第二十二回
名張市議会議員賛江
 市議会議員選挙を熱く語る

「名張市ではいよいよ市議会議員選挙が始まりまして」
「なかなかの激戦やそうですけど」
「この『四季どんぶらこ』が出るころには当選者も決まってますけどね」
「八月二十五日が投票日ですから」
「今度の選挙ではどの程度の手合いが議員先生になってくれるんでしょうね」
「手合いてなことゆうたらあかんがな」
「現状は僕もよう知りませんけど」
「なんですねん」
「昔は手合いと呼ぶしかない市議会議員がたしかにいてましたからね」
「そうなんですか」
「じつはうちの親父が名張市議会議員をやってたことがありまして」
「それは知りませんでした」
「わずか一期だけでしたけど」
「それでもえらいもんですがな」
「せやから名張市議会議員なんかえらいことないゆう話なんですけど」
「どうゆうことですねん」
「親父が市議会議員の視察旅行から帰ってきてえらいびっくりしてました」
「なんぞあったんですか」
「議員の視察旅行ゆうのはみなさんもご存じのとおり視察は名目で実態は慰安旅行ゆうか物見遊山ゆうか」
「そんなことないがな。いろんなとこで見聞を広めたり専門知識や最新情報を身につけたりするための旅行ですがな」
「まあ建前はそうですけど」
「建前やないゆうねん」
「ですから僕も現状はよう知らんのですけどうちの親父が名張の市議会議員やってたころはそうやったんです」
「慰安旅行か物見遊山でしたか」
「それで帰ってきた親父が感に堪えないゆう感じでゆうてたんですけど」
「どんなもん視察してきたんですか」
「旅館に一泊して次の朝その旅館をあとにするときのことです」
「どないしました」
「親父と同室やった議員の一人が着てた浴衣くるくる丸めて自分のボストンバッグに突っ込んでしもたゆうんです」
「完全な浴衣泥棒やないですか」
「旅の恥はかき捨てゆうぐらいですからこんなんようある話なんですけど」
「けどいくらなんでも議員さんがそんなことしたらあきませんがな」
「その旅館の人たちはちょっと唖然としたでしょうね」
「名張市議会の名前で泊まってる人間がそんなことしたら名張の恥をよその土地に広めて回ってるようなもんですがな」
「せやからそうゆうのは手合いとしか呼びようのない議員なんです」
「いったい誰ですねん」
「もう亡くならはった方ですからいまさら実名は暴露しませんけど」
「誰のことか気になりますけどね」
「そしたら過去十年のあいだにお亡くなりになった名張市議会議員経験者のお顔を頭に思い浮かべてみてください」
「何人かいてはりますわね」
「そのうちのいったい誰が浴衣泥棒かと思案してみますと」
「どないなります」
「誰が浴衣泥棒であっても不思議ではないゆう気がしてくるから妙なもんです」
「妙なもんですやないがな」
「でも市議会議員ゆうたら市民からは白い目で見られるのが常でして」
「誰も白い目では見てないがな」
「市議会議員ゆうたら市民から一段低い存在やとも思われがちなんですけど」
「思われてないゆうのに」
「市民が議員さんを見くだしたような態度とるのは感心しませんね」
「それは君のことやないか」
「しかし市議会議員ゆうのもあれでなかなか大変なんです」
「君のお父さんがそんなことゆうてはりましたか」
「いやうちの親父から聞いた市議会の話はその視察旅行の件だけでしたから」
「浴衣泥棒がよっぽど印象に残ってたんでしょうね」
「てゆうかうちの親父の議員活動は視察旅行だけやったんとちがいますか」
「そんなことあるかいな」
「けど議場は禁酒禁煙ですから出席するのはとても無理やったでしょうしね」
「議場で酒煙草やってどないするねん」
「飲酒OKの議会やったらうちの親父なんか休会日でも行ってましたやろけど」
「あほなことゆうとったらあかんがな」
「それで市議会議員の何がいったい大変なんかといいますと」
「なんですか」
「やっぱり選挙ですね」
「選挙に通らないと議員先生にはなれませんからね」
「せやから議員先生はいろいろな得意技を開発するわけでして」
「得意技といいますと」
「選挙民を買収するためのあの手この手のことです」
「買収したらあきませんがな」
「けどあの先生は商品券この先生はビール券ゆうて先生によって得意なブツも決まってますしね」
「そんなことしたらあかんゆうのに」
「ちょっと前の選挙の話ですけど」
「何がありました」
「牛肉をブツにしてる先生がいてはりまして」
「選挙民に牛肉を配って買収するわけですか」
「それでまあ単車の荷台にかごをくくりつけましてね」
「単車で買収に回りますか」
「かごに肉の包み積んで飛び回るわけですわホンダのスーパーカブで」
「車名まで出さいでもよろしやないか」
「それである家を訪問してよろしゅう頼むでゆうて外に出てみますと」
「どないしました」
「どこぞの犬が後ろ脚で爪先立ちして単車のかごに頭つっこんでますねん」
「あちゃー」
「先生その犬を怒鳴りつけました」
「そらそうですやろ」
「そしたらその犬が立ったままこわい顔してこっちを振り向きましてね」
「犬も本気ですわね」
「その振り向いた口には肉の包みがしっかりと」
「えらいこっちゃがな」
「こら待たんかーッ」
「先生も必死です」
「走って追いかけたんですけど犬の逃げ足の早いこと早いこと」
「えらい災難やったわけですな」
「でも不幸中の幸いゆうやつですか」
「なんですねん」
「そのときの選挙ではその先生が上位で当選を果たされました」
「落選してたら目もあてられません」
「犬まで買収したんやさけ票も多いわさゆうて近郷近在で大評判でしたけど」
「いったいどこの先生ですねん」
「この先生もお亡くなりになりましたからこれ以上のことは差し控えますけど」
「それやったら最初から差し控えといたらええやないですか」
「それから議員先生が苦労するのは日常の議員活動が選挙民の目にあまり見えてこないという点ですね」
「人目につかんところで地道に努力してくれてる議員さんも多いですからね」
「かと思たら特権意識だけ肥大させたぼんくらもいるさかいに困ったもんです」
「いちいち喧嘩腰になりなゆうねん」
「議員活動が日刊紙の地方版で報道されるのは議会の一般質問くらいですし」
「CATVでもやりますけどね」
「しかし一般質問も気ィつけなあきませんよ」
「何に気ィつけますねん」
「これもちょっと前の話ですけどある先生の一般質問を拝聴してましたら」
「なんてゆうてはりました」
「めされていた」
「なんやて」
「めされていたゆうておっしゃるわけですその先生が」
「質問原稿を読んでですか」
「なんのこっちゃ思て前後の文脈から考えたらもくされていたなんです」
「どうゆうことですねんそれ」
「目ェですがな目ェ。目されていたゆうのをもくされていたとよう読まんとめされていたと読んでたわけなんです」
「なるほど」
「つまり誰かに書かした質問原稿を読んではったゆうことなんですけど」
「でも上は国会から下は市町村議会まで質問原稿を他人に書かせるケースはどこでもようあるみたいですけどね」
「せやから誰が原稿書いたかてええんですけど振りがなぐらい振っといたれゆう話やないですか相手あほなんやから」
「あほゆうことはないがな」
「しかしもう昔の話ですから」
「ほなその先生もお亡くなりに」
「いまでもぴんぴんしてはります。いずれは天にめされますやろけど」
「知らんがなそんなこと」

 市町村合併を熱く語る

「伊賀地域七市町村の合併問題もいよいよ本格的に動き出しました」
「この六月に名張市が合併協議に参加しましたからね」
「去年の二月に名張市を除く六市町村が伊賀地区市町村合併問題協議会ゆうのを設立いたしまして」
「名張市ではこの春に新しい市長さんが誕生して協議会にも加わりました」
「しかしあれはひどいもんですな」
「何がひどいんですか」
「その伊賀地区市町村合併問題協議会とかゆうやつがですがな」
「とかゆうやつがて君」
「ちょっと前に伊賀市を考える議員の会とかゆうのんもありましたけど」
「とかゆうのんもて君」
「あれもひどかったですから僕も思わず漫才のネタにとりあげまして」
「そういやそうでしたな」
「議員の会の代表の方にその漫才が載った『四季どんぶらこ』をお送りして喧嘩売ったったんですけど」
「あんなあほなことようできましたな」
「完全に黙殺されてしまいまして」
「それは妥当な結末でしょうね」
「しかしこの伊賀地区市町村合併問題協議会にもあの伊賀市を考える議員の会と同質のひどさを僕は感じるんです」
「同質のひどさといいますと」
「問題の本質がまったくわかってない」
「いきなりそんな無茶苦茶なこと決めつけたらあきませんがな」
「名張市が加わった最初の合併問題協議会の概要を新聞で読んだんですけどその内容たるやえらいもんでしたよ」
「どんな内容でした」
「名張市から参加したある委員の方が現在の名張市役所を合併後の市庁舎にするべきやと主張してはるんですけど」
「それもひとつの選択肢ですがな」
「新聞報道によりますとこの委員の方は名張市民の七割から八割が合併に反対しているから合併後の新市の本庁を現名張市庁舎に決めることが名張市民に対して効果的やとおっしゃってるんです」
「それがどないしました」
「伊賀地区市町村合併問題協議会ゆうのは名張市民を籠絡したり懐柔したり誘導したりするための組織なんですか」
「誰もそんなことゆうてないがな」
「けどげんにこうゆう話し合いが進められてるわけですから」
「たまたまそうゆう話題が議論にのぼっただけのことやないですか」
「せやからその議論ゆうのが新市の庁舎をこうゆうふうに設定したったら名張市民かて合併に賛成しよりまっせゆうようなことでしかないやないか」
「そうゆう議論も手順として必要なんとちがいますか」
「敵は要するにですね」
「敵ゆうことはないでしょうけど」
「名張市民向けの甘い水を用意してほれこっち来いこっち来いゆうて手招きしようとしてるんです」
「甘い水ですか」
「名張市民は蛍やないんですからね」
「誰も蛍とはゆうてないがな」
「あほなことぬかしとったらしまいにケツに火ィつけて人間蛍にしてもたるど」
「何わけのわからんことゆうとるねん」
「ことほどさように伊賀市を考える議員の会も伊賀地区市町村合併問題協議会もおんなじレベルなんです」
「何がおんなじですねん」
「議員の会かて合併したら職員の数がどうなる議員の数がこうなるゆうようなことしかゆうてなかったわけですけど」
「ほかにもいろいろ議論はあったんとちがいますか」
「この協議会かて庁舎の位置がどうのこうのと目先のことしかゆうてません」
「それも大事なことやないですか」
「それだけではあかんゆう話やがな」
「どうゆうことですねん」
「つまり地域住民が合併問題を考えるとなるとどうしても目先の問題とか当面のメリットデメリットのことにしか目が行かないわけなんです」
「まあそうでしょうね」
「それは仕方のないことなんです。地域住民は必ずしも地域の将来を熟慮しながら生きてるわけではないですからね」
「たしかにそのとおりです」
「だいたいジャスコ新名張店一階で目の色かえて五十円引き商品あさってるおばちゃんが地域の未来を熱く語りますか」
「いちいちジャスコのおばちゃん引っ張り出さいでもええやないですか」
「そうゆう人たちが合併問題を考える場合にはどうしても目先の損得だけが判断基準になってしまいがちなんです」
「水道代がどうなるとか役所に行くのが不便になるとかですね」
「もちろんそれも大事なことなんですけどそもそも合併ゆうのはメリットのみを追求するようなものではないんです」
「目先の損得だけではないと」
「地域の将来を考えたら当座のデメリットや損失をあえて引き受けざるを得ない場合も出てくるわけですから」
「それはあるでしょうね」
「ただしやっぱりジャスコのおばちゃんにもですね」
「またジャスコのおばちゃんですか」
「合併問題について真剣に考えてもらわなあかんわけです」
「合併は住民自身の問題ですからね」
「ですから日ごろ地域社会の将来について考える習慣のないジャスコのおばちゃんに代わって日ごろから地域のことを考えてる市町村長とか市町村議会議員とか有識者とかの代表が伊賀地区市町村合併問題協議会ゆうのをつくって合併問題を議論してくれてるわけなんです」
「そうゆうことですな」
「その議論に基づいて地域住民に合併問題をわかりやすく伝えることで議論の輪を地域全体に広めてもらわなあかんわけなんですけど協議会の議論の内容がジャスコのおばちゃんと同レベルやゆうんやから笑わなしゃあないがな君」
「議論が目先のことだけに終始してるゆうことですか」
「目先の損得やメリットデメリットを超えた視点で合併問題を考えなあかん人たちが目先のことしか論じてないんですから伊賀地区市町村合併問題協議会にはほんまに合併問題を論じる資格があるのかと僕は問いたい。合併問題をめぐるあなたたちの認識と見識はいったいどの程度のもんでんねんと僕は問いたい」
「好きなだけ問うとったらええがな」
「要するに地域住民を代表して合併問題を論じ合う人たちは少なくとも日本の近代化の歴史とかその過程で地方が中央からいかに抑圧され搾取されてきたかとかこの合併問題は国の財政破綻が地方に押しつけられただけのものに過ぎないとかいった問題の本質をしっかり認識したうえで国際社会や日本社会の将来を見通しながら地域社会がどうゆう進路をとったらええのかを的確に判断して合併を論じてもらわなあかんわけですけどね」
「えらい難しい話ですな」
「いまの首長にしろ議員にしろ長期にわたる中央支配に馴れきった人たちにはとてもそんなこと無理でしょう」
「君またそうゆうて決めつけますけど」
「早い話が平成十六年度までに市町村合併したら甘い水やるぞほれこっち来いこっち来いと国がゆうたら深いこと何も考えんとわーいわーいゆうて伊賀市を考える議員の会みたいなもんをつくってしまう人たちなんですからね彼らは」
「また甘い水ですか」
「地方が自立してゆくこれからの時代には中央支配に盲従してきた連中の出番なんかどこにもありませんよほんまの話」
「けど今度の協議会は伊賀市を考える議員の会とはまたちがいますからね」
「似たようなもんやがな」
「しかし協議会は合併後の新市の名称を広く公募するゆうてますからね」
「それこそが中央支配に馴れきって自分の頭でものを考えることができんようになった連中の責任回避やないですか君」
「あれも責任回避ですか」
「なんで伊賀に来たこともない人間に新市の名前を考えてもらわなあかんねん」
「いろいろなアイデアを国民のみなさんから募るのはええことや思いますけど」
「そしたら日本の国民は誰でも伊賀の風のにおいを知ってるゆうんですか」
「そんな詩的なこと急にいわれても」
「伊賀に来たことない人間に伊賀の土のぬくもりがわかるゆうんですか」
「それはそうですけどね」
「そうゆう人たちに伊賀の水のきよらかさがわかるゆうんですか」
「そらわからんやろけどやで」
「そんな人たちに伊賀の人間の底意地の悪さがわかるゆうんですか」
「そんなもんわかってどないするねん」
「とにかく地名ゆうのは歴史や風土に密接な関わりをもつものなんですから軽いノリで話を進められたら困るんです」
「そないゆわれたらそうですけども」
「中央支配に馴れきったせいで人の真似したり人のふんどしで相撲とったりしかできんようになったのがいまの全国のお役所なんですけどそうゆう体質を合併問題にもそのまま持ち込んでるのが伊賀地区市町村合併問題協議会であるゆうことがこの一事からもようわかりますね」
「論理が強引すぎる感じですけど」
「公募するのやったらせめて委員全員が自分の頭で考え抜いた新市の名前をひとつずつ提案してからにするべきです」
「人に頼る前に自分で考えなさいと」
「さ。協議会の会長さんにこの『四季どんぶらこ』送りつけてもらいましょか」
「君しまいに刺されても知らんで」

(名張市立図書館カリスマ嘱託)

掲載2003年4月13日
初出「四季どんぶらこ」第24号(2002年9月21日発行)