第二十五話
人でなしドラマレビュー
明智小五郎対怪人二十面相 vs 乱歩R
人でなし倶楽部
明智小五郎対怪人二十面相
2002年8月27日放送 オフィシャルサイト
八本正幸
2002/08/28(Wed) 00:08:30

 ってなわけで、前々から盛んに宣伝していた『明智小五郎対怪人二十面相』がついにオンエアされました。
 今回の目玉は、明智に田村正和、二十面相にビートたけしというキャスティングであることは言うまでもありません。
 まあ、遅すぎた適役といった観はぬぐえないものの、話題性だけでなく、興味深い企画であることは間違いありません。

 冒頭、いきなり敗戦直前の満州からドラマがはじまったのには、ちょっとびっくりしました。
 敗戦間際の悪魔の生体実験というノリは東宝映画『フランケンシュタイン対地底怪獣』を彷彿とさせ、なかなかゾクゾクとさせられました。
 風景が日本ぽくないなと思ったら、やっぱ中国ロケをしてたんですね。
 ちなみに号外が配られるシーンは千葉県佐原市のロケ。伊能忠敬旧宅前です。地元だけに、これは一発でわかりました(笑)。
 続いて国立博物館ロケのスペクタクルに突入。
 ビデオ撮りの薄っぺらな映像はいかんともしがたいのですが、それでもポプラ社版少年探偵シリーズに親しんだ身としては、柳瀬茂画伯の挿絵を彷彿とさせる絵づくりには好感が持てました。
 田村正和の明智小五郎は、予想通り古畑任三郎テイストがプンプンして、最初は馴染めませんでしたが、ラストではしっかり「田村明智」になっていたと思います。特に、顔は田村のままで、声はたけしという場面での、ひきつった表情が見事でした。
 たけしの二十面相は、いかにも「戦後」って顔をしていて、それなりのリアリティがありましたね。
「戦争が生んだのっぺらぼう」という解釈は、いかにも現代的ですが、一理あるなと思った次第です。
 小林少年役の子役は、いかにもワルガキ風情で、これじゃあ女装は望めないなと思っていたら、ちゃんとやってましたね。
 中村警部役は伊東四朗で、芸達者な人だけに、無難にこなしていたと思います。
 文代さん役の宮沢りえに関しては、好みのわかれるところでしょうが、私は好演だったと思います。
 最後に二十面相の側につく、ってのも悪くなかった。
 ラストの「二十面相はまた現れる」と呟く明智のセリフは、間違いなく『ゴジラ』からの陰陽、もとい、引用だぁねぇ。
 新解釈も多々あり、決して原作に忠実な映像化とは言えませんが、これはこれで楽しめる出来になっていたと思います。
 こうしたヴァリアントを発生させることが出来るのも、やはり原作の力であろうと思う次第です。
 みなさんはいかがお感じになりましたか?

もぐらもち 
2002/08/28(Wed) 12:33:11

 八本さんこんにちは。これが初書き込みになるような気が。どうぞよろしくお願いします。

 さて『明智小五郎対怪人二十面相』、冒頭の国宝盗難は非常に「らしかった」ですが、それ以降の二十面相は強引極まる強盗犯・誘拐犯・殺人犯で、犯行が全然スマートでなく、その点はちょっとがっかり。金庫を開けさせるトリックとか、アイディアは確かに披露されているんですが、結局お宝の盗難自体が明智抹殺の為の手段に過ぎないので、何だかどうでもいい扱いだったように見えました。やっぱり二十面相は「どうやって盗んだんだろう? いつの間に?」と子供(含む視聴者)と知恵比べをしてくれないと少し物足りない。
 今回の、明智との因縁に囚われている二十面相にはそんな余裕はなかったようですが。

 変幻自在の二十面相の実体は自分の顔を失った男、という設定については素直に良かったです。ただ、次から次へと顔を変え姿を変える二十面相に、あくまで豪華絢爛なショーマンシップ、空想的な変身願望をイメージしていた私にすると、明智抹殺の動機を、自己喪失の苦しみ・絶望感から逃れる為に明智への憎悪を必要とし、変装につぐ変装を繰り返した、と語る復讐鬼の二十面相はあまりにも哀しくありました。
 戦争が生んだ二十面相というのは、大人の甘酸っぱいノスタルジーにしては刺激的だと思いましたし、ご家庭エンターテインメントにしてはヘヴィな印象で、「怪人二十面相」にポップな感覚を抱く人間としてはその点からも終始違和感が。もっともこれは勝手に「少年探偵団」世代狙い、家族の団欒狙い、と視聴者層を限定した印象で見てしまったこちらの見方の問題が大きいのでしょう。旧態依然とした「明智」「二十面相」イメージの再生産をはじめから放棄して、現代の視点から第二次大戦という「時代」を通して怪人二十面相の存在を解釈したのが本作品だったという事なのでしょうから、「私の持ってるイメージと違う!」なんて言うだけ野暮ですね。
 しかしヘヴィな時代背景を背負った「夢のない」二十面相を描きながら、その「夢」の代わりとなるもの、あるいは「夢」以上のものを提示し得たとは思えませんので、その点、ちょっとほめられないかな、といったところです。
 それから、ストーリー運びはもう少しテンポ良くならないのでしょうか。場面転換や活劇の多さのわりに小気味良い感じを受けませんでした。たけしの走り方のせいだろうか(笑)。

 甚だ簡単ですが取り急ぎ。

横井 司
2002/08/28(Wed) 13:34:12

 もぐらもちさま、こちらでは始めまして。こちらでもよろしくお願いいたします。

『明智小五郎対怪人二十面相』は、てっきり金曜日だと思っていたんですが、後輩連と会っていたため、前半は酒場の音のないテレビで、後半は後輩のアパートで他人の論文の校正をしながら観ていたので、まとまった印象もろくに語れないです。

 最後の場面で二十面相扮する殿村が、石膏像から子供を救出した場面は、『妖怪博士』(だったかな)でお馴染の場面ゆえ、あれが二十面相だよと後輩連に言ったら、よく分かりましたねと尊敬されました(苦笑)。常識だっちゅーの。そのときいた後輩連は、これまでの二十云年間、少年探偵団を1度も読んだことがなかったそうで、ああ、これからはこういう世代が増えるんだなあ、と感慨深いものが……。

 後輩連は、叶姉妹の妹とか、豪華キャストを話題にしておりましたが、横井は、宮沢りえが文代さんという役名なのが気に入らず、何で文代さんが二十面相のもとに走るんだ、と思ってしまったのは、きちんと腰を据えてみなかったせいでしょうか。

 で、西田敏行扮するマッド・サイエンティストは、何の実験をやってたんでしょう? 変装名人の究極のスパイでも作ろうとしてたんでしょうか。二十面相は自分の顔を失ったのを悲しんでいたようでしたが、若い後輩は、その悲しみが分からないようでした。たけしの顔も持っているわけですから、それをかぶって生きればいいといえばいいんですが、ま、安部公房でも読みなさいと突っ込みたい感じですね。

 ただし、それも腰を据えてみなかったからかもしれませんし、何よりも、変装ばかりしていると本当の自分の顔すら分からなくなるくらいだよ、というルパンから二十面相にまで通底するモチーフが、ライバルの顔に変えられてしまったから復讐心を抱くという精神構造と、うまくリンクしていないような気はします。結局、二十面相というのはハウス・ネームのようなもので、したがって二十面相に対して今回の文代のように、ある種の感情を持つというのは、違和感があるといえばいえます。「二十面相」とは名前だけで人格が空虚なんですから、恋愛に類する感情の対象にはならないのではないかという気がします。たけしの役には本名がありましたっけ? その本名で呼びかけていれば、まだしも、というところでしょうか。

 小林くんは詰め襟を着た紅顔の美少年ではなく、いかにも戦災孤児という感じでしたから、女の子に変装したのにはびっくり。ま、さすがに顔までは出せませんでしたが。それにしてもあのお馴染の空き缶を使ったコールタール尾行装置、あんなに大きいんじゃばれちゃうよねえ。笑っちゃいました。原作だと犬を使って追跡するんじゃありませんでしたっけ? あれだと確実に誰かに見つけられますよ。

 田村正和はもう70歳くらいなんでしょうか? その年で、あの立ち回り。大変だなあと後輩連は申しておりました。確かに。先に書いたような変則的な観方をしたせいか、八本さんと違って、最後まで古畑の印象は抜けませんでした。殿村の正体を暴くシーンも、妙に声が甲高くて、変。ただ、明智というのはジジイの癖に若く見える奴ですから、その意味ではぴったりだったかもしれませんね(笑)。

 あ、今思いつきましたが、戦前の怪実験、マッド・サイエンティストの2人の弟子の確執、というプロットは、まんま、京極夏彦の京極堂シリーズの背景を思わせますね。作品世界の時代はずれますが、影響受けてるんじゃないかなあ。いかがでしょ?

 何とかレスをつけることができたので、変則的とはいえ観られてよかったです。はなはだ散漫ながら、以上です。

戸倉真暗
2002/08/28(Wed) 23:11:04

 初めまして。名張人外境の人外境だよりから、ここへ辿り着きました。
 昨日の『明智小五郎対怪人二十面相』ですが、とても楽しめるドラマだったと思います。
 内容よりも、まずビジュアル的なものが、抜群でした。ポカーンと口をあけて、何も考えず、煙草でも燻らせながら見るには、適したドラマです。ですから、何度見ても飽きないのではないかと思います。
 一応、少年探偵もののフィーリングも満足させてくれていたのではないかと思います。
 冒頭のシーンですが、八本様の『フランケンシュタイン対地底怪獣』に似ているという書き込みに、なるほどなあ、と思いました。(実験の手術中に広島の原爆でやられてしまう、ちょい役の志村喬が、勿体なかったという記憶があります。)
 二十面相は、可成りイメージが違いましたが、あれはあれで良かったと思います。哀愁を感じました。
 最後のシーンで、吉永文代が二十面相の元へ行くというのは意外でしたが、情死の美学のようなものがあって、共感できました。ちょっと違うかも知れませんが、『ガス人間第一号』のラストシーンを思い出してしまいました。
「このドラマを見て、安部公房を感じてしまった」と、名張人外境の中相作様が書いておられましたが、ああ、そうか、なるほどなあ、と思ってしまいました。
 多分、「他人の顔」のことを言っておられるのだろうと思いました。顔のない者の悲しさ、ということをドラマの最後にまとめていたので、そう思いました。
「他人の顔」の映画は、ちょっぴりグロテスクで、素晴らしく良く出来た映画でした。何故かしら、田中邦衛に「空襲警報は解除よ」と諭すように言っていた、顔に痣のある女性のことを鮮明に覚えております。

横井 司
2002/08/29(Thu) 00:22:46

 戸倉さま、はじめまして。↑↓のようなことを書いております横井と申します。

>> 「このドラマを見て、安部公房を感じてしまった」と、名張人外境の中相作様が書いておられましたが、ああ、そうか、なるほどなあ、と思ってしまいました。

 ぼくは、DVDの勅使河原BOXをまだ買ってないので、映画の『他人の顔』を観てはいないのですが、やっぱり後輩連に、安部公房を読めと突っ込みたい気分になったのは、独りよがりではないのだと、安心した次第です。

八本正幸
2002/08/29(Thu) 00:30:43

>もぐらもちさん
 こちらでもよろしくお願いします。

 確かに、プロローグから最初の国立博物館へ至るシークエンスにくらべると、後半の展開がもたついている感じはしましたね。
 ご指摘のように、復讐鬼となった二十面相には、原作のスマートでお茶目な怪人のイメージはなくなっていましたね。
 それもまあ、たけしという配役ゆえの必然的な選択であったかと思います。
 私はむしろ、北村想の『怪人二十面相伝』『青銅の魔人』あたりのテイストに近いものを感じました。
 ただし、「個人への復讐」に固執する二十面相というのは、やはり矮小化という感じもしないでもありませんね。「ヘヴィな時代背景を背負った『夢のない』二十面相を描きながら、その『夢』の代わりとなるもの、あるいは『夢』以上のものを提示し得たとは思えません」というご指摘は、確かに一理あるように思います。

>横井さん
 西田敏行のマッドサイエンティストは、役者の怪演もあって、なんとなく丸めこまれたような気がします。
 だって、冷静に考えるなら、他人そっくりの顔にしてしまうなんて、とても大それた研究とは思えないもんね。
 と、観ながらも頭の隅で突っ込みを入れていましたが、ただ『猟奇の果』からの引用だったとすると、けっこう興味深いものがありました。
 そうそう、この研究が後のショッカーへと繋がって行くに違いありません。
 って、おい。
 安部公房との関連については名張人外境の中さんもおっしゃっていましたね。
 私もラスト近くで『他人の顔』を思い浮かべました。
 そう言や物語の発端は満州だ。
 しかし、安部公房の作品そのものに乱歩と共通するものが感じられることも確かだと思います。
『他人の顔』はもちろんのこと『箱男』なんて、裏返しの「屋根裏の散歩者」って感じだもんね。
 あと、田村正和は、明智役には少々歳をとりすぎた感じはあります。『化人幻戯』くらいの設定だったらピッタリだったかも。

>戸倉真暗さん
 はじめまして。
 お書き込みありがとうございます。
 ヴィジュアル的には、デジタル合成技術の進歩が、この作品をささえていたと思います。
 銀座の街の俯瞰カットなんて、特撮を観慣れた者の眼には一発で合成だとわかりますが、テレビドラマでこういう映像が観られるなんて、なかなか豪勢な世の中になったと思います。
 二十面相が次から次へとマスクを脱いで行く場面など、昔なら絶対にカットを割って誤魔化すところですもんね。
 吉永文代が二十面相の元へ行く場面で、『ガス人間第一号』を思い出しましたか?
 う〜ん、けっこうすんなりと文代の行動に感情移入出来たのは、きっとそのためだったんですね。
『ガス人間第一号』は大好きな映画です。
 余談になりますが、金子修介監督の『クロスファイア』(宮部みゆき原作)も、『ガス人間』へのオマージュだと思います。
 ちなみに、キャストを見た時には、てっきり黒木瞳が文代さん役だと思ってしまいました。
 あと、警官たちが提灯を持って夜間警備をしているって絵面がラブリーでした。

八本正幸
2002/08/30(Fri) 23:24:40

 先ほど『名張人外境』の「人外境だより」を覗いてみたら、『明智小五郎対怪人二十面相』に関する中相作氏の以下の発言が書き込まれていましたので、引用させていただきます。

「漠然とした印象でいえば、乱歩の少年ものはいうならば永劫回帰の神話的世界なんですが、あのドラマではそれを地上に繋ぎとめようという、もしかしたら無益かもしれない試みがなされていたようで、たいへん面白く感じました。」

 う〜ん、酔っていながら鋭い指摘!
 酔えば酔うほど強くなるという香港映画『酔拳』というのがありましたが、中氏の場合、酔えば酔うほど眼力が鋭くなる「酔眼」のようですね。
 感服いたしました。
「もしかしたら無益かもしれない試み」というところが、味わい深いですね。

戸倉真暗
2002/08/31(Sat) 02:57:55

 再び、お邪魔をさせて頂きます。
 欲を言えば、このドラマには、青銅の魔人なり、夜光人間なりの怪人を出して欲しかったです。ドラマ後半部の設計図を奪う段で、これらいずれかの怪人を出していたら、往年の少年探偵ものファンの心をつかんで離さないドラマになっていただろうと思います。
 また、もう少し欲を言えば、乱歩映像には不可欠の(などと勝手に決めつけておりますが)お色気が欲しかったです。
 少年探偵ものですから、お色気がないのは当然ですが、(実は、そうでもない、少年探偵ものにも隠されたお色気があるのだ、などとまた勝手に決めつけております)やはり、少しくらいはそういう楽しみがあっても、一般視聴者の支持は得られた(或いは支持が増した?)のではないかとも思います。
 東宝特撮の「透明人間」にもドキッとするような美女の鞭打ちシーンがありましたし、(この映画には、盲目の少女にだけは、透明人間のおじさんの存在が分かるという設定に、泣かされてしまいました)「美女と液体人間」にも、あの下水道のシーンに、ちょっぴりお色気がありました。そういうものに、知らず知らずのうちに人の心は惹きつけられていくのではないかと思います。(実に勝手なことを申しております。)

 何を隠しましょう、最近、創元推理文庫の「人間豹」のあとがきを読んだのですが、人間豹は、特撮ヒーロードラマの先駆型である、という文章を読んで、ああ、なるほど、と思わずポンと膝を叩いてしまいました。
 人間豹の正体を明かさずに、未知の生物で終わらせるのは、ミステリー評論家に言わせてみれば、言語道断、ということになるのでありましょう。
 確かに私もあれを読み終わった当時は、あれ? とは思いましたが、「人間豹」の醍醐味は、ミステリーの作法がどうのこうのという次元とは、違うところにありました。
 昔、NHK連続ラジオ小説ドラマ「人間豹」での放送では、人間豹には実は妻がいて、その妻に裏切られた憎しみから、豹に変わってしまったという、無茶苦茶なこじつけを付け加えておりました。皮肉なもので、そういう事をされると、やはり人間豹は謎のままで良かったのだと思わずにはいられませんでした。

八本正幸
2002/08/31(Sat) 17:39:50

>もう少し欲を言えば、乱歩映像には不可欠の(などと勝手に決めつけておりますが)お色気が欲しかったです。

 うんうん、たしかにそこがこのドラマの最大の欠点だったかも・・・。
 せめて文代さんが縛られているところがもう少し色っぽかったら、と思わずにはいられません。
 乱歩作品というのは、みなさん年少の時に読むケースが多いと思いますが、禁断のエロスに触れてしまったという深いトラウマを、幼い心に刻み込まれたことでしょう。そしてそのトラウマこそが、乱歩作品をロングセラーにしている秘訣のように思います。

>何を隠しましょう、最近、創元推理文庫の「人間豹」のあとがきを読んだのですが、人間豹は、特撮ヒーロードラマの先駆型である、という文章を読んで、ああ、なるほど、と思わずポンと膝を叩いてしまいました。

 ありがとうございます。
 私は乱歩の、いわゆる「失敗作」と言われている作品が、実は大好きです。
『人間豹』をはじめとして、『猟奇の果』や『恐怖王』なんて、どこに出しても恥ずかしくない大「失敗作」だとは思うのですが、なまじの「成功作」にはない魅力があると思います。
『人間豹』は、ミステリだと思うから失敗作のように思われてしまいますが、伝奇活劇として読むと、とっても面白い小説だと思います。
 そもそも乱歩には伝奇作家としての、たぐいまれな才能があった。
『孤島の鬼』のように、ミステリとしても面白いものはもとより、『闇に蠢く』とか『大暗室』とか、伝奇小説として読むとより一層面白く読めるように感じます。
 乱歩本人が本格ミステリにこだわったことによって自縄自縛になってしまったのと同様に、読者としてのわれわれも、やはりミステリということにこだわりすぎて評価を誤ってしまうケースがあるように思えてなりません。

 あ、テレビドラマとはかけ離れた話題になってしまいましたね。
 でもまぁ、乱歩についてあらためて考え、語り合うきっかけになったという意味でも、今回のドラマは意義があったと思います。

乱歩R
2004年1月−3月放送 オフィシャルサイト
第1話「人間椅子」
八本正幸
2004/01/12(Mon) 23:51:43
 どうなることかと不安ではありましたが、まずは及第点のスタートといった感じでした。
 すでに先行情報としてネタバレしていたことではありますが、「人間椅子」と『盲獣』を「触覚芸術」という共通項でくくってカップリングしたアイデアは秀逸でした。
 犠牲者となる女性が椅子の中に閉じこめられるという逆転の発想も悪くなかったですね。
 犯人役の武田鉄矢は、演技過剰なのと説教臭いのとで、嫌いな役者ですが、今回は抑制が利いていて好演だったと思います。
 椅子の中に入れられた乙葉の荒い息遣いがなかなかそそられました。
 大滝秀治が年老いた小林少年を演じるという趣向も良かったですね。小林老人の昔話として、初代明智小五郎の活躍が語られることによって、原作のテイストを盛り込むという手法も、悪くなかったと思います。
 主演の藤井隆は、可もなく不可もなくといったところですが、少なくても天知茂や北大路欣也よりは適任だったと思う次第です。
 岸部一徳は好きな役者ですが、いまひとつ役どころが解らない。
 明智探偵事務所の雰囲気は、大滝秀治が出演してることもあり、去年同局で放送した『最後の弁護士』の有働法律事務所に似ている感じがしました。ひょっとしてスタッフ一緒?
 乱歩のフェティッシュな世界がキチンと語られているところに、時代そのものの変化を感じました。
 時代がやっと乱歩に追いついたってことでしょうかね?
 これは悪いことではないと思います。フェティシズムもSM趣味も、差別化されることによって特権化するという逆エリート意識は、もう捨ててもいいのではないかと私は思います。
 ただし、及第点には達していたけど、突出した魅力にも欠けていたというのが正直なところ。
 ま、テレビドラマに石井輝男の『恐怖奇形人間』や増村保造の『盲獣』を期待しても無理というものですが・・・。
 とか言って、私も変態趣味を特権化してますね。あはは。
 次回は菅野美穂をゲストに「吸血鬼」。さて?
横井 司
2004/01/15(Thu) 22:10:49
 第1回ということもあり、ちょうど時間の都合がついたので観てみました。さすがに『人間椅子』だけでは無理だったのか、『盲獣』まで盛り込んでいましたね。フェティシズムつながりで、椅子職人が乱歩的怪人になっても説得力がある感じがしたのは、見事でした。武田鉄也が乙葉の手を取って、撫でるように削るんだと指導するシーンや、人間椅子の中に入った乙葉を座っている武田鉄也が撫で回すシーンが良かったです。期待した以上にエロティシズムを感じさせてくれました。こんなん、22:30なんて時間にやっていいのかしら。
 一方、椅子職人の口うるさい弟子(乙葉の兄弟子)は、怒鳴り方が安っぽい。観ていて不愉快でした。あと、今の女の子たちは家具に惚れてその職人になろうという感性を持っているのでしょうか。その設定がちょっと気になりました。明智の推理も超絶推理で、何で分るんだお前は〜、と突っ込みを入れたくなりました。妙に手がかりありげに描いているので、なおさら。
 ところで、主人公が明智小五郎の孫という設定には首を捻らずにはいられません。金田一少年の悪影響ではないかと思います。岸田一徳がそのまま明智をやればいいではありませんか。今回のエピソードは、武田鉄也が位負けするような明智でないと、バランスが悪い気がしますけど、通俗長編の怪人たちに対峙したとき、藤井隆ではちょっと弱い気がします。でも、これも観ていくうちに慣れてくるんでしょうか。はて。
八本正幸
2004/01/16(Fri) 00:02:32
 岸部一徳の明智小五郎、いいですね。
 あのヌボーっとしたところがマニアックです。
 でも岸部一徳主演じゃ、まず企画が通らないだろうな。
 大滝秀治とのコラボレーションといえば、「つまらん。おまえの説明はつまらん」という例のCMを思い出しますね。
 小林老人に頭の上がらない二代目明智小五郎って感じですね。
 結局、金田一少年の二番煎じのようなものなので、あまり期待してなかったんだけど、思ってたよりは良かったというところです。
第2話「吸血鬼」
八本正幸
2004/01/21(Wed) 01:18:07
「吸血鬼」という演目そのものを舞台劇という入れ子にしたアイデアは良かったと思います。それによって、大時代がかった物語世界が生きたという感じですね。
 マントをたなびかせて怪人が疾走するという絵ヅラは、やっぱワクワクします。
 だけど、菅野美穂という当代随一のヴァンプ女優を相手に、やっぱ藤井隆は弱すぎる。これじゃあ黒蜥蜴に惚れられることもないような気がしますね。
 それに対して岸部一徳はますます胡乱な感じで、やっぱこっちの方が明智っぽい。
 原作にとらわれることなく、乱歩の通俗長篇のさまざまな趣向を盛り込み、それなりに楽しめる出来ではありましたが、『金田一少年の事件簿』が、決して横溝正史の世界にはなりえなかったように、本作もまだまだ乱歩ワールドにはほど遠いという感じです。
横井 司
2004/01/21(Wed) 06:19:30
 う〜ん、家にいたんですけどね、精神的に余裕がなくて観逃してしまいました。上の書き込みの感じだと、黒蜥蜴が惚れるのは岸部一徳の方だったりして(笑)。
紅王(野中友博)
2004/01/21(Wed) 23:19:44
 初回は見落としたのですが、これは見ました。
 菅野は泣かせたら当代一の女優と思ってましたが、最後の笑いにもそそられました。なんだか貫禄が出てきたという感じですね。
 次回の『暗黒星』、楽しみです。是非とも見たいぞ、三代目怪人二十面相!
第3話「暗黒星」
八本正幸
2004/01/26(Mon) 23:49:35
 回を追うごとに良くなっているって感じですね。
 今回は今までの中でいちばん観ごたえがありました。
 原作の骨格を上手く利用しながら、別の味わいのドラマになっていたと思います。
 特に見事だったのは「シンデレラの魔法」と「2分半のプレゼント」という趣向ですね。
 時計塔から落ちて行く仲間由紀恵が美しかったです。
 あと、本上まなみは特に好きな女優ではないのですが、今シリーズの役どころは、なんかかわいいなと思います。
 次回は松坂慶子で「黒蜥蜴」、けっこうアブノーマルなシーンもありそうで、楽しみではありますが、さて?
八本正幸
2004/01/27(Tue) 00:09:12
 あ、そういえば野中さんが期待してた三代目二十面相、やっぱ出るみたいですね。
 どういうかたちで出るのか、誰が演じるのかも楽しみです。
紅王(野中友博)
2004/01/27(Tue) 04:13:06
 ……不覚、見落としました。クワッパ仲間は是非見たかったのに……
 そうですか、次は松坂慶子の『黒蜥蜴』なのですね。ウルトラセブンのダリーでドキドキしていた不良中年としてはドキドキモノです。
第4話「黒蜥蜴」
八本正幸
2004/02/02(Mon) 23:32:09
 さすがに松坂慶子と藤井隆では、貫禄の差が歴然で、「追う者と追われる者との奇妙な恋愛感情」という風情にはなりませんでしたね。
 それでも原作を換骨奪胎しながら、しっかりとアブノーマルなテイストを残すあたりはなかなかの出来でした。
 SMクラブのシーンとか、今のテレビじゃ自主規制ギリギリのラインでしょうね。
 小林少年が指摘するように、やっぱ嶋田久作が二十面相なんでしょうか? 映画では明智を演じた役者が黒蜥蜴の手下にとどまっているとは思えませんが、殺人を犯しているところがちょっと気になります。
 美少年趣味はないので、件の楽園にはときめかなかったけど、あるいはこっちの方が乱歩趣味に叶っているかも?
 筧利夫が演じてる「堀越」という役名が「堀越捜査一課長殿」に由来することを、今頃気がつきました。
 次回は柳葉敏郎と井川遙で「白髪鬼」さて?
紅王(野中友博)
2004/02/05(Thu) 23:54:06
 何だか今一つの感じでしたね。藤井君では松坂さんに対抗出来なかったという感じです。頑張れ、藤井隆!
八本正幸
2004/02/07(Sat) 16:21:58
 藤井隆の主演というのは、当初からの不安材料であり、今回はその問題点が如実に現れたという感じですね。
 前作「暗黒星」の出来が良かったのは、脚本の力によるところ大ではありますが、相手役が仲間由紀恵だったからそれほど風格の差を感じさせなかったという事情もありますね。
 もとより私は俳優の「格」などにこだわる方ではないのですが、作品を構築する場合、やはりバランスは大切であり、役者の表現力、存在感、キャリア、知名度を含めた「格」というものをその目安にすることは、テレビドラマも興行である以上、必要であろうと思う次第です。
 それだからこそむしろ、藤井隆は頑張る余地があると思います。
第5話「白髪鬼」
八本正幸
2004/02/09(Mon) 23:15:27
 原作とは大いに違うテイストになってましたが、今回の「白髪鬼」、個人的にお気に入りです。
 つーか、井川遙、最高!
 こんな古本屋があったら、毎日入り浸り、手放すつもりもない本を売って、すぐに買い戻しに行くなんてアホなこともやりかねない。
 白いブラウスにグレーのカーディガンっていうファッションも何故か病的に好きなのです。出来ればカーディガンの色は黒か濃紺の方が良かったけど・・・。
 井川遙は、『tokyo sora』という映画をレンタルで観て以来、けっこう気になってたんだけど、この作品で完全にお気に入り女優の一人になりました。これ一作だったら釈ちゃんより好き。
 ってなわけで、暴走気味ではありますが、ドラマ的には原作を大胆に脚色し、それが成功していると思いました。
 大牟田を殺したのが四人で、一人ずつ殺して行き、元凶である妻殺しを思いとどまった次の瞬間、その妻に殺されてしまうという皮肉な結末も良かったです。要するに妻に二度殺された男ってわけだね。
 そして、結局誰も救えなかった三代目。
 こう言っては褒めすぎかも知れないけど、『怪奇大作戦』を彷彿とさせる無常感が漂っていました。
 もちろん『怪奇大作戦』にも「壁抜け男」とか「白い顔」とか「コウモリ男」とか、乱歩っぽいテイストの作品もあったしね。
 もう乱歩の原作云々ということを離れて、独立したシリーズとして楽しんでもいいんじゃないかと思います。
 とか言いつつ、次回は高橋恵子で「陰獣」!
 実は私、同じケイコでも松坂慶子より高橋(関根)恵子の方が好きなので、なんだかドキドキします。
紅王(野中友博)
2004/02/10(Tue) 01:48:20
『白髪鬼』というか『金髪鬼』でした。あれは恐怖の為じゃなくてブリーチで脱色した『ほぼ白髪鬼』ですな。
 誰も救えん探偵というのは、金田一(じっちゃんの方)もそうですが、ミステリの王道かも知れないですね。でも、今回は解く謎もないので、別に三代目は居なくっても良かったのではと思えますね。
 次回も大女優に位負けしそうな藤井君に励ましのお便りを出そう!
第6話「陰獣」
八本正幸
2004/02/16(Mon) 23:19:09
 今回はやっぱ原作が難物だったという感じですね。
 1時間枠でコンパクトに纏めるのは、かなり無理があったと思います。
 監視カメラやネット小説といった、原作の素材を現代風に翻案したところなどは、わりと好感持てたし、黒部進演じる小山田氏が牡蠣を歯茎で味わう話をするところなども良かったのですが・・・。
 そして、衰えたとはいえ、やはり高橋恵子の色香にはクラクラしました。
 赤い長襦袢姿もそそられましたが、やっぱストッキングを脱ぐところが絶品でしたね。
 ただ、いい雰囲気だったのはここらへんまでで、後半は駆け足になってしまい、単なる説明に終わってしまったという感じです。
 ラストで大江春泥のサイトが復活して「陰獣」のタイトルが現れるところも、何だかとってつけたような印象しかありませんでした。
 そういえば、小林少年が持っていた「黄金仮面」の記事が載った『少年パーク』って少年雑誌、やっぱ妙に気になりますね。
 次回は石川梨華で「地獄の道化師」、さて?
紅王(野中友博)
2004/02/16(Mon) 23:38:47
 何やら回を追う毎に明智さんの存在感が希薄になっているようです。企画として藤井君が小林少年の孫で、岸辺さんが自分では何もしない明智の孫とかの方が良かったのではと思えます。
八本正幸
2004/02/16(Mon) 23:45:50
 確かに紅王のおっしゃる通りですね。
 今回のは特に三代目の存在理由がなかったように感じました。
岸部一徳の明智小五郎、藤井隆の小林少年(青年)の方がしっくり行くように思います。
大滝秀治の小林少年は、いい味だけど、いなくてもいい。
 あと、ゲスト女優以外の共演者が妙に豪華なのも、藤井くんを埋没させている要因ではありますね。
第7話「地獄の道化師」
八本正幸
2004/02/23(Mon) 23:33:36
 祝・石川梨華初緊縛作品。
 でも縛り方、甘かったぞ。
 主演女優と主演男優の演技が学芸会レベルなんで、もはや語る価値もない作品ではありますが、やっぱ佐藤仁美は上手いなぁ。
 うんうん、愛されない者の気持ち、よっく解るぞ。
「愛した分だけ嫌いになれる」という岸部一徳のセリフ、なかなか含蓄ありました。
 作品としての完成度はシリーズ最低なんだけど、一カ所褒めるなら、写真の中で笑わなかった姉が、一度だけ笑った写真が、両親の葬式の写真だったというところですね。それが事件解決のトリガーとなるというところは、けっこう良かったです。
 あと、「ミラクル・ネオ・コーポレーション」の頭文字を繋げると「ミネコ」となる趣向とか、ね。
 余談ではありますが、この『地獄の道化師』、たぶん私の乱歩初体験作品です。小学校低学年の時に通っていた耳鼻科の待合室で、少女雑誌に掲載されていた本作のコミカライズを読んでます。だから原作に接した時の衝撃も印象深いですね。
 ま、乱歩の作品としては、特に傑出したものではないけれど、個人的には愛着のある作品です。
 較べるもの何だけど、同じ原作の映像化としては、フジテレビの陣内孝則版の方が良かったです。
 次回は葉月里緒菜で「化人幻戯」、さて?
第8話「化人幻戯」
八本正幸
2004/03/01(Mon) 23:57:50
 わりと原作に忠実でしたね。
 だけどその分、やっぱ地味になってしまっているわけで・・・。
 カマキリ夫人役の葉月里緒菜は、なんとなく容姿がカマキリっぽいので、個人的に劇場版『RAMPO』の羽田美智子よりは毒婦っぽかったです。
 カマキリ夫人が三代目の母親に似ていたという設定は、苦心の跡が感じられますが、あんまり効果的ではなかったと思います。
 もっとも、連続殺人を扱った本格ミステリだと、どうしても探偵が間抜けに見えてしまうものですが・・・。
 そうですよね、金田一さん。
 つーか、余計に藤井明智の存在感が希薄になったみたいですね。
 いっそのこと、本上まなみを三代目女明智ということにして、藤井くんはやっぱ小林助手といった配役の方が良かったんではないかと愚考する次第です。
 本上まなみのファッション、なかなかお洒落で私は気に入ってます。
 とはいうものの、芸人としての藤井隆には、前々から好感を持っているので、最終回までには「これぞ三代目」という心意気を見せてほしいものです。
 ってなわけで、次回はいよいよ「怪人二十面相 前編」。予告を見ると、ゲストも多彩で、なかなか豪華なスペクタクルが期待出来そうですが、二十面相が連続殺人犯みたいに扱われるのはどうしたものでしょう?
 やっぱ二十面相はあくまでも怪盗紳士でいてほしいものです。
 ま、蓋を開けてみないことには解りませんが・・・。

 ところでみなさんは、二十面相は誰だと思いますか?
 私はもしかしたら岸部一徳が二十面相なのではないかと思いはじめています。
 もっともこれだと、初回からレギュラーとして出演していた米倉斉加年が二十面相だったNHKの『明智探偵事務所』と同様の趣向となってしまいますが・・・。
 さて?

第9話「怪人二十面相 前編」
八本正幸
2004/03/08(Mon) 23:18:58
 どこがどう二十面相なんじゃ?
 って感じでした。
 ストーリーのベースになったのは『恐怖王』ですね。
 実は私、『恐怖王』大好きなんですよ。
 ま、ミステリとしては首尾一貫してなくて、明らかに失敗作なんだけど、華麗な殺人幻想譜って感じで偏愛している作品です。
 ってなわけなので、冒頭のディスプレイ殺人、氷漬けの花嫁といった趣向は、美しくて、とっても良かったです。
 ところが物語はこのディスプレイ殺人事件と藤崎奈々子の父親捜し、そしてなかなか姿を現さない二十面相ネタに分裂してしまって、いささか散漫な印象でした。
 ま、麿赤児と岸部一徳の2ショットなんて、すさまじかったですけどね。
「われわれは光だけを求めて生きていくことは出来ない」という雷道のセリフは含蓄があってよかったけど、ますます雷道=二十面相という疑いが濃くなってきました。
 次回はいよいよ最終回。
 二十面相はどのように三代目の前に立ち現れるのか?
 分裂した物語はひとつに集約されるのか?
 縛られて猿ぐつわされた本上まなみはどうなっちゃうのか?
 さて?
第10話「怪人二十面相 後編」
八本正幸
2004/03/16(Tue) 00:38:10
 やっぱ雷道が二十面相でしたねぇ。
 血縁の物語に収束するあたりは、乱歩ワールドが横溝ワールドに雪崩れ込むような趣きがありました。
 で、最後の最後で、藤井くんは名実ともに三代目となったわけで、そう考えると、このシリーズ全体が明智小五郎三代目誕生秘話といった感じがして、真の『乱歩R』は、実はここからはじまるのだ思った次第です。
 いろいろと不満な点も多々ありましたが、こうしてシリーズ全体を展望してみると、けっこういい番組だったなと思います。
 雷道が、最後まで「二十面相」と名乗らなかったところに含蓄がありましたね。
 つーか、私は二十面相=明智小五郎(『「新青年」趣味』第5号掲載の拙稿「怪人二十面相の正体、もしくは明智小五郎最後の事件」をご参照ください)だと思っておりますので・・・。
 全篇を通して、大滝秀治の小林少年もいい味でした。
 こうして乱歩ワールドは継承されて行くのですね。
 光と闇を併せ持つ探偵の物語として・・・。
 ま、少々点が甘くはなりましたが、シリーズ完結篇として、わりと気持ちのよい終わり方だったと思います。
 個人的には本上まなみの猿轡に座布団一枚!

 余談になりますが、ナマの岸部一徳氏を一度だけ見たことがあります。
 あれは90年のローリング・ストーンズ初来日の時でした。
 東京ドームから吐き出される雑踏の中を歩いていると、ふと、横に見たことのある顔がありました・
 それが一徳氏でした。
 一徳氏はお子さんを連れて、画面で見るのとおんなじ、ぬぼーっとした感じで歩いておりました。
 私の視線に気がついて、一瞬、こちらを見て、あ、こいつ、オレのことに気がついたな、という表情をされましたが、そのまま胡乱な目線を前方に戻して、歩いて行きました。
ザ・タイガース、PIG、井上尭之バンドと渡り歩いたベーシストは、1人1ジャンルの名俳優となって、今なお活躍中です。
 感慨深いものがあります。

すみだ
2004/03/16(Tue) 03:54:38
 はじめてお邪魔致します関西の乱歩ファン、といいますか、明智小五郎、二十面相、少年探偵団ファンのすみだと申します。以後お見知りおきを・・・。

 私も見ました『乱歩R』最終回!雷道が三代目の実の父親だったというオチ。葬儀屋と墓荒らしのエピソードを見たとき、いやぁ〜な予感がしていたのですが、予感的中。しかしどう解釈すれば雷道が父でありえるのか、私には納得の行く推論が組み立てられなかったのですが、ああいうことだったんですね。そしてその背後に二代目所長争いが絡んでいたところみると、結局、二十面相としての雷道という逸話は描かれなかったものの、二代目争いは二十面相ことサーカスの遠藤平吉が二代目団長争いに敗れて復讐する逸話があり、今回の乱歩Rもそのエピソードを下敷きにしているようで、犯罪に手を染めるきっかけが、二十面相と同じであったということのようですね。それ以外に今回の話に二十面相のタイトルをもってきた意図が見うけられませんでした。二重面相なら納得行きますが・・・。
 ひよっとすると当初は明智探偵事務所を内部からつぶす為に潜入した二十面相息子が雷道というう設定だったのかも知れませんが、二十面相が殺人をしてしまっては、視聴者から反感を買うと判断され、書き改められたのかも知れません。井川遙のD坂の殺人事件が実現しなかったように・・・。
 当初の回から、愛する人をその死後も自分のそばに遺体を保存して愛し続ける犯人が描かれていて、結末への伏線とも取れますが、「またかよ」って突っ込みたくなりましたね。しかも氷柱の美女!!葉月再登場かと思いきや、うまくごまかされてしまいました。
 それでも、辻褄合わせがうまく仕立てられていて、良くまとまっていたと思います。何より嬉しかったのは、小林芳雄の描かれ方でした。さすがは明智小五郎の一番弟子!おみごとな活躍でした。一体どうやって彼は雷道の居場所を突き止めたのでしょうか?そのあたりは二代目所長争いにも加わらず。弟子に徹していたところに謎があるようです。
 私の見解では、早くから雷道に何か悪のにおいを嗅ぎ取っていた初代明智の命を受け、雷道を二代目に指名しないことによってその本性をあぶりだし、ずっと雷道を監視しつづけていたのではないでしょうか?その過程で明智の孫が二代目所長の子供では無いと言う明智家の不名誉な事実を突き止め、初代の無き後、ボケた振りをしながら、雷道の動向を監視するとともに、三代目を暖かく見守っていたのでしょう。
 全ての真相は、とっくに調査済みだったのでしょうが、あえて教えず、三代目が自らの力量でことの真相に迫り、それを乗り越えることの出来る程に成長し、真の三代目として大成すること願いながら、その日が来るのをずっと待ち続けてきたんでしょう。うう〜っ、いい話じゃないですか。明智先生を尊敬し、その教えを守り続けた小林老人に拍手ぅ〜です。(涙)

八本正幸
2004/03/16(Tue) 20:10:29
>すみだ様
 書き込みありがとうございます。
 ドラマに描かれなかった裏面を想像すると面白いですね。
 小林老人への考察など、なるほどなと思いました。
 放送前は不安だらけだったんですが、この『乱歩R』、スタッフの乱歩作品への愛情が感じられて、良い作品になったと思います。
 何よりも、この作品がきっかけで、新たな乱歩ファンが増えるといいですね。
唯一気になったのは、やはり雷道=二十面相が殺人を犯していることですね。やっぱり二十面相には「怪盗紳士」でいてほしかったと思います。

>井川遙のD坂の殺人事件が実現しなかったように・・・。

 そうか、それで「白髪鬼」で井川遥の役どころが古本屋だったんですね。
 な〜るほど。

後日譚
八本正幸
2004/03/23(Tue) 20:39
 ゆうべは当然ながら『乱歩R』もなく、なんとなくノルマから解放されたような気分でのんびりしましたが、なけりゃないで、ちょっと淋しいような、複雑な心境です。

 で、今朝の『読売新聞』テレビ欄の「放送塔」という投書コーナーに「三代目明智に藤井は適役」という見出しで、埼玉県の家事手伝い・34歳の女性からの投書が掲載されておりました。
 見出しからもお解りのように、積極的な支持派の意見で、「成長した明智に会える日を心待ちにしています」と結ばれていました。ってことは『乱歩R2』もアリか?『乱歩R2D2』だったりして・・・。
 同様2通とあるので、支持派の人もそれなりにいたということになりますね。
 もし『乱歩R2』が実現するのなら、藤井隆の芸人としての毒の部分も、もう少し出してほしいと思います。先週、たまたま観た深夜番組での、藤井くんと井川ファラウェイ(遥)との掛け合いがものすごく面白かったもので・・・。

 蛇足ながら、極私的趣味による明智俳優ランキングを作ってみました。

1位 滝俊介(『江戸川乱歩シリーズ・明智小五郎』)
2位 嶋田久作(『屋根裏の散歩者』『D坂の殺人事件』)
3位 本木雅弘(『RAMPO』)
4位 陣内孝則(『地獄の道化師』他)
5位 田村正和(『明智小五郎対怪人二十面相』)
次点 藤井隆(『乱歩R』)

 1位獲得の滝俊介は、自分が乱歩作品に最初に夢中になった頃に放映されたドラマの主役なので、特に印象深いです。乞うDVD化!
 5位の田村正和は、二十面相役のビートたけしとコミでの評価ということになりますね。
ちなみにランキングには入ってないけど、NHKの『明智探偵事務所』も、横尾忠則のイラストを配したオープニングが印象的でした。NHKのことだから、ビデオ残ってないんだろうけどね。

 以上、『乱歩R』全10話、なんだかんだ言いつつ楽しませてもらいました。

掲載2004年4月18日
(copyright 八本正幸、もぐらもち、横井司、戸倉真暗)
(copyright 八本正幸、横井司、紅王(野中友博)、すみだ)
人でなし倶楽部
初出平成14年(2002)「人でなし BOARD」/平成16年(2004)「日蝕領通信