2004年10月前半

●10月1日(金)

 ──心ないものには知れますまい。詩人、画家が、しかし認めますでございましょう。(鏡花)

 などといってるあいだに10月になってしまいました。

 ──心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮(西行)

 けさの当地はまさに秋冷の候、きのうまでとはうって変わって肌寒いほどの気候となり、そぞろあわれが身にしみたりしないでもないのですが、今月も何かと忙しいみたいですからそんなぼーっとしたことばかりもいってられません。

 ──この道や行く人なしに秋の暮(芭蕉)

 それでもなんとなくしみじみしてしまって困ったものですが、芭蕉といえば三重県が天下に誇る「生誕三六〇年芭蕉さんがゆく秘蔵のくに伊賀の蔵びらき」事業もいよいよ11月にはフィナーレを迎えることになると申しますのに、二〇〇四伊賀びと委員会の組かしら会からは公開意見交換会に関してまったく音沙汰というものがもたらされず、してみると組かしら会なんてもう機能していないのかもしれません。

 もしもそうなのだとしたら、めんどくさくてほんとにいやになりますけど、今後は組かしら会のメンバー個々を相手にその存念を確認し、それぞれの非を認めていただくための活動をつづけなければなりません。つまり組かしらのみなさん全員に郵便とかメールとかで、あなたはいったいどうお考え? みたいなことをお訊きすることになるはずで、そんな手間のかかることはさせてくれるなおかしら衆。芭蕉さんマークが泣いとるぞ。

 さて、辻村寿三郎さんの人形芝居「押絵と旅する男」のお話ですが、知人と私が辻村さんにお会いしたのはせいぜい数分のことでした。公演を終えた直後でお疲れのことでしょうから、そんなに長くお邪魔しているわけにもまいりません。私と知人はふわふわ上気したような状態で楽屋をあとにしました。

 この「押絵と旅する男」、私の知るかぎりでは観客の評判すこぶるよろしく(きのうも二人の方からそうした評判をお聞きしました)、観客数の少なかったことが惜しまれますものの、「生誕三六〇年芭蕉さんがゆく秘蔵のくに伊賀の蔵びらき」の隠れたクリーンヒットであったといっていいでしょう。この事業では百あまりのイベントが死屍累々たる凡打の山を築きつつあるわけですから、クリーンヒットならたいしたものです。

 このあと11月14日には、同じく「生誕三六〇年芭蕉さんがゆく秘蔵のくに伊賀の蔵びらき」の一環としてもうひとつの「押絵と旅する男」、つまり新作狂言の「押絵と旅する男」がところも同じ名張市青少年センターで初演されるわけですが、これはどうなんでしょうか。どうして「押絵と旅する男」が狂言なんでしょうか。以前にも記しましたとおり、私にはどうも釈然といたしません。どうしても乱歩作品を原作に狂言を仕立てるというのであれば、私ならたとえば「人間椅子」をとりあげます。これならかなり笑えるはずです。

 と申しますか、そもそも「生誕三六〇年芭蕉さんがゆく秘蔵のくに伊賀の蔵びらき」公式ガイドブックには、この「乱歩狂言」のことが「名張市の誇る先人・江戸川乱歩の作品の登場人物、たとえば怪人二十面相や明智小五郎、少年探偵団が伊賀を舞台として活躍するパロディーあふれる狂言を、大蔵流茂山千五郎家により上演します」と紹介されており、少年もののキャラクターを自在に駆使したオリジナルを手がけるのが順当ではないかと私にも思われるのですが(順当な路線を敢えて外したとも推測されるのですが、それはよこしまな考えだと私は思います)、いったいどうなっているのやら。

 とは申しますものの、どんな狂言に仕上がっているのかは、実際の舞台を観てみるまでは何とも申しあげられません。そろそろチケット販売も始まるみたいですから(詳細は名張市のオフィシャルサイトで告知されるはずなのですが、まだされてないみたいです)、君も行け行け僕も行く、乱歩ファンならこぞってどうぞ。


●10月2日(土)

 落合博満監督率いる中日ドラゴンズが昨夜、ゲームには敗れたものの見事リーグ優勝を果たしました。名古屋のテレビ局にはきのうの中日広島戦を最後まで、試合後の監督インタビューまでずーっと生中継しているところがあったがやでやっとかめ、ウイスキーを飲みながらそれを最後まで、いやそのあとのニュースのビールかけまでしっかりつきあってまった次第でしてなも。もう名古屋弁が無茶苦茶です。

 名古屋といえばあれは今年の4月3日、つまり愛知県は蟹江町で小酒井不木生誕地碑の除幕式が営まれた日のことでしたが、式場でたまたま森下雨村の次男の方とお会いして、その日は結局昼食も夕食もその方にご馳走になってしまったことはこの伝言板でもお知らせしたとおりですが、公式戦開幕翌日のこととて、お昼ごはんのときには開幕投手に川崎憲次郎選手を起用した落合采配への批判を伺ったり、その方は熱烈なタイガースファンでいらっしゃるとのことでしたので、夕ごはんのときには「いやー、きのうの阪神には去年の勢いがそのまま残ってましたね」と軽くお愛想を申しあげたりしたものでしたが、いやはやあっというまにシーズンが終わってしまいました。

 中日ドラゴンズファンのみなさんには心からお祝いを申しあげます。阪神タイガースファンのみなさん、去年の勢いはどうなったのでしょうか。そして巨人ファンである私はと申しますと、今年はひそかに落合ドラゴンズを応援していたのだと打ち明けておきたいと思います。どうも相済みません。

 そんなこんなで俗事に心を惑わされているあいだも光陰は矢のごとくにして学はいずくんぞなりがたし。そもさん何のせいぞ。べけんや。知らんがな。などと悩んでいるところへ二〇〇四伊賀びと委員会事務局からメールを頂戴いたしました。

 中 相作 さま
  いつもお世話になります。
  中さんからのお申出について、組かしら会にて協議する旨連絡させていただきましたが、木曜日に休日があったり、昨日も全体会を開催した関係で、組かしら会を最近2回開催しておりません。
  次回の開催が決まり次第連絡させていただきます。遅くなり申し訳ありませんが、暫くお待ちいただくよう、お願いいたします。

 はーい。

 組かしら会はまだ存続していたようです。それならば組かしらのみなさん個々を叩くことは今回は見送りとし、仰せに従ってあとしばらくはお待ちしてみることにいたしますが、いくら逃げ隠れしても取り返しのつかない非を取り返すことはできませんぜおかしら衆。

 念のために申し添えておきますと、11月21日に「生誕三六〇年芭蕉さんがゆく秘蔵のくに伊賀の蔵びらき」事業が閉幕したとしても、だからといってみなさんの非が帳消しになってしまうということはまったくありゃせんのだがやおかしら衆。組かしら会がなくなったらこちらにはそれこそおかしらのみなさん個々を叩くしか手がなくなるのかもしれないのですから、早いとこ公開意見交換会を開催していただくのがみなさんのためだとも思われる次第です。なも。


●10月3日(日)

 話題が終了したのか継続しているのか自分でもよくわからないのですが、昨日発行の地方紙伊和新聞に新作狂言「押絵と旅する男」の予告記事が掲載されておりましたので、一部を引いておきます。

舞台は名張の造り酒屋。旅の男が酒代の代わりに置いていった押絵。主人と男の駆け引きと、押絵の中の娘。話はどんな展開になるのか。脚本は帆足正規さん、大蔵流狂言師の茂山七五三さんらが出演。

 正直申しあげてやはり全然いい予感はしないのですが、とにかく11月14日、実際に舞台を観てみることにいたしましょう。

 ネット上を検索してみたところ、台本の帆足正規さんは森田流笛方、新作も手がけていらっしゃるそうで、プロフィルその他は「帆足のうと」でどうぞ。七五三(しめ、とお読みください。七五三縄のしめ、と覚えておくといいでしょう)さんはじめ茂山一門のことはオフィシャルサイト「お豆腐狂言 茂山千五郎家」でご覧いただけます。

 大蔵流茂山千五郎家の狂言台本は、手許にある日本古典文学全集60『狂言集』の「凡例」によれば「茂山忠三郎家を含めた各流各派のそれに比べて、もっとも律調感に富み、かつ適宜当世風を加味していて、流動する狂言の、現時点における行きついた姿を示していると思われる」とのことで(ですから同書にも千五郎家の現行詞章が収録されているわけですが)、11月14日の「乱歩狂言」では人間国宝でいらっしゃる茂山千作さんの「萩大名」も演じられますから、こちらは安心してご覧いただける番組としてお薦めできると思います。

 茂山千五郎家といえば新作狂言でも知られており、1979年、つまりSFというジャンルが何の間違いか飛ぶ鳥も落とす勢いであったころ、ジャンルの総帥であった小松左京さんのSF狂言「狐と宇宙人」を上演しておりますし、近いところでは2002年、ジャンルを超えて飛ぶ鳥を落とす勢いの京極夏彦さんによる「豆腐小僧」で話題を呼んだことをご記憶の読者もおありでしょう。

 といったところでふと思いつき、ざっと検索してみたところ、「豆腐小僧」は11月に北海道で公演されるそうで、詳細は「妖怪狂言 京極夏彦&大蔵流茂山家」でどうぞ。「豆腐小僧」評のページもあって、Google でひっかかってきた順にいくつか列挙しておきますと、「「妖怪狂言」レポート」や「妖怪狂言2004。(京極夏彦作)」や「THE TOKYO SHIMBUN MEIRYU」や「THEATER NOTES」あたりをどうぞ。

 乱歩作品が初めて狂言になるわけなんですから、11月14日の「乱歩狂言」だって勧進元である名張市がもう少しちゃんとしてさえいてくれたら、おそらくはそこそこ乱歩ファンやミステリー愛読者の話題を呼ぶことも可能でしょうし、これを名張だけの催しとして終わらせてしまうことなく……、いやいや、何をいったところで致し方はありますまい。そもそも名張市教育委員会ごときに何を期待すればいいというのか。乱歩と狂言が相まみえるせっかくの機会も、なんですかただの消化試合で終わってしまいそうな雲行きです。

 なんかもう、知ーらないっと。


●10月5日(火)

 いやー、きょうも時間がありません。またあしたお目にかかります。


●10月7日(木)

 木曜日になってしまいました。

 二〇〇四伊賀びと委員会事務局から下記のとおりメールでお知らせをいただいております。

 中 相作 様
  いつもお世話になります。
 今週の7日(木)に組かしら会を開催することになりましたので、お知らせします。
 なお、協議の結果については、報告させていただきます。
 よろしくお願いします。

 7日木曜といえばきょうのこと。今夜の組かしら会で公開意見交換会に関する協議を進めていただく運びとなり、なんですかプロ野球参入のための公開ヒアリングに臨むライブドアだか楽天だかの社長さんのような気分です。

 しかしまあ、二〇〇四伊賀びと委員会にしても三重県にしても、いくらなんでもそろそろしっかりするべきでしょう。

 三重県といえば、きのうの中日新聞の社説で三重県がまた叩かれておりました。タイトルは「なお見直しに知恵出せ ごみ固形燃料」。死者二人を出す爆発事故を起こした三重県のごみ固形燃料(RDF)発電所が、えーいとばかり住民の反対を押し切って操業再開に至ったことを批判する内容で、「公共事業の安全性とか、住民の理解に対する考えが、三重県では常識とずれているらしい」と相当手厳しい論調なのですが、たしかに三重県の「常識」はちょっとおかしいなと、三重県が天下に誇る官民合同事業「生誕三六〇年芭蕉さんがゆく秘蔵のくに伊賀の蔵びらき」に照らしてもそのように感じられる次第です。

 三重県ってなんか変なの、との思いを込めて、社説の一部を引いておきましょう。

 RDFの焼却から発電まで行う今回の操業再開に至る経過も、とうてい納得できるものではない。

 全国約六十カ所のRDF関連施設の大半で、出火などの事故が起きているが、昨年八月の三重の施設の連続爆発は、不祥事として最大規模だった。特に、二人が死亡した事実の意味は重い。

 同県の事故調査委員会は昨年十一月、一応の結論を出したが、爆発の火種は特定できず、警察の捜査は今も継続中だ。事故の仕組みが十分解明されたとはいえず。事故にかかわった業者も排除されていない。RDFの長期貯蔵をやめた程度で、いくら企業庁が安全性確認を繰り返しても、住民の不安はぬぐえまい。

 それにもかかわらず、同県はことし三月から試運転を始め、九月下旬から本格稼働を再開した。いずれも住民の強い反対を押し切ってのことである。

 本格稼働再開を前に八月から九月にかけ、関連地域で県が開いた説明会でも、住民の反対意見が大勢を占めた。ところが県は「住民の一定の理解が得られた」という。そんな都合のよい解釈がどこからでてくるのか。再稼働の方針が初めからあり、説明会は単なる儀式だったか。

 同県のRDF施設は、北川正恭前知事の時代に建設され、野呂昭彦現知事に代わってから事故は起きた。野呂知事のもとで、すべてのしがらみを断ち、RDFからの脱却を含めたごみ処理のあり方を根本的に見直す機会になったはずだ。

 前知事時代のしがらみを断ち、根本的な見直しを進めなければならなかったのは、単なる予算のばらまきにしか過ぎない「生誕三六〇年芭蕉さんがゆく秘蔵のくに伊賀の蔵びらき」事業においてもまたしかり。そのことを私は一年以上も前から訴えており、今度の公開意見交換会の席におきましても、もしかしたら話の流れでまた訴えることになるかもしれないのですが、組かしらのみなさん、どうぞよろしくお願いいたします。


●10月11日(月)

 ……ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく。

 ぷはっ。息継ぎに浮上してまいりました。あまのはらふりさけみればきょうの日本は休日のようなのですが、こちらはこのところ水面下に潜りっぱなしで急ぎのお仕事に手を染めておりました。というか、手を染めております。

 それはもう犠牲にできるすべてのことを犠牲にして、と申しあげたいところなのですが、なかなかそうもまいりません。たとえばこれは8日金曜のお話。朝からサイトの更新もほったらかして水面下に潜っておりましたところ、名張市立図書館から拙宅に電話が入りました。

 きょう午前10時半から名張市立図書館で催される歴史読書講座の講師はおまえが担当することになっておるのだが、よもや忘れてはおるまいな。

 ありゃりゃ。ころっと忘れておりました。

 全国の自治体は深刻な財政難に直面しており、むろん名張市も例外ではありません。景気のいいころなら図書館の講座においてもちゃんと講師をお迎えし、むろん講師料も些少ながらお支払いできていたわけなのですが、講師料さえままならなくなっているというのが財政難の実態です。市職員などただで喋ってくれる講師を寄せ集めかき集め、青息吐息の桃色吐息、かろうじて歴史読書講座を維持しているような状態で、不肖カリスマにも無料講師の一員として白羽の矢が立っていたのですが、ころっと忘れておりました。

 ありゃりゃ、と思い、急いで服を着替えて図書館まで馳せ参じましたところ、歴史読書講座の会長さんが心配そうな顔をして玄関で待っていてくださいました。挨拶もそこそこに二階視聴覚室に飛び込み、壁のデジタル時計を見ると10時27分。ぎりぎりで間に合って無事に講師を務めることができた次第です。

 歴史読書講座というくらいですからテーマは歴史。名張の歴史について何か喋るようにとのことだったのですが、もとより何の準備もしておりません。致し方ありませんから11月1日に伊賀市が発足することに想を得て、名張ではなく伊賀地域の歴史を題材にして責を塞ぎました。内容的には伊賀地域の悪口をつらつら並べ立てただけの話だったのですが、こういう話題はすごく受けます。大受けでした。あまりにも受けましたので、喋ったネタのいくつかを漫才にして発表することにしたほどです。

 お話は変わりまして、とはいえ同じく8日のことですが、二〇〇四伊賀びと委員会事務局から下記のようなメールをいただきました。公開意見交換会を開催せよ、という私の要請を同委員会の組かしら会で協議していただいた、その報告です。

 中 相作 さま
  いつもお世話になります。
  名張市でのフィナーレ期間も間近に迫り、お忙しいことと拝察いたします。
  お待たせしておりましたが、昨日(7日)に組かしら会を開催し、中さんからの申出について審議しました。
  その結果、以前お知らせしましたように、組かしら会を開催する日に、別途意見交換の時間を設けさせていただくということになりました。

  ご希望に添えず申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

 どうやら組かしら会のみなさんは、公開ということがよほどお気に召さないもののようです。事業の計画を密室のなかで決定し、予算の詳細もひたすら隠蔽したまま本日に至っているわけなのですから、公開意見交換会なんてとてもとても、といったところなのでしょうか。

 いやまいったな。どうやって懲らしめてやりましょうか。懲らしめると申しますか、組かしらのみなさんにものの道理と人の道とを理解していただくためには、何をどうしたものじゃやら。みたいなことをじっくり考える余裕もなく、私はまた水面下に戻らなければなりません。それでは大きく息を吸い込んで。

 ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく……