2008年12月上旬
1日 人間豹がへろへろです
2日 風邪で喉をやられつつ歌舞伎と映画の話題
3日 復刻版の話題を二題
4日 理解が届かぬものについて
5日 知らなかったふたつのフォーラム
6日 平穏な週末はいつ訪れるのか
8日 小西昌幸さんの奮闘に敬意を表す
10日 12月10日に開幕するもの
 ■12月1日(月)
人間豹がへろへろです 

 またまたご無沙汰してしまいました。ぼーっとしているうちに師走となってしまいました。このところ週末には必ず七転八倒してしまうほどのあわただしさだったのですが、おとといの土曜ときのうの日曜はひさしぶりに平静で心穏やかな休日となり、とか思っていたら昨日夕刻、東京に住んでいる知人が訪ねてきたものですからふたりで鍋をつつきながら焼酎とワインを気が狂うほど飲んでしまい、きょうもきょうとてしんどいしんどい。しかも数日前から風邪気味で、そこへもってきてきのうの夜、記憶にはまったくないのですが気が狂うほどお酒を飲んでからふらふら犬と散歩をしたらしく、けさは風邪の症状が一気にひどくなっていてなんかもうへろへろです。

ご声援にあらためて感謝いたします

 ここでお知らせしておきます。ご閲覧諸兄姉からも熱烈なご声援をいただき、おかげさまでオリンピック女子レスリングで二連覇を飾りました遠縁の娘、吉田沙保里嬢を親戚縁者が十重二十重と取り巻いてわあわあきゃあきゃあいう集いが11月15日の土曜日に奈良県内の会場で催されました。出席者にもれなくプレゼントされた色紙がこれ。

 色紙のおまけがこの写真。

 それにしても、北京五輪なんてずいぶん昔のことのように思えてくるから不思議なものです。

 11月15日といいますと、私は港区南青山にある日本推理作家協会の書記局で開かれた土曜サロンという催しでお喋りをしておりましたので、遠縁の娘を囲む祝宴には出席できなかったのですが、土曜サロンまでにちょっと時間がありましたので戦勝祈願でもしてやろうかと明治神宮に足を運び、しかしそれほど時間もないことに気がついてすごすご引き返した次第でした。ともあれ、遠縁の娘にひきつづきご声援を頂戴できれば嬉しく思います。

芦辺拓さんと横井司さんの講演会

 もうしばらくすると財政が景気よく破綻してしまうらしい名張市が日本推理作家協会の協力を得て開催するなぞがたりなばり講演会、今年は芦辺拓さんをお招きして11月22日の土曜日に催されました。報告は私のブログの23日付記事「なぞがたりなばり報告 上」、24日付記事「なぞがたりなばり報告 下」でどうぞ。

 11月24日の月曜日には、神戸市中央区東川崎町の横溝正史生誕地碑建立四周年を記念したイベントが東川崎地域福祉センターで催されました。講師は横井司さん。テーマは「横溝正史の探偵小説論」。横溝正史と松本清張の探偵小説観に意外な相似が存在するという興味深い内容でしたが、それにしても横井さんは喋りにくかったであろうなと思います。前のほうには偏狭きわまりない探偵小説マニアが、その後方にはおそらく映像化作品でしか横溝正史の作品に接したことがないのではないかと思われる地域住民のみなさんが陣取っていらっしゃいましたから、ずいぶんやりにくかったであろうなと拝察される次第です。

 ともあれ、芦辺さんの講演も横井さんの講演も、偉そうなことをいうようですがそれぞれに人柄がよく表れたじつに好ましいものでした。私もたまに頼まれた講演で受け狙い一直線の漫談化傾向まっしぐら、みたいな路線は考え直したほうがいいのかもしれません。


 ■12月2日(火)
風邪で喉をやられつつ歌舞伎と映画の話題 

 ちょっと更新をサボってたらウェブニュースを拾うだけでもたいへんです。めぼしいところをごらんいただきましょう。それにしても風邪でやられた喉が痛い。

歌舞伎「江戸宵闇妖鉤爪」

 11月3日から26日まで国立劇場で上演された「江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)」、いわゆる乱歩歌舞伎ですが、評判はかなりよかったようです。

 毎日新聞:歌舞伎:乱歩作品を初の歌舞伎化 「江戸宵闇妖鉤爪─明智小五郎と人間豹」上演(11月6日)
 毎日新聞:歌舞伎:「江戸宵闇妖鉤爪…」(国立劇場)/「法界坊」(平成中村座)(11月20日)

 第二弾の上演も決定しました。

 中日スポーツ:幸四郎&染五郎 “乱歩歌舞伎”大盛況で来年10月第2弾(11月19日)
 日刊スポーツ:幸四郎、染五郎の乱歩歌舞伎第2弾が決定(11月19日)

 乱歩も観劇?

 スポーツニッポン:「ゾクッ…」幸四郎の楽屋に乱歩先生出現?(11月23日)

映画「K-20 怪人二十面相・伝」

 乱歩歌舞伎のあとに控えるのは二十面相映画とでも呼ぶべき「K-20 怪人二十面相・伝」。こちらも前評判は上々のようです。

 MovieWalker:【完成披露舞台挨拶】冒険活劇「K-20(TWENTY)怪人二十面相・伝」が完成!主演の金城武や松たか子、仲村トオルらが、愉快な現場をトーク(11月27日)
 読売新聞:怪人二十面相は誰? 金城武ら「K-20」完成あいさつ(11月27日)


 ■12月3日(水)
復刻版の話題を二題 

 風邪というやつは永遠に治らんのかという気がしてきたところですが、とにかく喉が痛くて飲食にさえ難儀するありさまです。そんなことはともかく本日は乱歩の著書の話題。

あと四巻を残すのみとなった復刻版乱歩全集

 昨年11月を最後に刊行がストップし、ポシャってしまったのかと思っていたところ今年6月に力強く復活して、以後は順調な配本がつづく桃源社版江戸川乱歩全集の復刻版、版元である沖積舎の用字を踏襲するなら覆刻版ですが、全十八巻ですからいよいよあと四巻を残すのみとなりました。

 まったくひもとかれることなく本棚に直行する全集というのも珍しいような気がしますが、色がきれいですからいわゆる書棚の肥やしとしてきわめて貴重であるという気もいたします。

いきなり六点ポプラ文庫版少年探偵シリーズ

 いきなり降って湧いたように出版されたのがポプラ文庫版の少年探偵シリーズ六冊。ポプラ文庫というのが本邦文庫戦争に参戦し、田辺聖子さんの短篇集なんかを出していたのは知っておりましたが、まさか乱歩の少年探偵シリーズの復刻版をラインアップしてくるとは予想もしておりませんでした。

 六冊とも帯に映画「K-20 怪人二十面相・伝」の宣伝が入り、怪人二十面相の本名が遠藤平吉であると明かされた『サーカスの怪人』がやや不自然な感じで加えられていますから、北村想さんの『怪人二十面相・伝』映画化を当て込んだ企画であることは明らかでしょうが、このあと残りの巻も刊行されるのかどうかが気になるところです。

 この六点が売れたら出る、といったところなのかもしれませんが、どうせなら代作であることを明示したうえで、ある時期たしかに乱歩その人の作品として流通し、読者の心に忘れがたい印象を刻んでいたリライト作品も、四の五のいわずにすべて文庫化してもらいたいものだと私は思います。

 あるいは、これをしも団塊ビジネスと呼ぶべきかとふと思い当たりもしたのですが、団塊の世代向けの商売はたいがいこけるというのが通り相場だとも聞き及びますから、過大な期待はできないまでも、団塊の世代のみなさんにぜひともご購入いただければ、続刊の希望が繋がれるのではあるまいか。


 ■12月4日(木)
理解が届かぬものについて 

 まだ本復しておりません。なんかそこらの病院の待合室で年寄りが病気自慢に興じてでもいるような観を呈してまいりましたが、風邪はまだ治っておりません。ただし、風邪による喉の痛みにはヨードグリセリン(ルゴール液)がよく効くとメールで教えてくださった方があり、とはいえきょうは薬屋さんに足を運ぶ余裕がありませんでしたので、あすにはぜひ試してみたいと思います。もっともけさ起きたときには、あ、きょうはかなり楽だなという実感がありましたので、あすの朝には薬に頼ることなく無事本復ということになっているかもしれません。なっていてくれたら嬉しいな。

ゲームソフト「怪人二十面相DS」

 人間、馬齢を重ねると理解の届かぬことが増えてくるものらしいとしみじみ了解される昨今なのですが、これもまたそのたぐいか。怪人二十面相がゲームソフトになりました。などと書いていながらよくわからないわけですが、12月18日にタカラトミーから発売されるとのことです。

 ソフトの名前は「怪人二十面相DS」。「DS」というのはまさかとは思うけど「Detective Story」の略なのか。そんなことが気になりましたので調べてみたところ、やっぱりそんなことは全然なくて「Double Screen」の頭文字なのだといいます。何がダブルなんだかがまたよくわからんわけですが、馬齢を重ねますと理解の届かぬことに気を揉んでみても仕方がないということも了解されてまいりますので、横着かまして次の話題へ。

いつのまにか放送終了「二十面相の娘」

 理解が届かぬといえば、アニメというやつももうひとつ理解できないものになってきたのかもしれんなと思い返されたりもする昨今なのですが、今年4月に放送が始まったテレビアニメ「二十面相の娘」は9月に放送を終えておりました。当地では午前3時だか4時だか、そんな時間の放送でしたから第一回を視聴しただけ、あとはもっぱらこのサイトにもとづいて放送日やタイトルを記録するのみというていたらくでした。

 愛想のないことですまんかったな。


 ■12月5日(金)
知らなかったふたつのフォーラム 

 おかげさまで本復いたしました。そこらの薬屋さんでヨードグリセリンがどうのこうのと尋ねてみたところノズルをつけて使用する「のどぬーるスプレーミニ」とかいうのを薦められましたので購入し、家に帰って大きく口を開けてノズルをできるだけ喉の奥まで挿入しておいてやおらキャップを押しますってえとミスト状になった薬液が噴射されて患部を癒してゆくのがよくわかりました。きょうは朝の時点できのうよりさらに痛みが引いておりましたから薬石の効もあって勇気百倍、今夜は楽にお酒が飲めるものと思われます。

乱歩フォーラム2008「ミステリー小説講座」

 先日上京したとき、だったのか、なぞがたりなばりが開かれたとき、だったのか、どうも記憶が曖昧なのですが、いずれにしてもお酒の席で人から教えられて初めて、立教大学で「読売江戸川乱歩フォーラム2008」が催されたことを知りました。9月27日のことです。ネット上にあった新聞広告の画像をそのまま無断転載。

 そういえば、2005年のこのフォーラムはたしか10月の開催で、映画「乱歩地獄」の上映があったりいたしました。私も上京して顔を出し、次の日の夜明けを迎えたのは新宿ゴールデン街、それでもって新宿駅から山手線の始発に乗ってうっかり置き引きに遭ってしまったものですからどうもこの読売江戸川乱歩フォーラムの印象はよくないなあ。むろん読売新聞のせいでも立教大学のせいでもないのですが、なんかよくないなあ。

演劇フォーラム「乱歩が歌舞伎になった」

 新作歌舞伎「江戸宵闇妖鉤爪」上演中の国立劇場では11月22日、「乱歩が歌舞伎になった」と題したフォーラムが開かれました。これも知りませんでしたが、やはりネット上にあったチラシの画像をそのまま無断転載。

 フォーラムに参加したとおっしゃる方から頂戴した手紙によりますと、座談のコーナーで松本幸四郎さん、台本の第一稿を読んでこの本ならいい舞台になると確信したとおっしゃったそうで、ところが岩豪友樹子さんの台本はじつに第八稿まで練りあげてようやく完成したといいますからえらいものです。


 ■12月6日(土)
平穏な週末はいつ訪れるのか 

 今週こそ、今週こそは平穏な週末になるであろうと祈るような気分で過ごしていたのですが、今夜は縁戚の一部がどやどやと押しかけてくることになりました。風邪がぶり返すかもしれません。あしたはあしたでまたえらく寒くなるらしいのに戸外を歩き回る用事が入っておりますし。たまらんなあまったく。

ラジオ「27人の証言」

 TBSラジオの「爆笑問題の日曜サンデー」という番組に「27人の証言」というコーナーがあって、10月19日に乱歩がとりあげられたそうです。実際の証言者は二十七人ではなくて八人だったようですが、オフィシャルサイトの「27人の証言」から引用。

1人目 美輪明宏さん/当時16歳の美輪少年と乱歩さんの出会の話
2人目 原田裕さん/講談社で乱歩担当。ストリップの少女の生き方に興味
3人目 西村京太郎さん/実は乱歩は男色家だった・・・?!
4人目 飛鳥高さん/乱歩の隣に住んでいた。社会性のある人で実業家の側面
5人目 高木晶子さん/作家高木彬光さんの娘。父のデビューに多大な影響
6人目 横溝亮一さん/横溝正史さんの長男。父と乱歩は恋人のようだった
7人目 平井憲太郎さん/実の孫。旧・江戸川乱歩邸の応接間でインタビュー
8人目 新保博久さん/乱歩研究者の第一人者。乱歩はコンプレックスを持っていた

 TBSもまあ新保さんのお名前にだけ尊敬の意を示す接尾語「さん」をつけ忘れるというおまぬけぶり。僭越ながら補っておきました。

福袋「池袋街歩き福袋 池ふくろ〜」

 無事に年が越せるかどうかとても不安な身ですから、せめて初春に向けたおめでたい話題をお届けしたいと思います。

西武・東武百池袋本店 「福袋」で豊島区とタッグ
 西武百貨店池袋本店、東武百貨店池袋本店と豊島区は1日、共同で企画開発した福袋「池袋街歩き福袋 池ふくろ〜」を発売すると発表した。

 サンシャイン国際水族館や池袋演芸場などの池袋周辺の7施設の利用チケットや、両百貨店のレストラン街の食事チケットなど3万円以上のセットが2960(ふくろう)円というお買い得で販売される。

 東京メトロ副都心線が開通し、地域間競争が激化していることから、ライバルの2百貨店に加え、自治体がタッグを組み、地域興しの一環として企画された。テーマはブームになっている街歩きで、各施設からの協力を得た街ぐるみの福袋となった。

 複数百貨店と行政が合同で福袋を企画したのは全国でも「初めてではないか」と西武百の藤嶋幸男店長と東武百の橋本啓二店長は意義を強調した。豊島区の高野之夫区長は「地域一体となって池袋の魅力を発信して、街づくりにつなげたい」と期待を込めた。

 日本繊維新聞の12月3日付「西武、東武、豊島区、3者がスクラム、街歩き福袋が登場」によれば、街歩きのスポットは(1)サンシャイン60展望台・国際水族館入場券(2)あうるすぽっと観劇券(3)都電荒川線回数券(4)旧江戸川乱歩邸特別見学券(5)自由学園明日館喫茶つき入場券(6)熊谷守一美術館入場券(7)池袋演芸入場券(8)西武・東武池袋店レストラン街食事券。土地勘というやつがまるでありませんからもうひとつピンとこないのですが、あの豊島区でさえ地域間競争における危機感からこうした試みに着手しているわけです。わが名張市もたとえば「名張まちあるき不幸袋 たまらんな〜」なんてのを考えてみるべきかもしれません。


 ■12月8日(月)
小西昌幸さんの奮闘に敬意を表す 

 本日はゲゲゲの鬼太郎が二回も登場します。

先端的硬派雑誌「ハードスタッフ」12号

 十五年のブランクを経て先端的硬派雑誌「ハードスタッフ」12号が発行されました。渾身の追討総力特集「林直人の夢の丘」にちなんで表紙には「魔人ドラキュラ」のベラ・ルゴシが跳梁。

 小西昌幸さんの責任編集による個人誌ですが、多岐にわたる好奇心を持続させてきた人間の稀有な個人史として読むことも可能でしょう。わけても特集、なかんずくインタビュー「林直人、かく語りき」は、林直人と小西昌幸というふたりの人間の個人史が正面から渡り合い、渦を巻くようにして読む者の魂にじかに響いてくる内容です。読後はただ粛然。

 注文カード付きのチラシから引用しておきましょう。

『ハードスタッフ』十二号◎B5判・一九二頁◎定価〔本体価格一六〇〇円プラス税〕◎二〇〇八年十月二十八日発行

■昔「ゲゲゲの鬼太郎」で目玉のオヤジは、鬼太郎が人生最大の危機に陥ったとき、「幻の汽車」を走らせ我が子を救ったのだった。その「幻の汽車」は、愛する者が傷つき倒れたとき、それを心底救いたいと願う強い心があって初めて、遠い地の果てからやってくるのだという■今、雑誌界にも「幻の汽車」が走ろうとしている。人の心と自然が汚れきった新世紀初頭、深く澄んだ精神の脈打つ雑誌が「幻の汽車」のように走ろうとしている■人はそれが『ハードスタッフ』というミニコミの十二号であることをやがて知ることになるだろう。そしてその発行までの十五年間の苦闘を、人は己の胸に問うことになるだろう■同志諸君誠に誠に永らくのお待たせだった。大地を揺るがせて『ハードスタッフ』堂々帰還!■地方・小出版流通センター取扱い。最寄りの書店から注文できます。「地方・小出版流通センター取扱いの先鋭疾風社発行『ハードスタッフ』十二号を注文します」とお伝え下さい。二週間程度で届きます●

 12号の発行を心待ちにしていた向きも少なからずあるようで、ざっと検索してみたところネット上の反響はこんなあんばい。目次や購入方法はそれぞれのリンク先でご確認ください。

 take38のROCKブログ「ハードスタッフが出る!!」(10月10日)
 JOJO広重BLOG「ハードスタッフ12号への思い」(10月26日)
 おさきまっくろ「『ハードスタッフ』の帰還」(10月27日)
 JOJO広重BLOG「ハードスタッフの購入方法」(11月7日)
 古書・古本ブログ 七つ頭の古本屋日誌「先端的硬派雑誌 HARDSTUFF(ハードスタッフ)12号」(11月27日)
 タコシェショップブログ「ハードスタッフ 12『追悼総力特集・林直人の夢の丘』」(11月28日)
 蟲日記「ハードスタッフ中国地区担当」(11月29日)
 K-CLUB BARMY ARMY「"HARD STUFF"でドーーーン!!」(11月29日)
 ナンダロウアヤシゲな日々「小西昌幸さんとトークします」(12月1日)
 古書ドリス「HARD STUFF ハードスタッフ 第12号(ミニコミ)
 模索舎 新着入荷アイテム「先端的硬派雑誌 ハードスタッフ 第12号

 おまけです。

 コケカキイキイ時事通信〜思考のリハビリ・マガジン「【kokeka No.33】「ハードスタッフ」1」(2005年6月29日)
 コケカキイキイ時事通信〜思考のリハビリ・マガジン「【kokeka No.34】「ハードスタッフ」2」(2005年6月30日)

 きのうはいいお天気だったのですがきょうはまた寒く、心身ともに萎縮してしまいそうな12月。「ハードスタッフ」12号に力づけられたという向きもまた少なくないであろうと推測されます。小西昌幸さんの奮闘に心からの敬意を表したいと思います。みずからと引き比べて内心忸怩たるものも覚えてしまいますけれど。

千葉女児殺害事件

 千葉県で9月に発生した女児殺害事件の容疑者がお縄になり、供述に乱歩の名前が出てきたと一部で報じられておりますので、どうだっていいようなことですけど記録しておきます。

【幸満ちゃん事件】「図書館にいた」→「一日、家にいた」。事件当日のアリバイ
 しかし、事件とは関係のない、普段の生活について聞かれると多弁になった。読書が好きで、江戸川乱歩をよく読んでいたという。「テレビなら時代劇を見ますね。『篤姫』の宮崎あおいが好きだから」と軽い口調になった。

勝木容疑者、無断欠勤1か月…事件前日付で退職
 事件後、現場近くの住人として、報道各社の取材を受けていた。その際、「あこがれていたゲゲゲの鬼太郎に近づきたいので、げたを履いてます」「江戸川乱歩の本など怖い話が好きで、近所の図書館には毎日行きます」などと冗舌に話すこともあった。
YOMIURI ONLINE 2008/12/07

 乱歩の影響でなんとかかんとか、といったことではまったくありません。本日付産経新聞の「【幸満ちゃん事件】プリキュア、聖闘士星矢、ブリーチ…容疑者自室に子供向け漫画、犯罪性は見当たらず」には乱歩の名前などどこにも出てきませんし。


 ■12月10日(水)
12月10日に開幕するもの 

 12月10日を迎えました。

 ──一九五四年の十二月十日。外には淡い靄がおりていながら、月のいい晩であった。お酉様の賑わいも過ぎた下谷・竜泉寺のバア“アラビク”では、気の早い忘年パーティの余興が始まろうとして、暖房のきいた店の中は、触れ合うグラスと、紫煙と人いきれで、熱っぽくざわめいていた。

 あるいは──

 この当時、──だが、一九五四年という昔の出来事を正確に記憶されている向きも、いまは少ないであろう。日本流にいって昭和二十九年というこの年には、すこぶる陰惨な事件が多く、警視庁の調べによると、年間の殺人件数も、未遂を含めて三千八十一件、一日あたりほぼ八件という未曾有の新記録を樹立しているほどだが、そのほかにもこの年が特に意味深いのは、たとえば新年早々に二重橋圧死事件、春には第五福竜丸の死の灰、夏は黄変米、秋は台風十五号のさなかを出航した洞爺丸の顛覆といった具合に、新形式の殺人が次から次と案出された年だからでもある。

 「未曾有」を「みぞうゆう」と読んでしまう自分がいてびっくりいたしましたが、「虚無への供物」に描かれていたのはまたずいぶんと牧歌的な時代だったのだなと思い返されます。この2008年、日本流にいって平成20年という年の「陰惨な事件」や国家が企んだ「新形式の殺人」はまさしく「次から次と」の状態で、御見物衆も報道を追うことに忙殺され、するうちに御見物衆みずからが被害者になっていたというアンチミステリ仕立ての年の瀬、なんていうのでは洒落にもならない感じですが、何かがたしかに開幕したという胸騒ぎのような実感が身に迫る12月10日です。

野村胡堂「江戸阿呆宮」とパノラマ島

 野村胡堂の『奇譚 銭形平次』という短篇集が編まれました。PHP文庫の10月の新刊。版元の紹介ページはこちら。銭形平次捕物控シリーズから奇譚の名にふさわしい異色作を選んだ一冊で、編者は末國善己さん。

 末國さんの巻末解説では、昭和9年の「オール讀物」6月号に発表された「江戸阿呆宮」と乱歩作品との関連が説かれています。

 「江戸阿呆宮」は江戸市中で美女が行方不明になる事件が連続、しかも美女同士に関連性が見出せないというミッシング・リンクをテーマにしたミステリーとなっている。
 秦の始皇帝は、阿房に宮殿を建て美女三千人を集めることを計画したが、秦の滅亡で中絶したとされる。タイトルにある阿呆宮は、この阿房宮のパロディであろう。美女ばかりが暮らす地上の楽園は、日本にも井原西鶴『好色一代男』に出てくる「女護が島」などの先例があるが、本作の場合、大富豪が美女を集めて人工的な秘密の楽園を作るという展開なので、江戸川乱歩『パノラマ島奇譚』を参考にした可能性が高い。胡堂は乱歩の才能をいち早く見抜き、報知新聞の記者として原稿を依頼している。この時二人は、海外のミステリーを原書で読むほどのマニアであり、黒岩涙香のファンであることも共通していたことで意気投合。その友情は、終生変わることがなかった。『パノラマ島奇譚』は萩原朔太郎も絶賛した初期乱歩を代表する名作なので、胡堂も年下の友人に敬意を表してオマージュを捧げたのではないだろうか。

 同じく末國さんの編による時代小説のアンソロジー『軍師の生きざま』も出版されましたので、あわせてお知らせしておきましょう。作品社の11月の新刊で、版元の紹介ページはこちら。さすがに当節「生きざま」という言葉を臆面もなく使用した文章にぶつかることはなくなりましたが、『軍師の生きざま』というのは「生きざま」なる言葉に見事に場を与えたタイトルであると思います。