番外
参院選イケメン対決

「参院選もいよいよ終盤を迎えまして」
「十一日が投票日ですから」
「それにしては今回の選挙ずいぶん低調な感じですけど」
「たしかに新聞の世論調査でも国民の関心はそれほど高くないみたいですね」
「国民感情としてはここまで暑いんやったら選挙なんかもうどうでもええわと」
「暑い寒いは関係ありませんがな」
「でも三年前の選挙に比べたら盛りあがりに相当の差があるのはたしかです」
「三年前みたいな小泉ブームはいまや日本のどこにもありませんからね」
「いまの日本でブームの主役ゆうたらやっぱりライブドアの堀江社長ですか」
「それとこれとは話が違うがな」
「この際バファローズといっしょに赤字路線の近鉄伊賀線も堀江社長に買収してもらえたらありがたいんですけど」
「誰がしてくれるかそんなもん」
「それでまあ参院選三重選挙区の話題なんですけど」
「新人候補三人が改選一議席をめぐって熱い戦いをくりひろげてます」
「でも実質的には民主党対自民党の一騎打ちなんです」
「そうみたいですね」
「候補者は民主党公認の芝博一さんと共産党公認の中野武史さんと自民党公認公明党推薦の津田健児さんなんですけど」
「実際には芝さんと津田さんの決戦で」
「三重県は岡田克也民主党代表のお膝元ですから全国的に注目度も高いですし」
「やっぱりそうでしょうね」
「しかも全国にも例のないイケメン対決ゆうことでも話題を呼んでますし」
「誰がそんなことゆうてますねん」
「杉様ヨン様対決とも呼ばれてまして」
「なんの話ですねん」
「中日新聞かどこかに三重選挙区の候補者アンケートが載ってたんですけど」
「座右の銘は何かとか好きな食べものは何かとかゆうやつですか」
「質問のひとつに有名人では誰に似ているといわれますかゆうのがありまして」
「それで芝さんのお答えは」
「杉良太郎」
「そしたら津田さんは」
「ペ・ヨンジュン」
「ほんまですかそれ」
「いわゆる韓流ブームが参院選三重選挙区にまで波及してきたわけですね」
「顔が似てるのやったら杉様ヨン様対決といえないこともないでしょうけど」
「けどイケメンがどうのこうのゆうてルックス重視の傾向が選挙にまで影響を及ぼすのは困ったもんや思いませんか」
「ルックスかて大事な要素ですから」
「イケメンやなかったら男やないみたいないわれ方するのが腹立ちますがな」
「誰もそんなことゆうてませんがな」
「ゆうても選挙なんですからいろんな要素を総合して判断してもらいませんと」
「それはそのとおりですね」
「そこらのパッパラパーの姉ちゃんみたいに男の顔だけ基準にしてどないする」
「もうええやないですか」
「男前だけで選挙に勝てるのであれば僕はあんな苦労はしなかったはずだゆうて去年の知事選挙で負けた村尾さんゆう人もゆうてはりましたからね」
「嘘をつくんやない嘘を」

「それでその知事の話なんですけどね」
「知事さんがどないしました」
「三重県が『知事と語ろう本音でトーク』ゆう事業を実施してまして」
「知事さんが県内市町村に出向いて県民と直接トークするゆうやつですか」
「名張市でも開かれるんですけど」
「知事さんわざわざ名張まで来てくれはりますか」
「じつはそのトークに僕も参加することになりまして」
「なんでですねん」
「悪い人にそそのかされたんです」
「そんなことしてたら君また世間からお調子者ゆうて笑われてしまいますがな」
「それは馴れてるんですけどトークに参加するためには事前意見送信書ゆうのを書いて県に送らなあかんわけです」
「私はこれこれこのような意見を申し述べますと事前に伝えるわけですか」
「ですからきょうの漫才はじつは事前意見送信漫才なわけでして」
「意見を漫才にするんですか」
「県庁内でも受けると思うんですけど」
「受け狙いに走っとる場合やないがな」
「それでトークのテーマを県の『ネットで県民参画』事業に決めたんです」
「どんな事業ですねん」
「四月の定例会見で知事から発表された新規事業でして簡単にゆうたら県政にインターネットを活用しましょうと」
「インターネットやったら県かてホームページ開いてますがな」
「県のホームページで上意下達式に行政情報を提供することは以前からやってるわけですけどインターネットの双方向性をもっと活かそうゆう話なんです」
「どないしますねん」
「県民から広く意見を集めるために電子掲示板を利用するんです」
「ホームページ見てる人が誰でも自由に意見を書き込めるやつですな」
「県の電子掲示板にひとつのテーマを提示して県民の意見を募るわけです」
「なかなかええことやないですか」
「たしかにちょっと聞いただけでは先進的な感じがしないでもないんですけど」
「実際は違うんですか」
「ですからそのあたりを問題にして事業の見直しを知事に迫りたいなと」
「けど始まったばかりの新規事業にどんな問題があるゆうんですか」
「二件の先行事例に基づいて判断すると三重県がインターネットの双方向性を活用するのは無理やないかと」
「先行事例二件といいますと」
「ひとつは二〇〇四伊賀びと委員会が開設してる『生誕三六〇年芭蕉さんがゆく秘蔵のくに伊賀の蔵びらき』事業ホームページの掲示板ですね」
「君まだそれゆうてるんですか」
「しつこいようですけど腐れ縁で」
「あの事業に関しては『伊賀百筆』十三号であれだけ喋ったわけですから」
「でもあれは去年の大晦日までの話題で打ち切りましたから」
「そのあとまた何かあったんですか」
「今年に入ってから十八万伊賀地域住民を震撼させる伊賀びと委員会ホームページ掲示板閉鎖事件ならびに過去ログ封鎖事件ゆうのが起きたんです」
「そんな事件誰も知りませんがな」

「順を追って説明しますと事業を企画運営する官民合同の二〇〇四伊賀びと委員会がホームページを開設してまして」
「ホームページは事業の紹介とか募集とかいろんなことに利用できますから」
「それで去年の十月にこのホームページに電子掲示板が新設されたんです」
「君またいろいろしょうもないこと書き込んでたそうですけど」
「ほかの人からも事業に関する提案や要望や質問や批判が投稿されましてね」
「それだけ事業に関心をもってくれてる人がいるゆうことですがな」
「ところが掲示板の開設者である伊賀びと委員会がそうした投稿に応えることはいっさいありませんでした」
「委員会にも事情があるでしょうから」
「わずかに掲示板管理担当の県職員が可能な範囲内でお相手をするのみでして」
「その掲示板が閉鎖されたんですか」
「今年二月にいきなり閉鎖されました」
「予告もなしにいきなりですか」
「しかもそれまで公開されていた過去の投稿もすべて閲覧不能になりまして」
「それが過去ログ封鎖事件ですな」
「閉鎖と封鎖のあとで委員会の釈明がホームページに掲載されたんですけど」
「どんなこと書いてありました」
「《掲示板は、市民の方々からたくさんのご提案をいただき、その書き込みに対応したり、また、伊賀びと委員会の委員それぞれが活発に自身担当業務の進捗状況を報告したり、思うところを自由に書き込むなどを想定していましたが、準備と周知の不足からそのような広がった展開ができませんでした。/大変申し訳ございませんが、掲示板は当分の間停止させていただきます》」
「掲示板を思いどおりに活用できなかったから閉鎖したゆうことですか」
「つまり委員会は深い考えや先の見通しもなしにただの思いつきで掲示板を開設しただけやったんです」
「そんな決めつけたらあきませんがな」
「この釈明文には掲示板はあくまでも自分たちの私物なのであるという委員会側の認識も示されてるわけですけど」
「私物ゆうこともないでしょうけど」
「彼らには掲示板が開設者と閲覧者に共有された言論の場であるという認識がなかったんです。掲示板を開設しておきながら投稿に応えようとしないばかりか運営に支障が生じたら勝手に閉鎖してしまう。これは明らかに言論の封殺です」
「言論の封殺て君またそんな大袈裟なこといいますけどね」
「みずから提供した言論の場を一方的に閉鎖するのは言論の封殺以外の何ものでもありません。都合が悪くなったら問答無用で掲示板を閉鎖し過去の投稿まで読めなくして何もなかったことにしてしまう。そしてそのことの重大さに気がつきもしないのが彼らなんです。あの委員会はそんな程度の人間の集まりなんです」
「そんな程度ゆうたらあきませんがな」
「ただしこの事件は三重県民以外にも多くの人に目撃されてますからこのまま頬被りを決め込むことはできません」
「誰が目撃してましてん」
「そらもう大阪の臼田さんとか徳島の小西さんとかいろんな方ですけど」
「知らんがなそんな人」

「だいたい『生誕三六〇年芭蕉さんがゆく秘蔵のくに伊賀の蔵びらき』事業そのものがそうなんですね」
「そうなんですねといいますと」
「伊賀びと委員会は事業において果たすべき情報公開と説明責任をまったく果たしてないわけですから」
「まったくとはいえませんやろけど」
「この掲示板の問題にも委員会のそうした姿勢が反映されてるわけなんです」
「公開されるべき情報が非公開やったり説明責任を回避したりゆうことですか」
「せやからもうあかんやろと」
「何があきませんねん」
「官民合同の委員会ゆうたかてしょせん行政の隠れ簑であって民間委員は県に丸め込まれてしもてるわけですから」
「そんな傾向はあるかもしれませんね」
「掲示板騒動には三重県の体質と権力の本質がそのまま示されてるわけです」
「それがあかんわけですか」
「県民の言論をここまで封殺した三重県がどの口で『ネットで県民参画』みたいなこと抜かしとるねんゆう話ですがな」
「たしかに掲示板をいきなり閉鎖した前歴があるわけですから」
「これが一般の審議会みたいなお役所の諮問機関やったら話は別なんですよ」
「国の審議会とか県の審議会とかいろいろありますけど」
「審議会のメンバーは行政に都合のええ人間を集めるのが一般的ですから」
「いわゆる学識経験者とか有識者とか」
「御用学者とか御用文化人とかですね」
「逆にいいますと日ごろからお役所に批判的な人間はメンバーに選ばれないと」
「早い話が伊賀びと委員会の民間委員かてそうですがな」
「そうなんですか」
「あんな民間委員こてこての体制順応派ばっかりですがな」
「こてこてでもないと思いますけど」
「ところがインターネットで県民の声を集めるとなるとお役所に都合のええ人間ばかりが集まってくるとは限りません」
「お役所敵対派も集まりますか」
「ただしたとえ敵対派の声でも正当な意見であれば耳を傾けなあかんわけです」
「それは当然のことですね」
「真摯で正当な言論を伊賀びと委員会みたいに頭から封殺してしまうのは結局のところ知事のおっしゃる『新しい公』という考えを否定する行為なんです」
「『新しい公』は実現できませんか」
「多様な主体が連携協働して『新しい公』を担うとおっしゃるのであればまず地域住民の多様性を認めなあきません」
「地域住民という多様な主体を認めてその言論を尊重することが大切であると」
「『新しい公』ゆうのはいわゆる住民自治の概念を知事なりに表現した言葉なんでしょうけど住民自治の第一歩は何かゆうたら行政と住民が対等の立場で情報と責任とを共有することですからね」
「そのあたりは伊賀びと委員会にとって耳の痛いことかもしれませんね」
「つまり三重県は『ネットで県民参画』事業で目を白黒させる前に伊賀びと委員会電子掲示板における不始末の白黒をはっきりさせなあきませんねん」
「『ネットで県民参画』で目を白黒させてる人なんかいてない思うんですけど」

「つづきまして先行事例の二件目は『e−デモ会議室』なんですけど」
「電子掲示板で会議するわけですか」
「おととし始まった事業なんですけど電子掲示板を利用した会議室で県民がさまざまなテーマの意見交換を進めてます」
「それやったら新規に『ネットで県民参画』やる必要はありませんがな」
「そうなんです。『e−デモ会議室』に三重県側がテーマを提示したらそのまま『ネットで県民参画』になるんです」
「なんでそんな無駄なことしますねん」
「お役所は無駄なこと好きですから」
「そんなことゆうとったらあかんがな」
「僕にいわれても困るがな」
「それでその『ネットで県民参画』には何かテーマが提示されたんですか」
「いまのところ唯一のテーマは『伊勢志摩ばりふりマップ』ゆうやつです」
「なんですねんそれは」
「伊勢志摩地区のバリアフリーマップをつくろうゆう話でしょうね」
「ばりふりゆうのはバリアフリーの略称とか愛称とかみたいなもんですか」
「むしろ符丁と呼ぶべきでしょう」
「ちょっとわかりづらいですけどね」
「たしかに符丁ゆうのは仲間感覚とか身内意識に基づいてますから多くの県民から意見を寄せてもらう場に符丁めいた言葉を用いるのはいかがなものかと」
「けど意味が通じたらよろしやないか」
「いやいや。つまりこれは同質性の顕示と異質性の排除の問題なんです。簡単にゆうたらばりふりゆう言葉つかうのはそこらの女子高生がオナチューとかゆうてるのとおんなじことなんです」
「オナチューゆうのはなんですねん」
「そんなわけのわからん言葉で喋ってる女子高生の輪の中に入りたいですか君」
「入りたいかどうかの問題以前に君の場合はまず入れてもらえませんやろね」
「そうなんです。電子掲示板で群れてる人たちは無自覚のうちに他者を疎外してる場合がありますから注意が必要です」
「やっぱり疎外はまずいですやろね」
「しかしそんなことは些細なことなんです。この『ネットで県民参画』にはもっともっと重大な問題があるんです」
「といいますと」
「電子掲示板は投稿の操作をしたら投稿記事がすぐに掲載されるんですけど」
「『ネットで県民参画』はどうですねん」
「掲載までに時間がかかるんです」
「またなんでですねん」
「エディターゆう役目の人が投稿内容に間違いなんかがないかをチェックしてOKやったら初めて掲載するわけです」
「なかなかよう考えてありますがな」
「感心しとる場合やないがな」
「なんでですねん」
「これは明らかに検閲ですがな。日本国憲法第二十一条で『検閲は、これをしてはならない』ゆうて禁止されてる検閲を三重県が堂々とやってるわけですがな」
「せやから君またそんなことゆうて話をどんどん大袈裟にしますけどね」
「どこが大袈裟ですか。三重県は完全な憲法違反を犯してるわけなんですから」
「ほなどうしたらええんですか」
「『知事と語ろう本音でトーク』の場で白黒をはっきりさせます」
「やっぱり白黒が問題ですか」

「そんな感じで先行事例二件を検討してみた結果『ネットで県民参画』はどんならんという結論が出てしまいました」
「ほなその結論に基づいてトーク会場で知事さんにどんな話をしますねん」
「伊賀びと委員会ホームページの掲示板問題に関しましてはあの閉鎖と封鎖という不始末を知事はどのようにお考えか」
「けど知事さんは掲示板閉鎖の事情なんかご存じないと思いますけど」
「せやからトーク会場に当時の伊賀県民局長の臨席をお願いするわけです」
「そんなことできるんですか」
「閉鎖に関するくわしい事情を確認せんことにはトークが進みませんがな」
「それはそうでしょうけど」
「仔細を確認したうえで知事はいったいどのような存念をお示しになるのか。白黒をはっきりしてもらわなあきません」
「ほな二件目はどうですねん」
「ITの活用とかなんとか派手な看板掲げて先走るんやなしに地に足のついたことをやってくださいとお願いします」
「三重県は地に足がついてませんか」
「『ネットで県民参画』かて電子掲示板にこだわらんと電子メールで集めた意見をエディターがまとめてホームページに掲載したらええだけの話なんです。地に足をつけて普通にやったらええんです」
「それやったらすっきりしますけどね」
「このままではIT先進県どころか憲法違反の検閲先進県ですがな」
「憲法違反かどうかわかりませんがな」
「ですからトーク会場ではこの事業の検閲問題に関して県の顧問弁護士の見解を発表していただくつもりです」
「またそんな大袈裟なことを」
「もちろん最大の問題は掲示板の閉鎖や投稿の検閲を平気でやってしまう県関係者の意識と体質にあるんですけど」
「それはそうでしょうけど」
「ただ検閲の疑いがあるわけですからこの際専門家の見解を知りたいなと」
「それでトークはいつですねん」
「名張市会場は十三日ですね」
「参院選の翌々日ですか」
「イケメン対決の次の次の日でして」
「それは関係ありませんがな」
「でもきのうなんか津田健児さんの関係者の方からお電話をいただきましてね」
「君ヨン様と知り合いなんですか」
「中森先生のご紹介ゆうことで」
「中森先生てどなたですねん」
「県議会議員の中森先生ですがな」
「なるほど」
「かと思たら芝博一さんの実の妹さんからもお電話を頂戴しまして」
「杉様の妹さんですか」
「ちゃーん。とかいいながら北大路欣也の『子連れ狼』見てるときでしたけど」
「そんなことどうでもええがな」
「話を聞いてみたら妹さんは山田君から僕のこと紹介されたらしいんです」
「山田君て誰ですねん」
「山田君や山田君。ほれ。東町の。あんこ屋の。ポメラニアン飼うてた山田君」
「知りませんがなそんな人」
「オナチューですよオナチュー」
「せやからオナチューてなんやねん」
「同じ中学のことやがな。けど君知らんかな僕と名張中学で同級やった山田君」
「そんなん全然知らんちゅー」

(二〇〇四年七月六日)

掲載2004年7月7日
番犬追記この漫才は三重県事業「知事と語ろう本音でトーク」の事前意見送信書記入項目のうち「知事に話したいこと」として2004年7月7日午前7時51分に三重県総合企画局広聴広報室へ電子メールで送信したものです。