科学画報

大正15・1926年

研究室大会(質問回答)
物理

回答者 東京女高師教授 藤村信次氏  

問(鏡張りの大きな球形の室)

鞍手中学校 安河内五郎君  

 中空のボールの様な円るい硝子の球を作り、その内部をすつかり鏡にして、人がその中に入つて見ればどんなに見えるでせうか。私は長い間考へて見ましたが考へれば考へる程分らなくなりました。
答(凹面鏡の原理から) 中に入つた人全体がどう見えるかと云ふ事は非常にむづかしい事ですが、その一部分づつを考へるには凹面鏡の原理から考へて見たらよいでせう。今考へる処の身体の一部と球の中心とを結び付けた線を延長して球面を切る点の附近では、凹面鏡の軸上に物体が在る時に生ずる像の関係となる故普通の物理書で学ぶ様に作図して見たらよいでせう。その球面の一部に対する焦点と物体の位置に従つて色々になります。即ち反対側から球の中心迄は前面に倒立し実物より小なる実像、中心から焦点(球面と中心の中央と見てよい)迄は倒立して実物より大なる実像、焦点から鏡面の間に人が来ると倒立し実物より大なる虚像となります。その他の方向でも同様にして距離の関係から色々の場合が生じます。故に人が例へば前面を見ると起立した大きな像を見るのに背面を見ると倒立した小さな像を見たり、頭上はその中間の変な形になつたりしたものを見るわけです。

初出・底本:科学画報 大正15・1926年8月号(7巻2号)
掲載:2009/02/23

名張人外境 Home > Rampo Fragment