2008年8月上旬
1日 岩波文庫の話題をふたつ
2日 東元さんの『江戸川乱歩怪奇短編集』
3日 劇団フーダニットが「ナイル殺人事件」
4日 当代の異常な事件にとって乱歩とは何か
5日 夕刊朝日新聞における発見について 上
6日 夕刊朝日新聞における発見について 下
7日 北京オリンピックはあす開幕です
8日 「少年少女乱歩手帳」のお知らせ
9日 ロータリアン江戸川乱歩
10日 「少年少女乱歩手帳」その後
 ■8月1日(金)
岩波文庫の話題をふたつ 

 8月を迎えました。あいかわらず暑い日がつづきます。生後七か月を経過した当家の小春も、小春というのは犬の名前なのですが、このところの暑さにぐったりしております。

 乱歩をめぐるこの月最大の話題といえば、これはもう誰が何といおうと、岩波文庫に乱歩の短篇集が登場するということでしょう。版元のサイトの新刊紹介「江戸川乱歩短篇集」によれば、発行日は19日、収録は全十二篇で、うちタイトルが明かされているのは「二銭銅貨」「心理試験」「押絵と旅する男」の三作。となると、残りの収録作品を予想したくなるのが人情というやつでしょう。ちょっと試みてみましょう。

 01 二銭銅貨
 02 D坂の殺人事件
 03 心理試験
 04 赤い部屋
 05 屋根裏の散歩者
 06 人間椅子
 07 踊る一寸法師
 08 火星の運河
 09 鏡地獄
 10 芋虫
 11 押絵と旅する男
 12 目羅博士の不思議な犯罪

 あたりまえすぎて曲というものが感じられないセレクトで、たとえば「人でなしの恋」あたりも入れたかったのですが、なにしろ岩波文庫の緑帯です。オーソドックスなところでまとめておくことにいたしました。ご閲覧諸兄姉も戯れに予想してごらんになってはいかがでしょうか。

 岩波文庫といえば、4月に出た十川信介さんの『近代日本文学案内』が類書にないユニークさで面白く読めました。木で鼻をくくったような近代文学史の概説とは一線を画し、版元のサイトの「近代日本文学案内」の紹介文からも知られるとおり、故郷と都会、他界と異界、交通と通信といったモチーフを軸にして日本近代の文学が語られます。乱歩作品にも結構筆が割かれていて、だったら岩波文庫で乱歩の短篇集くらい出しゃいいのにと不満に思っていたところ、ほんとに『江戸川乱歩短篇集』が出ることになってちょっとびっくり。「屋根裏の散歩者」が紹介されたあたりを引用しておきます。

 『屋根裏の散歩者』は、職業に就くのはもちろん、「どんな遊び」をしても面白くない「一種の精神病者」、郷田三郎が、刺激を求めてアパートの屋根裏から住人の私生活を覗き、虫の好かない男を殺してしまう話である。ここでも主人公は精神異常と規定されているが、大都会の日常生活が文明の装置、制度によって画一化されるに従って、それに順応できない人物の遊民化も増大した。彼らは都会の夜を浮遊して、きらびやかな光景にささやかな満足を求めるのが普通だが、中にはさらなる刺激を望んで、心の中に「異常」な欲望を飼う人物も現われてきた。谷崎が描いた人物たちや、この郷田もその一人である。
 近代文明は正常と異常とを「科学的」に分節化したから、堅気の生活をしていない彼はその内訌した欲望によって、「一種の精神病者」と識別されてしまうのである。彼はそれまでの下宿から新築の鍵のかかるアパートの個室に移り、その押入れの蒲団の上で寝るのを快楽とするが、繭の中に閉じこもることを好みながら一方で他人の私生活を盗み視するのは、彼が他者との直接的関わりを避けると同時に、どこかで他者との接触点をキープしたいからである。現代の若者が他者との接触を嫌いつつ、ケータイに熱中するのと一脈通じるところがあるのかもしれない。

 乱歩はいつも懐かしく、それでいて不思議に新しい、といったところでしょうか。


 ■8月2日(土)
東元さんの『江戸川乱歩怪奇短編集』 

 集英社の「ビジネスジャンプ」とその増刊「BJ魂(びーじゃんこん、とお読みください)」に発表された東元(あずまげん、とお読みください)さんの連作漫画が単行本『江戸川乱歩怪奇短編集〜赤い部屋〜』にまとめられました。「BJ魂」編集部の方から掲示板「人外境だより2008」に7月18日発売とのお知らせをいただき、さっそく当地の本屋さんに赴いたのですが、お取り寄せになります、とのことでがっくり。そのお取り寄せ分がようやく入荷しました。

 収録作品は版元のサイトの「江戸川乱歩怪奇短編集〜赤い部屋〜」でご確認いただくとして、乱歩の代表作六篇を「赤い部屋」における語りとしてまとめた趣向が秀逸。その趣向のため結末に加えられたひねりも決まっていますし、第六話「赤い部屋」のランディングも、これは人によって異論のあるところかもしれませんが、「赤い部屋」のオフリミットにふさわしいものと思われます。それに何より、レトロという言葉をそのまま絵にしたような東元さんの画風がまことによろしく、もうひとつの乱歩世界をみごとに描いて楽しませてくれます。乱歩ファンならぜひどうぞ。


 ■8月3日(日)
劇団フーダニットが「ナイル殺人事件」 

 暑いと思います。誰が何といおうと暑いに決まっていると思います。暑さのせいで伝言を記す余裕もなく、本日は「人外境だより2008」に一件投稿しただけで冷えたビールにまっすぐ突進したいと思います。

 忘れてました。ミステリ劇を専門に手がける劇団フーダニットから第八回公演のお知らせをいただきました。たぶんとても暑いであろう8月下旬、クリスティの「ナイル殺人事件」が上演されます。詳細は公式サイト「Whodunit」でどうぞ。


 ■8月4日(月)
当代の異常な事件にとって乱歩とは何か 

 吉本隆明さんの『日本近代文学の名作』が新潮文庫に入りました。「江戸川乱歩『陰獣』」が収録されております。「現代物なら、内田康夫が好きだ。浅見光彦シリーズなど、ほとんどすべて読んでいる」となんだか意外なことをおっしゃる吉本さんの「陰獣」評、ちょっと引用いたします。

 ところで、『陰獣』の中の SM の描写は、今ならどうってことはないと言ってよいのかもしれない。今なら子供が読んでも、たいして好奇心をそそるものではないに違いない。でも、わたしの少年時代には、恐ろしいぐらいに性的な好奇心を誘った。美人のうなじから背中にかけてミミズばれのような傷痕があるとか、天井裏から下の部屋で変態的な行為をしている男女をのぞくという想定に、びっくりした覚えがある。
 ただ、何が性的異常なのかと突き詰めるとわからなくなる。たとえば、近年よくストーカーというものが問題になり、精神の異常と解釈されることもあるけれど、あまりに相手の異性に執着が強いためにつきまとうのかどうか、その動機は多様で単一の根拠からはわからないと言えると思う。
 最近の少年たちの事件を見ていてもそうだ。犯罪を犯した少年たちは精神異常なのか、そうじゃないのか。異常と言って片づけたくないし、異常と正常の転換は短周期なのだというのがわたしの考え方だ。単に異常と言って片づけてしまえば、文学は成り立たない。異常と言って、すべてすましてしまうのではなく、これも人間性の中にある要素なんだ、というところからしか、文学は生まれないのだと思う。

 乱歩作品から当代の異常な事件を連想するのはいわば定番の発想なのか、スポーツ報知に掲載された姜尚中さんのインタビュー記事でも、当代の若い衆が起こした事件と乱歩作品とが結びつけられております。

「悩んでいる」は「生きる力を持っている」ということ…姜尚中著「悩む力」
 本書では「他者との相互承認の中でしか、人は生きられない」と繰り返し語りかける。そして「生きる意味を確信できないと、人は絶望的になる」とも。

 例えば、秋葉原の無差別殺傷事件。「容疑者の携帯サイトの書き込みを全部読んだ」という姜さんは、江戸川乱歩の小説「鏡地獄」を連想したという。鏡に異常な嗜(し)好を持つ男が、内側が鏡で覆われた球体に入ったが、やがて発狂してしまうという話だ。

 「僕のイメージでは、彼はそういう世界にいたんだと思う。目には見えないけど、鏡の球体の中に閉じこもり、そこが自分の世界になっている。他者が見えず、見えているのは自分だけ。彼が殺したのは、自分自身でもあったんじゃないか」

 今年に入って、無差別殺傷事件が多発している。容疑者に共通しているのは「他者とのつながり」を拒否し、自己の肥大化に悩まされた姿だ。

 「苦しくても、悩むことをやめてはいけない。秋葉原事件の容疑者が残した最後の書き込みは『時間です』。これは、悩むことをやめた瞬間でもあった。彼は事件直前、1時間ぐらい逡巡(しゅんじゅん)した跡がある。少しでも友人・恋人など他者とつながっていれば…と思う」

 悩み抜いた果てに「悩みを突き抜けて、横着者になれ」というのが、姜さんの究極のメッセージだ。そして「そんな新しい破壊力がないと、今の日本は変わらないし、未来も明るくない」と悩める若者を鼓舞する。

スポーツ報知 2008/08/04

 他者とのつながりなどという暑苦しいものは、できれば願い下げにしたいものだと私なんか思うわけですけど、そのせいで毎日なんとなく絶望的な感じがしているのかもしれません。だからといって、そんなだいそれた事件なんてとてもよう起こしませんけど。


 ■8月5日(火)
夕刊朝日新聞における発見について 上 

 サイトの更新をサボっていたあいだ、いつのことかというと5月のことなのですが、乱歩作品にかんする発見がありました。大発見というわけではないのですが、発見は発見です。本日はその発見について。

 『江戸川乱歩執筆年譜』を編纂していたとき、平井隆太郎先生から大量のコピーをお送りいただきました。おもに新聞の切り抜きをコピーしたもので、乱歩が書いた随筆の初出紙面ということになります。あまりの嬉しさに狂喜乱舞したものでしたが、なかにこんなのがありました。

 「頭の体操」の第五問を乱歩が担当しております。昭和25年3月31日という日付は紙面で確認できますから、これは間違いありません。しかし、「朝日新聞」という乱歩の書き込みは疑ってかかる必要があります。乱歩を信用していないわけではないのですが、こうした場合、ちゃんと裏を取ることが要求されます。書き込みによれば乱歩はこれ以外にも何回か出題したとのことで、4月と6月に掲載された出題のコピーはあったのですが、それ以外のものも調べなければなりません。

 国立国会図書館で、まず昭和25年3月31日の朝日新聞を調べてみました。「頭の体操」なんてどこにも掲載されていません。おっかしいなあ、と思ってその前後の号などもチェックしてみたのですが、やはり見つけることができませんでした。そのあと、平井隆太郎先生にお目にかかって、これはいったいどうしたことでしょうかとお訊きしたところ、おそらく版が違うのではないか、とのお教えをいただきました。新聞学のオーソリティでいらっしゃる隆太郎先生のお言葉ですから、そういうものかと思い、それ以上の調査は放棄して、『江戸川乱歩執筆年譜』の昭和25年4月の項にはこんなぐあいに記載しておきました。

第五問 推理[頭の体操]
朝日新聞 31日
出題。4・6月にも一回ずつ掲載。「このほかに数回あり」という

 で、私が放棄してしまったその調査を完璧になしとげたという鬼のような方がいらっしゃって、ですから今回の発見はすべてその方の手によるもの、私はただその調査結果をお知らせいただいただけなのですが、経過をざっとたどってみますと、その方によれば、これはやはり朝日新聞に間違いないと紙面から察しがついたとのことでした。根拠は何か。私はそんなことに気がつきもしなかったのですが、クロスワードパズルの「タテのカギ」に「サザエさんの令弟○○○クン」というのがありますから、サザエさんといえば朝日であるとの結論に達するのが道理です。

 で、さらに調べを進めると、漫画「サザエさん」が初めて世に出たのは昭和21年4月22日の夕刊フクニチで、朝日新聞における連載開始は昭和24年12月1日の夕刊。これが朝日新聞の夕刊第一号だったらしいのですが、あいにくなことに縮刷版にも国立国会図書館のマイクロリーダーにも夕刊は収録されていないとのこと。ならばとつてを頼って朝日新聞東京本社の保存分を調査なさった結果、当時は朝日新聞とはべつに夕刊朝日新聞という新聞が発行されていたらしいのですが、その夕刊朝日新聞の昭和25年3月31日号にたしかに乱歩の出題が掲載されていたそうです。けっして大発見ではありませんが、まぎれもない発見です。なんか気の遠くなるような話ですけど。

 唐突ですが、あすにつづきます。


 ■8月6日(水)
夕刊朝日新聞における発見について 下 

 きのうのつづきです。乱歩が昭和25年、夕刊朝日新聞の「頭の体操」に寄せた出題の全容はこんなところだったようです。ただ日付だけをお伝えしても面白くも何ともありませんから、それぞれどんなトリックが使用されていたのか、鬼のような調査を敢行された方からお知らせいただいたままをあわせてお知らせいたします。

3月31日……「夢遊病者の死」のトリック
4月07日……「鬼」のトリック
4月14日……花火の偽銃声でアリバイをつくる
4月21日……グロルラー「奇妙な跡」のトリック
4月28日……トラックが跳ねた氷片による事故死
6月02日……贋作ホームズ「指名手配の男」のトリック

 ネタ割っちゃまずかったかなとも思うのですが、まあいいでしょう。どんな出題だったのかを知りたいとおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、そのうちまとめて活字になる気配ですから、そのときまたあらためてご紹介することになると思います。ならなおさらのこと、ネタ割っちゃまずかったのかな。


 ■8月7日(木)
北京オリンピックはあす開幕です 

 本日は乱歩の話題をお休みして、あす開幕式が挙行される北京オリンピックについて少々。なんと俗悪な話題か、と自分でも思うのですが、四年の歳月がめぐりめぐって、遠縁の娘がふたたび金メダル狙いで出場いたします。特段のご声援をお願い申しあげたいと思います。

 思い起こせば2004年、初出場となりましたアテネ五輪におきましては、このサイトで私自身の縁戚関係を赤裸々に告白してご声援をお願いした甲斐あって、女子レスリング五十五キロ級でぶっちぎりの優勝を果たしましたものの、今年1月に中国で開催された女子ワールドカップ団体戦で不覚にも判定負けを喫し、これが国際大会初黒星、連勝記録も百十九でストップする仕儀となりました。

 無敵だったはずの女王が一敗地に塗れて泣きじゃくる姿をテレビ画面でまのあたりにし、われら縁戚一同、夜も眠れぬほどの悔し涙に泣き濡れた者もあったのかもしれませんが、おかげさまで私はまったくそんなことはなく、あまり記憶はないのですけれど、あいかわらず酔っ払ってばかりいる日常を送っていたのではないかと思い返されます。なんと無情冷淡な縁戚か。

 しかし、遠縁の娘は酔っ払いの縁戚など歯牙にもかけず、敗戦を機にひとまわり大きく成長して、燦然たる金色のメダルだけを目標に敢然とリングに立つことになりました。そういうことらしいです。メディアの報道によればどうもそのようです。そのあたりのことは、たとえば日経 PB ネットの「北京五輪への道」シリーズ第十三回「レスリング 吉田沙保里(前編) 敗戦こそ最大の良薬」、第十四回「レスリング 吉田沙保里(後編) 手のひらの察知力」をお読みいただければと思います。

 北京五輪レスリング競技の日程は、Yahoo!スポーツの「レスリング フリースタイル」あたりでどうぞ。


 ■8月8日(金)
「少年少女乱歩手帳」のお知らせ 

 たぶんそれだったりすると思います。といきなり記しても何のことだかおわかりにならないでしょうが、2ちゃんねるミステリー板乱歩スレ「【悪魔の紋章】 江戸川乱歩 第十二夜」の「460-462」をご覧いただけば一目瞭然。8月5日から6日にかけて伝言板の話題にした乱歩の出題、そのうち活字になるらしいことは私も聞き及んでおり、いずれ刊行されたらわかるだろうと構えていたのですが、9月9日発売のミステリー文学資料館編『江戸川乱歩の推理教室』(光文社文庫)であることまでは知りませんでした。たぶんこれで間違いなかったりするだろうと思います。

 それで本日は、名張ロータリークラブ謹製「少年少女乱歩手帳」の話題です。とはいえこの件に関してはブログのほうにあれこれ記しておりますので、手抜きのようなれどそちらをお読みいただくことにして──

 ・6月28日:コンサルはじめました
 ・7月05日:やなせ塾第二回の日である
 ・7月15日:少年少女乱歩手帳完成?
 ・7月16日:少年少女乱歩手帳完成!

 名張ロータリークラブから百部ほど貰い受け、暑中見舞がわりにあちらこちらお送りしましたところ評判すこぶるよろしく、ちょっとまとめて送ってくれと千円札同封のリクエストをいただいたり、結構なんやかんやいたしました。これはえらいこっちゃと思い、名張ロータリークラブからさらに百部あまりを届けていただいて、きのうときょうとでようやく追加発送を終えた次第です。

 しかし、お送りすべきところにうっかりお送りしてないケースもあるでしょうし、私が存じあげない方のなかにもぜひ欲しいとおっしゃる声があるかもしれません。そんなこんなで「少年少女乱歩手帳」、入手希望をメール(stako@e-net.or.jp)でお寄せいただけば、四の五のいわずどーんと無料でお送りいたします。ただし残部はいささか僅少。お早めにお申し込みください。いやまあ、名張ロータリークラブにはまだまだ残ってるはずなんですけど。いつも乱歩関連情報の収集でお世話になってる2ちゃんねる乱歩スレのみなさんも、よろしかったらお気軽にどうぞ。


 ■8月9日(土)
ロータリアン江戸川乱歩 

 きのうの伝言に名張ロータリークラブ謹製「少年少女乱歩手帳」のことを記しましたところ、さっそくお申し込みをいただきました。なかにおひとり、私の7月16日付ブログ記事「少年少女乱歩手帳完成!」をリアルタイムでお読みになり、待ってましたとばかり名張ロータリークラブの事務局に連絡をお入れになったところ、「少年少女乱歩手帳」は郵送しておりません、事務局まで受け取りに来てくださる人だけに配付しております、との返答を得たとおっしゃる方がありました。いやはや、わざわざ遠方からお声をかけていただいたというのに、じつに気の利かないことで困ったものです。名張ロータリークラブのみならず名張市そのものの印象が、こうやって少しずつ少しずつ悪いものになってゆくわけなのですが、とりあえずその方にはメールをお送りし、「なにしろご町内のことしか頭にない田舎者のこととて、ご寛恕いただければと思います」と名張ロータリークラブの会長になりかわってお詫びを申しあげておきました。

 それにしてもロータリークラブなどというものは、あるいはライオンズクラブなどというものも、実際ろくなものではないのではないかと、私にはそのような印象があります。活動内容についてはほとんど何も知るところがないのですが、何が社会奉仕か、何が国際奉仕か、あんなものはごくごく狭いご町内で奉仕という名の自己満足に酔い痴れてるだけの無教養きわまりないスノッブ集団ではないか、とか私はつねづね思ってるわけで、しかし名張ロータリークラブから「少年少女乱歩手帳」のお仕事を頂戴したのですから滅多なこともいっておられません。それにだいたい、「少年少女乱歩手帳」をご覧いただいた方はおわかりでしょうけれど、平井憲太郎さんが東京池袋西ロータリークラブの会員でいらっしゃって、今年度はたしか会長の重職にお就きだとも仄聞いたしますので、いよいよ滅多なことを口にできるものではありません。しかもなお具合の悪いことに、乱歩もまた晩年の一時期ロータリークラブに所属していたとのことなんですから、滅多なこと口走ってたらしまいにゃ天罰がくだってしまうことでしょう。

 今年の4月6日、名張市内の会場で名張ロータリークラブ四十五周年記念例会が催され、平井憲太郎さんが「フリーターからロータリアンへ」と題した記念講演をなさいました。6月に発行された四十五周年記念誌にはその講演録が収録されていて、憲太郎さんのおはなしの全容を知ることができます。名張ロータリークラブから記念誌を頂戴いたしましたので、同クラブをはじめ全世界のロータリークラブの末永い発展を心から祈念しつつ、講演録の結び二段落を引用。校正洩れと思われる箇所もそのままといたします。

 戦後になり、人嫌いが直ったとたん、逆の方向に活躍を見いだし、動いてしまうようなわけなんです。それが最終的には、1959年に池袋にロータリーができました。東京で8番目のそうそうたるメンバーが集まり、乱歩はその時のチャーターメンバーで、リストを残しております。非常に有名な方ばかりで、大正製薬の社長とか、西武の堤さんらがメンバーで入っておりました。その中の一人として立ち上げに参加したんですけれど、先ほど言いましたけれど、パーキンソン病が酷くなってきて例会に出るのも容易でないということと、それとうちの父には金がかかってたまらんと言ってたらしいんです。今のロータリーと違い、そういう有名な人ばっかりだったので、一年間しか在籍しないで引退をしております。
 結果的に私もロータリーにお誘い頂いて池袋西クラブに参加させて頂いて地域に対して奉仕していくという様な事がどういう意味なのかという事は、祖父から教えられる部分があります。名張の方々と一緒に協力して今後、すばらしい成果が残ればうれしいと思っております。これからも乱歩の孫と言うことをのけて、クラブ同士のお付き合いを末永くお願いしたいと思います。

 戦後の乱歩は山田風太郎をして、あれじゃ江戸川乱歩じゃなくて江戸川濫費だといわしめたほどのお金持ちだったわけですが、上には上があるといいますか、ロータリアンとして大正製薬だの西武だのといった企業の社長さんクラスとつきあうとなると、さしもの乱歩もお金がかかってたいへんだということにならざるを得なかったもののようです。なんだか空恐ろしいような話です。


 ■8月10日(日)
「少年少女乱歩手帳」その後 

 あいかわらず暑いわ、もうすぐお盆だわ、北京五輪はやってるわ、親戚の幼稚園児は遊びに来るわ、犬は玄関で小便ちびるわ、ゆうべお招きにあずかったさるお座敷では「短パンかよ」といきなり叱られてしまうわ、そんなこんなで何も手につかない感じの日曜ですが、きょうもきょうとて「少年少女乱歩手帳」のお申し込みをいただきました。きのうの受注分とあわせ、あした発送いたします。残部はまだあります。メール(stako@e-net.or.jp)でお気軽にお申し込みください。