政府よこれが伊賀の答えだ
「ちょっと東京へ行かさしてもろてきたんですけど」
「行かさしてもろたて君、そこまでへりくだらんでもええのとちがいますか」
「しかし名張市民のみなさんの税金で上京してきたわけですから」
「また東京出張ですか」
「そうなるとやっぱりへりくだらなあかんわけですねうわべだけでも」
「うわべだけではしゃあないがな」
「僕が上京したのは十一月二日やったんですけどじつはその前日が大変でして」
「十一月一日の何が大変ですねん」
「君は十一月一日の新聞読みましたか」
「読んでるはずですけど」
「政府の地方分権改革推進会議がまとめた最終報告の記事が載ってたんですけど気ィつきませんでしたか」
「なんやきょうの漫才はえらい物堅い展開になりそうな感じですな」
「要するに地方分権を進めるために何をしたらええのかゆう話なんですけどね」
「その最終報告が出たわけですか」
「話が全然違うてきてますねん」
「どんな話になってるんですか」
「首相は国と地方のあり方について三位一体の改革を目指すとゆうてたんです」
「三位一体といいますと」
「まず補助金を削減する」
「国から地方への補助金を減らそうと」
「そのかわり税源を移譲する」
「国から地方へ税源を移そうと」
「そして地方交付税の見直しを進める」
「これもやっぱり国から地方へのお金の流れを見直そうゆうことですな」
「地方のことは地方に任せるゆうのが首相の方針やと報道されてますからね」
「つまりお金も地方に任せましょうと。そのための会議やったわけですね」
「せやのに最終報告では地方への税源移譲についてまったく言及がないんです」
「それでは三位一体になりませんがな」
「十一月一日の日刊各紙は社説でいっせいにこの問題をとりあげました」
「かなりの大問題ゆう感じですね」
「読売の社説は『地方分権報告/税源移譲なしに改革は進まない』」
「なるほど」
「朝日は『地方分権/これが改革とは恐れ入る』。中日は『地方分権/これでは前進しない』」
「叩かれっぱなしですがな」
「あの産経でさえ『地方財政改革/利害排し真の自立目指せ』と叩いてます」
「あの産経でさえゆうとこがどうも気になりますけど」
「とにかくもう無茶苦茶な話なんです」
「たしかに話が違うてきてる感じです」
「そもそもの話の流れとしては国の財政が破綻して分配能力も低下したからあとは地方が勝手にやってくれと」
「地方の自立を促すゆうことですね」
「もう地方を補助金で縛りつけることはしない。税財源そのものを地方に移譲するから好きにしなさいと」
「自己責任と自己決定でやってくれと」
「ただしわが国の現状においてお役所の人たちに自己責任や自己決定を求めるのはどだい無理な話なんですけど」
「君はそないゆうて話をすぐお役所批判の方向にもっていきますけど」
「でもまあ地方分権の建前は中央から地方へ権限や税財源を移譲して地方の自主性自立性を高めるゆうことなんです」
「その税源移譲が見送りになったと」
「もちろん首相が強い指導力を発揮したら税源移譲も可能なんですけどね」
「可能ではないんですか」
「財務省あたりの我利我利亡者が必死になって抵抗してますからね」
「そしたら地方分権が前進どころかあと戻りしてるゆうことやないですか」
「別の言葉でゆうと市町村合併の意味が急速に失われつつあるわけなんです」
「そらまあ地方分権と市町村合併はゆうたら表裏一体のものですからね」
「地方分権を推進するためには地方自治体の行政基盤をより強化する必要があるゆうのが話の流れでして」
「強化するために合併が必要であると」
「ところがここへ来て政府がとんでもない裏切り行為に出ようとしている」
「政府が地方に対して約束違反するようなもんですからね実際の話」
「一方では地方分権を推進するといいもう一方では税源は移譲しないという」
「えらい矛盾した話ですがな」
「右足でアクセル踏みながら左足でブレーキ踏んでるような話なんです」
「たしかにそのとおりですね」
「右目で青信号見ながら左目で赤信号見てるような話なんです」
「そんなカメレオンみたいな器用な真似できるやつがおるんですか」
「右手に浣腸もって左手に下痢止めもってるような話ですからね」
「だんだんわけのわからん譬えになってきとるやないか」
「それくらい無茶苦茶な話なんです」
「ほなどないしたらええんですか」
「ことここに至っては市町村合併がどうのこうのゆうてる場合ではありません」
「けど市町村合併についてはきちんと協議せなあかんのとちがいますか」
「その協議の基盤が崩れようとしてるんです。地方分権が骨抜きにされた状態で合併したりしたらどうなります」
「えらいことになるかもしれませんね」
「ですからわれわれには合併協議なんかより先にせなあかんことがあるんです」
「何をしますねん」
「一揆じゃよ皆の衆」
「君いったいどこの長老やねん」
「ここまで愚弄されたからにはわれら一同ひとつにまとまり一矢なりとも政府に報いてその非を糾すのが伊賀者の道なのじゃ。わかるのう五右衛門」
「誰やねんその五右衛門ゆうのは」
「けどほんまに四百年前の伊賀惣国一揆を現代に再現して権力に叛旗を翻さんことには気が収まりませんがな」
「そんなん君だけの思い入れやがな」
「だいたい近世近代と一貫して仲の悪かった上野と名張がようやく合併協議のテーブルについたわけなんです」
「紆余曲折はありましたけどね」
「上野と名張が合併を話し合うゆうのはじつに偽善的な感じのすることで」
「いっこも偽善的なことないがな」
「でも市民感覚でゆうたら僕はやっぱり上野の人間とは気が合いませんからね」
「そんなもんですかね」
「かとゆうて名張の人間とも気は合わんわけですけど」
「誰とも気ィ合わんゆうことですか」
「僕だいたいにおいてあほとは気が合わないみたいなんです」
「それやったらまるで上野市民も名張市民もどっちもあほやとゆうてるみたいに聞こえるやないか」
「当たらずといえども遠からずですか」
「ですかと聞かれても困るがな」
「とにかく一揆しか道はないんです」
「またそうゆう無茶をゆう」
「けど伊賀惣国一揆の昔から伊賀がひとつにまとまるのは外敵と戦うときだけやゆうのが歴史的事実ですからね」
「政府が外敵ですか」
「偽善的な合併協議なんかより政府に戦いを挑むことによって初めて現代の伊賀がひとつになれるはずなんです」
「どないして戦いを挑みますねん」
「とりあえず合併協議は中止します」
「そんな乱暴な」
「君は十一月二日の新聞読みましたか」
「また新聞ですか」
「地方制度調査会の副会長が市町村合併推進のプランを提出したんですけど」
「どんなプランですねん」
「合併特例法の期限が切れたあとも存続してる町村は強制的に合併させて町村をなくしてしまうというプランです」
「それもまた乱暴な話やないですか」
「権力というものの冷酷な本質がそろそろ剥き出しになってきましたね」
「本質かどうかようわかりませんけど」
「財政支援措置という目先の餌をぶらさげて期限つきで合併を進めたあとは無理にでも合併させるという話なんです。これは明らかに地方に対する恫喝です」
「恫喝ゆうたら語弊ありますけど」
「そんなえげつないことする前に政府自身がもっとちゃんとせなあかんがな」
「たしかにアクセルとブレーキいっしょに踏んでもろては困りますからね」
「こんな状態でいくら合併協議を進めても実効性なんかまったくありません」
「それで協議は中止して一揆ですか」
「そうです。伊賀から東京へひそかに精鋭を送り込んで永田町から霞ヶ関一帯」
「どないしますねん」
「道が見えへんようになるぐらいマキビシまいたったらどうでしょうか」
「マキビシてあの忍者が逃げるとき地面にばらまくやつですか」
「政府関係者も伊賀の怖ろしさを思い知って反省するやろと思うんですけど」
「反省どころか大笑いするでしょうね」
「行けッ。行くのじゃ五右衛門ッ」
「せやから五右衛門て誰やねん」
|