市議会議員選挙を熱く語る
「名張市ではいよいよ市議会議員選挙が始まりまして」
「なかなかの激戦やそうですけど」
「この『四季どんぶらこ』が出るころには当選者も決まってますけどね」
「八月二十五日が投票日ですから」
「今度の選挙ではどの程度の手合いが議員先生になってくれるんでしょうね」
「手合いてなことゆうたらあかんがな」
「現状は僕もよう知りませんけど」
「なんですねん」
「昔は手合いと呼ぶしかない市議会議員がたしかにいてましたからね」
「そうなんですか」
「じつはうちの親父が名張市議会議員をやってたことがありまして」
「それは知りませんでした」
「わずか一期だけでしたけど」
「それでもえらいもんですがな」
「せやから名張市議会議員なんかえらいことないゆう話なんですけど」
「どうゆうことですねん」
「親父が市議会議員の視察旅行から帰ってきてえらいびっくりしてました」
「なんぞあったんですか」
「議員の視察旅行ゆうのはみなさんもご存じのとおり視察は名目で実態は慰安旅行ゆうか物見遊山ゆうか」
「そんなことないがな。いろんなとこで見聞を広めたり専門知識や最新情報を身につけたりするための旅行ですがな」
「まあ建前はそうですけど」
「建前やないゆうねん」
「ですから僕も現状はよう知らんのですけどうちの親父が名張の市議会議員やってたころはそうやったんです」
「慰安旅行か物見遊山でしたか」
「それで帰ってきた親父が感に堪えないゆう感じでゆうてたんですけど」
「どんなもん視察してきたんですか」
「旅館に一泊して次の朝その旅館をあとにするときのことです」
「どないしました」
「親父と同室やった議員の一人が着てた浴衣くるくる丸めて自分のボストンバッグに突っ込んでしもたゆうんです」
「完全な浴衣泥棒やないですか」
「旅の恥はかき捨てゆうぐらいですからこんなんようある話なんですけど」
「けどいくらなんでも議員さんがそんなことしたらあきませんがな」
「その旅館の人たちはちょっと唖然としたでしょうね」
「名張市議会の名前で泊まってる人間がそんなことしたら名張の恥をよその土地に広めて回ってるようなもんですがな」
「せやからそうゆうのは手合いとしか呼びようのない議員なんです」
「いったい誰ですねん」
「もう亡くならはった方ですからいまさら実名は暴露しませんけど」
「誰のことか気になりますけどね」
「そしたら過去十年のあいだにお亡くなりになった名張市議会議員経験者のお顔を頭に思い浮かべてみてください」
「何人かいてはりますわね」
「そのうちのいったい誰が浴衣泥棒かと思案してみますと」
「どないなります」
「誰が浴衣泥棒であっても不思議ではないゆう気がしてくるから妙なもんです」
「妙なもんですやないがな」
「でも市議会議員ゆうたら市民からは白い目で見られるのが常でして」
「誰も白い目では見てないがな」
「市議会議員ゆうたら市民から一段低い存在やとも思われがちなんですけど」
「思われてないゆうのに」
「市民が議員さんを見くだしたような態度とるのは感心しませんね」
「それは君のことやないか」
「しかし市議会議員ゆうのもあれでなかなか大変なんです」
「君のお父さんがそんなことゆうてはりましたか」
「いやうちの親父から聞いた市議会の話はその視察旅行の件だけでしたから」
「浴衣泥棒がよっぽど印象に残ってたんでしょうね」
「てゆうかうちの親父の議員活動は視察旅行だけやったんとちがいますか」
「そんなことあるかいな」
「けど議場は禁酒禁煙ですから出席するのはとても無理やったでしょうしね」
「議場で酒煙草やってどないするねん」
「飲酒OKの議会やったらうちの親父なんか休会日でも行ってましたやろけど」
「あほなことゆうとったらあかんがな」
「それで市議会議員の何がいったい大変なんかといいますと」
「なんですか」
「やっぱり選挙ですね」
「選挙に通らないと議員先生にはなれませんからね」
「せやから議員先生はいろいろな得意技を開発するわけでして」
「得意技といいますと」
「選挙民を買収するためのあの手この手のことです」
「買収したらあきませんがな」
「けどあの先生は商品券この先生はビール券ゆうて先生によって得意なブツも決まってますしね」
「そんなことしたらあかんゆうのに」
「ちょっと前の選挙の話ですけど」
「何がありました」
「牛肉をブツにしてる先生がいてはりまして」
「選挙民に牛肉を配って買収するわけですか」
「それでまあ単車の荷台にかごをくくりつけましてね」
「単車で買収に回りますか」
「かごに肉の包み積んで飛び回るわけですわホンダのスーパーカブで」
「車名まで出さいでもよろしやないか」
「それである家を訪問してよろしゅう頼むでゆうて外に出てみますと」
「どないしました」
「どこぞの犬が後ろ脚で爪先立ちして単車のかごに頭つっこんでますねん」
「あちゃー」
「先生その犬を怒鳴りつけました」
「そらそうですやろ」
「そしたらその犬が立ったままこわい顔してこっちを振り向きましてね」
「犬も本気ですわね」
「その振り向いた口には肉の包みがしっかりと」
「えらいこっちゃがな」
「こら待たんかーッ」
「先生も必死です」
「走って追いかけたんですけど犬の逃げ足の早いこと早いこと」
「えらい災難やったわけですな」
「でも不幸中の幸いゆうやつですか」
「なんですねん」
「そのときの選挙ではその先生が上位で当選を果たされました」
「落選してたら目もあてられません」
「犬まで買収したんやさけ票も多いわさゆうて近郷近在で大評判でしたけど」
「いったいどこの先生ですねん」
「この先生もお亡くなりになりましたからこれ以上のことは差し控えますけど」
「それやったら最初から差し控えといたらええやないですか」
「それから議員先生が苦労するのは日常の議員活動が選挙民の目にあまり見えてこないという点ですね」
「人目につかんところで地道に努力してくれてる議員さんも多いですからね」
「かと思たら特権意識だけ肥大させたぼんくらもいるさかいに困ったもんです」
「いちいち喧嘩腰になりなゆうねん」
「議員活動が日刊紙の地方版で報道されるのは議会の一般質問くらいですし」
「CATVでもやりますけどね」
「しかし一般質問も気ィつけなあきませんよ」
「何に気ィつけますねん」
「これもちょっと前の話ですけどある先生の一般質問を拝聴してましたら」
「なんてゆうてはりました」
「めされていた」
「なんやて」
「めされていたゆうておっしゃるわけですその先生が」
「質問原稿を読んでですか」
「なんのこっちゃ思て前後の文脈から考えたらもくされていたなんです」
「どうゆうことですねんそれ」
「目ェですがな目ェ。目されていたゆうのをもくされていたとよう読まんとめされていたと読んでたわけなんです」
「なるほど」
「つまり誰かに書かした質問原稿を読んではったゆうことなんですけど」
「でも上は国会から下は市町村議会まで質問原稿を他人に書かせるケースはどこでもようあるみたいですけどね」
「せやから誰が原稿書いたかてええんですけど振りがなぐらい振っといたれゆう話やないですか相手あほなんやから」
「あほゆうことはないがな」
「しかしもう昔の話ですから」
「ほなその先生もお亡くなりに」
「いまでもぴんぴんしてはります。いずれは天にめされますやろけど」
「知らんがなそんなこと」
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