また乱歩記念館を語る
「君、『なばり市議会だより』の五月号は読みましたか」
「何が出てますねん」
「名張市議会三月定例会の報告です」
「そらまあそうでしょうけど」
「予算質疑の報告も載ってまして」
「それがどないしました」
「そのなかの見出しにいわく」
「なんですねん」
「『乱歩記念館の構想』」
「名張市議会で乱歩記念館のことが話題になったんですか」
「まあ予算特別委員会の話題ですけど」
「どんな話題でした」
「そら君びっくりしますよ」
「そんな凄い構想ですか」
「質問と答弁が掲載されてまして」
「質問といいますと」
「平成十二年度予算に関連してある議員が質問をなさったわけですけど、『なばり市議会だより』に載ってるのをそのまま読みますと、『質問●市長は平成九年の年頭記者会見で、十年度計画として乱歩記念館の建設を語っているが、一向に実現の兆しがない。この間、東京新聞紙上で豊島区が乱歩遺産の寄贈を受けることが報じられた。市立図書館の乱歩コーナーの存廃、展示品の収集など、市長の記念館構想はどうなるのか』」
「それはもっともな質問ですね。それで名張市側の答弁はどないでした」
「『なばり市議会だより』によりますと、『答弁●乱歩資料はまとめて保存・公開されることが望ましいと考えている。名張市としては、遺品の取り合いなどを考えず、乱歩生誕地として東京側とは違った方法での乱歩顕彰策を考えたい』」
「いったいその答弁のどのへんにびっくりせえゆうねん」
「あまりの無能無策ぶりに」
「そらたしかに策はないですけど」
「腰抜けますよほんま」
「そらまあ君にしてみたらそうかもしれませんけど」
「結局この答弁で何がわかったかといいますと、要するに名張市は乱歩のことに関して何も考えてこなかったし今後も考えるつもりはないゆうことですね」
「そこまで決めつけたらあかんがな」
「名張市は僕を本気で怒らせる気ィなんですかね」
「そんな気はないやろけど」
「僕に喧嘩を売ってるんですかね」
「そんなことないゆうてるやないか」
「しかしいまさら『乱歩顕彰策を考えたい』ゆういいぐさはないやろがな」
「しかし考えなあかんわけですから」
「考える意志も知識も能力もないぼんくら連中が口先だけ考える考えるゆうてここまで来たのが名張市の乱歩顕彰事業やないか」
「そこまでゆうたら身も蓋もないがな」
「いまさら考えるもくそもあるかそんなもん」
「ちょっと落ち着いたらどないですか」
「これが落ち着いていられますか」
「そら君の気持ちもわかりますけど」
「僕が十七歳の少年やったらとうにそこらでバスジャックやっとるでしょうね」
「どこのバスを乗っ取るゆうねん」
「名張市の福祉バス乗っ取ってお爺ちゃんお婆ちゃんとどんちゃん騒ぎやらかしたろやないか」
「しょうもないことゆうとる場合か」
「そしたら君、そもそものことから振り返ってみましょか」
「そもそものことといいますと」
「名張市で乱歩記念館の構想が誕生したあたりのことです」
「いつごろの話ですか」
「昭和四十四年です」
「そんな前からあったんですか」
「ゆうても大阪万博の前の年の話ですからね」
「三十年ほど前になりますか」
「小川ローザがミニスカートからパンツ出して『Oh! モーレツ』ゆうとった時代の話ですがな」
「そんなことどうでもええがな」
「地方紙『新名張』の昭和四十四年七月十一日号にこんな記事が載ってます。そのまま読みますと、『わが国本格探偵小説の確立者であり育成者である故江戸川乱歩氏の記念館を生誕地の名張市に建設することにつき、地元に結成された乱歩記念館建設の会(富永貞一会長)と東京の関係者(乱歩氏遺族、推理作家協会、在京名張人会等)との第一回懇談会は前号所報のように川崎秀二代議士の斡旋により三日午前十時半から国立国会図書館特別研究室で開かれた』」
「そこまで具体化してたわけですか」
「昭和四十六年竣工を目指してたそうですね、この記事によると」
「けどそれは『乱歩記念館建設の会』ゆう団体の構想ですから」
「記事にはこうも書かれてます。『乱歩記念館建設の会では七日午後一時から市役所会議室で会議を開き、東京懇談会の出席者から報告を聞いたあと、この問題につき北田市長と初めての正式会談を行い、趣旨や経過の報告とともに市としての協力を要請した』」
「なるほど」
「『これに対し同市長は、「川崎先生も骨をおってくれていることであり、本市にかような全国的な文化施設の出来ることはまことに結構である。個人として賛成であるばかりでなく、市議会とも相談して市としての協力態勢をかためたいと思う」と語り、建設の会の今後の活躍を激励した』」
「そこまで行っててなんで実現できんかったんですか」
「それはわかりません。新聞には構想がぽしゃったことまでは載りませんから」
「いつのまにか立ち消えになってたゆうことですか」
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