西田政治

昭和30・1955年

乱歩さんと私
 私は父の死後、自分の好みにまかせて家の中を改造して、二階の表の間を簡単な洋室にして長椅子などをおいていたが、その部室で三人が初めて話し合つた。いたつて、はずかしがり屋で初対面の人との座談などには自信が持てなかつた私は、その頃、弟のようにしていた横溝君の応援を求めて立ち合つて貰つた。その時の乱歩さんの印象は頭髪は薄いがどことなく俳優らしい風貌で、随分凝つた和服を着ていた。横溝君も私も和服だつたと思う。会談後、三人で連れだつて元町通りを歩いた。
 それから後に、今度は私から乱歩さんの家を訪れた。京阪電車沿線の守口駅で降りたが、横溝君が前に一度行つたことがあるので案内してくれた。先日の答礼の意味もあり、また、その当時発行を計画していた「探偵趣味」の相談もあつたのだろう。何分にも三十年前のことで記憶が薄れている。
初出・底本:探偵通信13号 春陽堂 昭和30・1955年8月10日
掲載:2009/02/14

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