第九話

殺人万華鏡
江戸川乱歩執筆年譜補遺(その二)

 昭和23年3月1日に刊行された『殺人万華鏡』に、乱歩の「序」が掲載されている。『江戸川乱歩執筆年譜』から洩れていたもので、東京都の竹内博氏からご教示をいただいた。
 発行所は自由出版。表紙には表題のほか「江戸川乱歩選」「新人傑作集」「新作スリラー叢書」と記載されている。
 「序」によれば、前年の「宝石」誌新人投稿に入選した諸作に、乱歩が同誌に推薦した天城一の作を加え、「新人発足の記念として世に贈るものである」という。ただし、香山滋の作は岩谷書店が一本にまとめる計画があったため、この集からは省かれている。
 「序」の一部を引いておく。当時の乱歩が新人発掘に傾けていた情熱を窺うことができるだろう。

 我々の推理小説界は今、出発以来三度目の隆盛期に入らんとしている。第一の隆盛期は大正末から昭和のはじめにかけて、第二のそれは昭和十年前後、小栗、木々両作家出現の時、そして、第三のそれは現在である。木々、小栗に匹敵する大作家はまだ現われていないが、本選集の新人の内からそれが出現するかも知れない。そうでなくても、これらの人々が第三隆盛期作家群の一翼をなすことは云うまでもない。私は諸君の推理小説への情熱が愈々旺んならんことを祈り、その精進を期待するものである。

 「序」末尾の日付は「昭和二十二年十月」。
 『殺人万華鏡』収録作品は次のとおり。

 「犯罪の場」飛鳥高  「殺人演出」島田一男
 「砥石」岩田賛  「不思議な国の犯罪」天城一
 「達磨峠の事件」山田風太郎  「鸚鵡裁判」鬼怒川浩
 「網膜物語」独多甚九


掲載 1999年10月21日