Another Entry 2009
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2009年6月27日(土)

書籍
抒情的恐怖群 高原英理
4月25日 毎日新聞社
B6判 267ページ カバー 本体1700円
著:高原英理
町の底
呪い田
樹下譚
グレー・グレー
[初出:文學界 2008年10月号]
影女抄
帰省録
緋の間

 
 じつに印象的なタイトルのもとに怪奇譚七篇を収録した短篇集。巻末の初出紹介にはなぜか「国文學」とあるのですが実際には「文學界」に発表された「グレー・グレー」は、近未来を舞台にした長篇アニメに出てきそうな世界を背景に若い男女のまさしく抒情的な道行きを無彩色だけで描いたグランギニョール劇、といった趣の一篇なのですが、21世紀の初頭にいよいよ本物の世紀末が到来したかと思ってしまう昨今の救いなき現実ともリアルに呼応していると見受けられます。残りはいずれも書き下ろしで、「グレー・グレー」とはかなり異なった印象ながら、都市伝説の採取者が土地の記憶のくらがりに踏み迷う「町の底」から、古い屋敷に受け継がれた秘密が肉のおぞましさの絶巓を窺わせる「緋の間」まで、近代と前近代がわかちがたく綯い交ぜになったような独特の語りが著者ならではの戦慄を描き出します。とはいえ「樹下譚」には、乱歩の「人でなしの恋」と遠く響き合うような気配も漂っていないではありません。いずれにせよ、春に出た本ではありますが雑事に紛れてご紹介するのが遅くなったのをこれ幸いと、今年も訪れた夏にこそふさわしいホラー短篇集としてお薦めする次第です。

 毎日新聞の6月1日付ウェブニュースもどうぞ。

 毎日JP:インタビュー:本の時間・対談 高原英理×小谷真理:七篇七様の戦慄!(1/2ページ)
 毎日JP:インタビュー:本の時間・対談 高原英理×小谷真理:七篇七様の戦慄!(2/2ページ)

 
 毎日新聞社の本と雑誌:抒情的恐怖群