2007年12月
7日 「プレイボーイ」の国内オールタイム・ベスト・ミステリー 100
11日 コンファレンスに行ってまいりました
16日 コンファレンスも遠くなりました
19日 年の瀬の惜別のせつなさについて
 ■12月7日(金)
「プレイボーイ」の国内オールタイム・ベスト・ミステリー 100 

 師走を迎えて、早くも一週間が経過してしまいました。ひいひい。

 先月と今月の「RAMPO Up-To-Date」、本日記載分です。

新聞記事
乱歩の足跡 佐藤仁彦
朝日新聞 夕刊
11月22日 朝日新聞名古屋本社
沿線彩々(第145回)JR 参宮線(第4回)鳥羽

関連文献
「江戸川乱歩の名古屋」 馬場伸彦
なごや四百年時代検定 公式テキスト
11月29日 名古屋商工会議所(発売:中日新聞社)
編:なごや四百年時代検定実行委員会
第四章 浪漫の街、名古屋三 産業革命と名古屋コラム

雑誌特集
祝! 日本推理作家協会60周年
小説現代 12月号(45巻14号)
12月1日 講談社
グラビア 7頁
若き乱歩賞作家 薬丸岳×曽根圭介が歩く東京乱歩ツアー 山前譲(監修)、但馬一憲(撮影)
推協貼雑年譜 写真で見る日本推理作家協会60年の歩み
 山前譲(監修)
推協の歩み 山前譲

ウェブニュース
日本推理作家協会:60周年迎え、ファンと交流イベント 内藤麻里子
毎日 jp
12月3日 毎日新聞社
エンターテインメント芸術・文化

 ひいひいいってるうちにもう2008年、という気の早い雑誌もあります。

関連文献
PLAYBOY が選ぶ、国内オールタイム・ベスト・ミステリー 100
プレイボーイ 1月号(34巻1号/396号)
1月1日 集英社
選:大森望、北上次郎、日下三蔵、新保博久、関口苑生
特集《ミステリー徹夜本をさがせ!》

 それでいったいどんなランキングなのかというと、ベストテンはこんなぐあいです。

01 『山田風太郎明治小説全集7 明治断頭台』 山田風太郎/ちくま文庫
02 『火車』 宮部みゆき/新潮文庫
03 『広瀬正小説全集1 マイナス・ゼロ』 広瀬正/集英社文庫
04 『天藤真推理小説全集6 殺しへの招待』 天藤真/創元推理文庫
05 『なめくじに聞いてみろ』 都筑道夫/扶桑社文庫
06 『亜愛一郎の狼狽』 泡坂妻夫/創元推理文庫
07 『ボッコちゃん』 星新一/新潮文庫
08 『背いて故郷』 志水辰夫/新潮文庫
09 『占星術殺人事件』 島田荘司/講談社文庫
10 『黄土の奔流』 生島治郎/双葉文庫

 ひぇーッ、とお驚きの向きもおありでしょうが、どうぞご心配なく。百位以内にはわれらが乱歩も入っております。

28 『日本探偵小説全集2 江戸川乱歩集』 江戸川乱歩/創元推理文庫
1923年、乱歩の登場で日本の近代探偵小説は始まった。本書は明智小五郎の推理が冴える「心理試験」から変態幻想の極地「人間椅子」、中編「パノラマ島奇談」「陰獣」も含め、巨人の幅広い全体像が1冊で見渡せる。
50 『孤島の鬼』 江戸川乱歩/角川ホラー文庫
恋人の初代を密室殺人事件で失った蓑浦は、彼女の家系図に隠された秘密を追って友人の諸戸と共に岩屋島に向かう。そこで明らかになる壮絶な地獄絵図とは? 乱歩の怪奇趣味が遺憾なく発揮された冒険ミステリーの傑作。

 ひとりで二点ランク入りしてるのは、乱歩のほかには山田風太郎ただひとり。ただし、光文社文庫の『江戸川乱歩と13の宝石』が九十八位に食い込んでますから、もしも軍配をあげるとしたらやっぱり乱歩になるでしょう。

 以上、「プレイボーイ」2008年1月号の話題でした。それではどちらさまもよいお年をお迎えください。いやいや、そんな気の早い。山田風太郎といえば7月に出た『わが推理小説零年』のこともまだ「RAMPO Up-To-Date」に記載しておらず、そういえば戸板康二の『松風の記憶』にも乱歩のことを綴った短いエッセイが収録されておりましたし、鷲田小彌太さんの『昭和の思想家67人』にも乱歩がとりあげられていたけれど、こちらはいまだ眼も通してないというていたらく。年内にまだまだひいひいいわなければならぬようです。


 ■12月11日(火)
コンファレンスに行ってまいりました 

 12月7日から9日までの三日間、京都にある立命館大学で「国際乱歩コンファレンス」なる催しが開かれました。「RAMPO Up-To-Date」的にはこんな感じです。

催事
国際乱歩コンファレンス
12月7日−9日 立命館大学衣笠キャンパス創思館カンファレンスルーム
テーマ:江戸川乱歩とグローバル文化としてのモダニズム
主催:立命館大学国際言語文化研究所
協力:ニューヨーク大学、モントリオール大学、マッギル大学
第1日目
Opening Address 
グローバリゼーションのなかの孤独な巨人、乱歩 中川成美
セッション1 
1920〜30年代の国際探偵小説と日本探偵作家 William Gardner(司会)、大森恭子(コメンテーター)
Boredom, Perversion and Pleasure-Killing(Lustmord) in Rampo's Stalker in the Attic Seth Jacobowitz
Generic Self-Awareness and the Genres of Modernity Christpher Hill
Collecting the Self: Rampo on Rampo Yoshikuni Igarashi
Delinquent Production: the Crime of Labor in Edogawa Rampo Tom Looser
第2日目
セッション2 
乱歩、昭和エログロナンセンスの探偵小説と映画/映像メディア 浦谷一弘(司会)、中村三春(コメンテーター)
錯視の快楽──押絵と旅する男 林淑美
Rampo's Film Theory and Film Criticism Livia Monnet
江戸川乱歩における映像──幻燈と映画 鈴木貞美
パノラマ、戦争、映画──『パノラマ島奇譚』をめぐって Thomas LaMarre
セッション3 グローバルなメディア社会における、乱歩文学の翻訳、影響、パロディー、再編成 西成彦(司会)、William Gardner(コメンテーター)
Found in the Street : Modernity, Delinquency and Crime Yukiko Hanawa
Jorge Luis Borges's Crime Fiction: The Dictatorship of the Dagger
 Alberto Moreiras
Bodily metamorphosis: Edogawa Rampo and Matsumoto Seicho
 Steve Corbeil
第3日目
セッション4 
乱歩研究の前線:書誌、作品再分析、乱歩資料発掘とその資材の活用について 村田裕和(司会)、菅聡子(コメンテーター)
立教大学と乱歩研究 藤井淑禎
ポー、乱歩、安部公房──坂手洋二『屋根裏』に見る都市窃
視者の伝統 巽孝之
都市・怪人・少年──二十面相の源流
 浜田雄介

 私は英語がからっきしで、コンファレンスが会議を意味する英語だということさえ知りませんでした。風邪薬の名前ではあるまいけれど、といった程度の察しはつきましたけれど、まさか乱歩をめぐる国際的な会議が開催されることになろうとは。

 立命館大学オフィシャルサイトのこのページにもとづいて国際乱歩コンファレンスの歴史をあとづけてみますと、六年あまりさかのぼって2001年の3月22日、AAS(アメリカアジア学会)のプレセッションとしてシカゴで開かれたのが第一回。北米を中心とした日本研究、アジア研究、大衆文化研究、ジェンダー研究などの研究者が集い、RAMPO なるタームを軸にモダニティ研究が展開されたとのことです。第二回は2007年、つまり今年の4月6日と7日の両日、ニューヨーク大学で催された「Workshop Edogawa Rampo」。領域としての乱歩スタディーズが話し合われ、それを受けて新たなステップを踏み出すべく、比叡おろしがはんぱではない12月の京都で第三回が実現されたということになります。

 なにしろ英語がからっきしですから、ちょいと覗いてみるとしたら発表がすべて日本語で行われるらしい三日目しかないなと決め、9日の日曜、近鉄名張駅を午前7時27分に発車する京都行き特急に乗り込んで、うちはー比叡おろしーですねーん、とかなんとか口ずさみながら千年の古都に向かいました。午前9時前には京都駅に着き、駅前から立命館大学までの市バスに乗って、発車は午前9時15分。立命館大学のオフィシャルサイトにはこのバスの所要時間は三十五分と書かれていたにもかかわらず、実際には四十五分ほどかかりましたので、午前十時開会のコンファレンスには少しだけ遅れて入場する仕儀となりました。

 私は英語にも縁がありませんがそれ以上にアカデミズムとは無縁ですので、もとよりこうした催しに出席するのははじめてのこと。うしろから二列目の席にちょこんと坐って謹聴していたのですが、案ずるほどのことは何もありませんでした。何を案じていたのかわれながら不明なのですが、やがて休憩の時間。屋外に出て、なぜかチンドン屋のそれらしい楽の音が聞こえてくる喫煙所で煙草を吸い、会場に戻ると、いちばん前の席にいらっしゃった方が駆け寄ってきてくださって、じつに丁重なご挨拶をいただきました。今回のコンファレンスの主催者代表、といったポジションの方で、思いもかけないことでびっくりしてしまい、どうして面が割れているのだろうと犯罪者のようなことも考えながら、コンファレンスの後半に突入。

 えーっと、あすにつづきます。


 ■12月16日(日)
コンファレンスも遠くなりました 

 12月11日付伝言の末尾に「えーっと、あすにつづきます」と記したのは真っ赤な嘘だったという結果になってしまいました。なんとも相済みません。日の暮れ方というのはサイト更新には向かない時間帯であるようで、まだ用事が終わっていなかったり、新しい用事がまぎれこんできたり、あるいは面倒さが先に立ったり、やっぱりお酒が恋しくなったりで、そうこうしておりますうち、わずか一週間前のことだというのに立命館大学で催された「国際乱歩コンファレンス」からずいぶん日が経ってしまったように感じられるきのうきょうです。

 コンファレンスはとても面白かったといいますか、興趣深かったといいますか、あるいは、ひさしぶりでお会いできた方もいらっしゃいましたので、それだけで嬉しく楽しい時間を過ごすことができました。見聞きしたことをいろいろ記そうかと考えていたのですが、というのも、なにしろ研究者の集うコンファレンスに立ち会うのは初めてのことでしたから、何を見聞きしても新鮮で興味深い。たとえば壇上での発表のあとにセッションワーキングと名づけられた時間があって、要するに参加者と発表者による質疑応答のことなのですが、なかにおひとり、とても堅気の衆とは思えない貫禄で鋭い質問を矢継ぎ早にくりだす方がいらっしゃって、会場には緊迫感のようなものがみなぎっていたと私には感じられ、おーくわばらくわばら、とか思って首をすくめていたのですけれど、あとで知ったところによりますとその方こそ、乱歩関係でいえばたとえば新潮日本文学アルバム『江戸川乱歩』の編集と評伝を担当された方なのでした。おーくわばらくわばら。何がくわばらなんだかよくわかりませんけど、とにかくそうした場にいあわせたこと自体、私にはすこぶる面白い体験でした。

 あとまだいろいろと話題はあり、まったくの部外者であったにもかかわらず関係者のために用意された松花堂弁当をぱくぱくご馳走になったことや、アメリカから参加されたトムさんとおっしゃる研究者の方といつか京都で湯豆腐を食べようと約束したことや、そんな些細なあれこれがほんとに楽しかったなあというささやかな思い出をこの小さな胸に秘め、国際乱歩コンファレンスの話題を終わりたいと思います。

 あとは映画の話題を少々。乱歩原作というよりは北村想さん原作の映画です。中日スポーツのオフィシャルサイトから引用いたしましょう。

金城武主演「怪人二十面相」 劇場公開までストーリーは極秘
 東宝は13日、08年の作品ラインアップを発表。江戸川乱歩の小説でおなじみの「怪人二十面相」が登場する「K−20 怪人二十面相・伝」を金城武(34)主演で映画化することを明らかにした。公開は09年1月で、ほかに松たか子(30)、仲村トオル(42)らが出演する。

 原作は北村想さんの「完全版 怪人二十面相・伝」。1949年、架空の都市・帝都を舞台に、結婚を控えた松演じる華族の令嬢・葉子、仲村演じる名探偵・明智小五郎の結納の時、謎の紳士から写真撮影を依頼され潜入した金城演じる人気曲芸手品師・平吉が、二十面相に仕立てられるストーリー。

 平吉が、二十面相の目的を探るため、二十面相と対決すると、この日明らかになったストーリーはここまでで、金城が実は二十面相である可能性もあり、劇場公開までストーリーはベールに包まれたままだ。

中日スポーツ 2007/12/14

 サンケイスポーツでは「金城武&松たか子出演映画「怪人二十面相」来年12月公開予定」、報知スポーツでは「「ホームレス中学生」東宝が映画化…十数社争奪戦の末ゲット」と報じられておりました。来年も乱歩人気には一点の翳りもないようです。

 ついでですからもうひとつ、朝日新聞の記事もお読みください。三重県鳥羽市の話題です。

文化発掘、心豊かな地域に
◇◆「鳥羽みなとまち文学館」館長 岩田準子さん(40)◆◇

 ーー鳥羽商工会議所が02年から、鳥羽市の中心市街地で進めてきた鳥羽みなとまち文学館の整備が一段落しましたね。

 文学館整備は、地元の埋もれた歴史や文化を掘り起こし、観光資源として活用する「エコミュージアム事業」の一つです。わが国の探偵小説の父、江戸川乱歩や叙情画家の竹久夢二と交流があった画家で風俗研究家の岩田準一(1900〜45)の家を改修し、数多くの資料を展示しました。

 ーー内部はどうなっていますか。

 乱歩や夢二のほか、渋沢敬三、柳田国男、南方熊楠、横溝正史らと準一が交わした書簡、準一の書斎を展示する「岩田準一と乱歩・夢二館」。乱歩の作品を和紙人形などで再現した白壁土蔵の「幻影城」。乱歩のベレー帽や眼鏡、万年筆、準一が乱歩の作品に描いた挿絵の原画、乱歩が撮影した海女さんたちの映像を上映するシアターもある「乱歩館」などです。昭和30年代にタイムスリップしたような小路も11月22日から公開されました。いずれも無料です。

asahi.com 2007/12/12

 三重県名張市はいったいどうしているのかな。


 ■12月19日(水)
年の瀬の惜別のせつなさについて 

 朝日新聞の文化面に「惜別」という欄があって、取材などでかかわりのあった記者が物故者の業績や人柄をしのぶといったおもむきの記事が掲載されています。夕刊のない当地では12月15日だったのですが、一般的には14日付夕刊に掲載されたのが、天城一さんの「惜別」でした。満面に笑みをたたえた天城さんの写真も、当地ではモノクロだったのですが、夕刊ではカラーであったそうです。

新聞記事
数学者・推理作家 中村正弘さん病と付き合い二足のわらじ 内村直之
朝日新聞 夕刊
12月14日 朝日新聞大阪本社/名古屋本社
惜別

 引用いたします。

 47年に推理作家としてデビュー、数学研究による20年のブランクを挟んで、70年代から執筆を再開した。「教程」が05年、本格ミステリ大賞の評論・研究部門受賞。昨年4月、文理融合をテーマにした朝日新聞の科学面連載に登場していただいた。「インタビューの代わり」と、受け取った一通の手紙がある。
 「書いた動機は(江戸川)乱歩さんのトリック万能主義に対するプロテストでした」。「教程」は密室犯罪小説の制作マニュアルと実作例という構成を持つ。乱歩は「類別トリック集成」で、トリックを分類したが、どうすれば作れるかは書かなかった。「(数学では)分類できれば構成できる……密室犯罪を構成する方法を与えたのです」。数学を応用した「巨匠への挑戦」だった。
 晩年、人に会うことはほとんどなかったが、親しい仲間とは手紙で付き合った。そのだれもが、段ボール箱数箱分の手紙を大切にしている。

 天城さんから最後にいただいたおたよりは、と思い出してみると、今年の1月、これは私にではなく、地域の名門三重県立名張高等学校の昨年度マスコミ論受講生に頂戴したものでしたが、お送りしたリーフレット「名張まちなかナビ」へのお礼をいただいたのが最後でした。11月3日に発行した今年度の「名張まちなかナビ2.0」もお送りしたのですが、天城さんは11月9日に逝去なさいましたから、ごらんいただけたのかどうか。12月17日の月曜日、マスコミ論の冬休み前の最後の授業で、「惜別」の記事と天城さんから頂戴した1月27日付の礼状、とちらもコピーをとって生徒に配ったのですが、年の瀬を迎えて、なんだかせつないことである。

 あと、きのう本屋さんで受け取ってきた文庫本とコミック誌から。

作品収録
押絵と旅する男
マイ・ベスト・ミステリー VI
12月10日 文藝春秋 文春文庫
編:日本推理作家協会
旧版:『推理作家になりたくて マイベストミステリー 第六巻 謎』文藝春秋(2004年4月25日)
初出:新青年 昭和4年6月号
関連文献
出会い 都筑道夫
初出:旧版
関連文献
編集委員特別座談会 「作家の原点がわかるアンソロジー」 阿刀田高、北村薫、新保博久、宮部みゆき
初出:旧版

漫画
パノラマ島綺譚 丸尾末広
コミックビーム 1月号(14巻1号/通巻146号)
1月1日 エンターブレイン
連載第7回(最終章)
原作:パノラマ島奇談

 丸尾末広さんの「パノラマ島綺譚」は来年1月30日、エンターブレインから単行本が出る予定となっております。迷わずどうぞ。