後

 昭和三〇年代

(ヒネルトジャー)

 昭和八〜一〇年

 戦後

 水道が敷設され始めた頃

となっていて、昭和三〇年代としても五〇歳代の人がことばを覚え始めたころとなっている。語種ではオストアンデルで外来語と答えた人が一名、ヒネルトジャーで英語と答えた人が一名あった。

 また、何かがきっかけでそのことばがはやったのかをたずねたところ、オストアンデルではとくにこれといった理由は聞かれなかったが、ヒネルトジャーについては「水道の敷設と関係している」「小学校の水飲み場で先生が言っていた」などの答えが聞かれた。

 米川明彦氏編『日本俗語大辞典』(東京堂出版・平成一五)によれば、オストアンデルは明治三五年(一九〇二)の「滑稽新聞」が、ヒネルトジャーはヒネルシャーともいい昭和六年(一九三一)の『モダン語漫画辞典』が初見となっている。ヒネルトジャーについては調査で得られた昭和八〜一〇年という答えとも時期が一致していて興味深い。

 これらのことから、オストアンデルは明治から使われ始め昭和三〇年代ごろまで、ヒネルトジャーは昭和初期からやはり昭和三〇年代ごろまで面白がって使われたことばということができる。今回の文献を含む調査の中で水道水を「鉄管ビール」、イカ(烏賊)を「アシジュポーン(フランス語風)」、タコを「アシハポーン(同)」、ウナギ(鰻)を「サイテヤーク」、砂糖を「アリヨール」、写真を「スマシテトール」、物覚えの悪い人を「スポントワースル」、怠け者を「ヒビブラリー」、不良少年を「フボクロース」、水泳選手を「マルデカッパー」、雑踏を「スリモオール」、マッチを「スルトヒーデル」、はかま(袴)を「スワルトバートル」、雷を「ヒカルトナール」、郵便配達を「フミクバール」というなど外来語的な音の響きをもつことばを見出した。今後はこうしたことばにも対象を広げながら調査を続けていきたい。

 最後に調査でお世話になった話者の方々に御礼申し上げます。     (二年)