二〇〇〇年問題を語る
「いったいなんやったんですかね」
「なんの話ですか」
「西暦二〇〇〇年問題」
「あ、あの話ですか」
「コンピュータの誤作動でえらい大事故が起きるゆう話で」
「企業から官公庁から対策におおわらわでしたな。なかにはロシアの原発が爆発するみたいなことゆう人もいましたし」
「結局なんにもなしやったわけです」
「小さいアクシデントはあったみたいですけど、大惨事は発生しませんでした」
「けどあれだけ大騒ぎしたんですから」
「なんですねん」
「せめて近鉄ガスのガスタンクでもええから爆発してもらわんと、ちょっと恰好がつかんのとちがいますか」
「なんで爆発を期待するねん」
「うちのプロパンガスのボンベすら、くすっ、ともいいませんでしたからね」
「ガスボンベが二〇〇〇年になった途端にくすっ、ゆうたらこわいやないか」
「ガスライターのボンベでもええから、なんとか頑張って爆発してもらわんと」
「いったい何を頑張れゆうねん」
「いきなり期待はずれで始まった西暦二〇〇〇年なんですけど」
「無事で結構なこっちゃないですか」
「けど君、コンピュータはともかくとして人間の頭の方が誤作動してるんちゃうかゆうような事件、今年に入って急に明るみに出てきた思いませんか」
「といいますと」
「まず小柳ルミ子の離婚記者会見を筆頭にいたしまして」
「しょうもないもん筆頭にするんやないがな」
「あれは誤作動ゆうよりはただの誤算やったわけですけど」
「ええがなよその家庭のことは」
「埼玉県で起きたストーカー殺人事件の容疑者が北海道の湖で水死体となって発見されましたし」
「ありましたな」
「新潟県では九歳のときに誘拐されて九年間も一室に監禁されていた女性が保護されました」
「あれもとんでもない事件でした」
「このふたつの事件の容疑者、どっちも頭が誤作動してるとしか考えられませんからね」
「二人ともいったん切れたらすぐ頭が誤作動する性格やったらしいですね」
「それからまた、野党がおらんとこで施政方針演説をぶちあげる首相まで出てきました」
「あれも誤作動ですか」
「与野党ともに誤作動しまくってます」
「情けない話ですな」
「われらが伊賀地域に目を転じますと」
「何がありました」
「伊賀県民局お姉さん勝手に契約事件」
「どんな事件やねん」
「伊賀県民局に勤務する臨時職員の女性が、とある業者と三重県とのあいだにまったく架空な事業の契約を勝手に結んでいたことが発覚しまして」
「そうでしたね。そんなことほんまにできるんかいなゆうような事件で、臨時職員は告訴されてましたけど」
「女の子がちょこちょこと書類準備して一人で契約結んだゆうんですから」
「ちゃんと三重県知事の公印まで捺してあったらしいやないですか」
「なかなかしっかりした女の子ですね」
「誉めとる場合やないがな」
「これも一種の誤作動です」
「臨時職員が勝手に悪いことしただけですから、誤作動とはいえませんやろ」
「そんなことないがな」
「なんでやねん」
「臨時職員が意図的にお役所のシステムを誤作動させたゆうことですからね」
「そないなりますか」
「つまりお役所のシステムはその程度のものでしかないんです」
「臨時職員が好きなように契約を結べるとなると、システムとしてはずいぶんええ加減ですわね」
「だいたい臨時職員ゆうのは腹の中に憤懣を抱え込んでますからね」
「そうですか」
「どこのお役所でも臨時職員を採用して仕事をカバーしてるわけですけど」
「まあ不況ですしね、人件費はできるだけ切りつめなあきません」
「お役所の正職員がのうのうと仕事してるふりをしている横でですね」
「仕事してるふりやないがな、ちゃんと働いたはるがな」
「臨時職員のお姉さんたちはなんで私らだけばたばたばたばた働かなあかんの、と思いながら仕事をしてるわけです」
「それは知りませんけど」
「私らあんたらと違うてなんの保証もないんやからね、とお姉さんは思います。仕事してるふりしてる正職員の横で」
「ふりやないっちゅうてるやないか」
「その憤懣がお姉さんの頭を誤作動させてみ、お姉さんは平気でお役所のシステムを誤作動させてしまいますからね」
「どうも判りにくい話ですけど」
「今年は誤作動の年になるでしょう」
「いきなり結論かいな」
「だいたい二〇〇〇年問題かて年の変わり目だけの問題やないですからね」
「そうなんですか」
「今年の六月に二〇〇〇年問題が発生する可能性かてあるわけなんです」
「まだまだ安心でけんゆうことですか」
「二〇〇〇年問題に備えて買い込んだ日清のチキンラーメンをさっさと食うてしもた奴はあほと呼ぶべきでしょうね」
「そうゆう問題やないがな」
「二〇〇〇年問題に備えて買い込んだカセットコンロのガスボンベが爆発する可能性に僕は賭けたいと思います」
「爆発はもうええっちゅうねん」
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