双葉十三郎

平成20・2008年

ぼくの特急二十世紀 大正昭和娯楽文化小史
 戦争が終ってから復活した『スタア』で、いわゆるハードボイルドの紹介をしたことがあるんですが、それがきっかけで江戸川乱歩さんと知り合いになりました。乱歩さんから会いたいと言ってきたんで、池袋のご自宅に会いに出かけたんです。一九四六(昭和二十一)年の五月のことです。このときのこと乱歩さんは、次のように書かれています。

 【五月九日】小川一彦(双葉十三郎)君初めて来訪。探小(編集部註:探偵小説)洋書四冊貸してくれる。こちらにも二重にある文庫本四冊呈上する。〔註、双葉君が探偵小説通なのに驚いたが、私の師匠ともいうべき、もっと外国探小通の男がいるから、今度連れて来ますという。それが植草甚一君であった。双葉、植草両君は飯島正氏などのグループで、戦前映画雑誌「スタア」に探偵小説を飜訳していたということを、はじめて知った〕(『探偵小説四十年(下)』光文社文庫)

 当時、乱歩さんのうちは焼け野原にぽつんとお蔵のように建っていました。このころのことは、前記のほか、乱歩さんが「幻影城」とかいろいろなものに書いていて、それらにぼくの名前もちらほらと出てきます。
初出・底本:双葉十三郎『ぼくの特急二十世紀 大正昭和娯楽文化小史』文藝春秋 文春新書 平成20・2008年3月20日
掲載:2008/04/05

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