J. C. オカザワ

平成20・2008

江戸川乱歩 はちまき 身元不明の白身が揚がる
 江戸川乱歩が贔屓(ひいき)にしたのは、神田神保町はすずらん通りに暖簾を掲げる天ぷらの「はちまき」である。初めてこの店の存在を意識したのは、店先の記念写真のおかげ。1952年(昭和27)2月、日本作家クラブの例会の際に撮影されている。海音寺潮五郎や田辺茂一に混じって、俳優の佐野周二(タレント・関口宏の父)の顔も見える。江戸川乱歩も当然写っていて、はちまき姿の先代店主の肩に手を回しているから、その親密さを伺い知ることができる。作家クラブとの縁は、店の常連だった佐野周二が義兄の小説家・笹本寅に紹介したのがきっかけ。以来、さまざまな作家たちが出入りして、商売は繁盛したことだろう。
初出・底本:J. C. オカザワ『文豪の味を食べる 作家・落語家・芸能人・画家・音楽家が愛した店』毎日コミュニケーションズ マイコミ新書 平成20・2008年2月29日
掲載:2008/04/07

Rampo Fragment
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