RAMPO Entry 2010
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2010年2月8日(月)

書籍
綺想礼讃 松山俊太郎
1月23日初版第一刷 国書刊行会
A5判 カバー 546ページ 栞16ページ 本体6600円
著:松山俊太郎
大乱歩の潜在能力
江戸川乱歩 >
エッセイ p346−348
初出:乱歩の世界 2003年1月31日 江戸川乱歩展実行委員会

大乱歩の潜在能力

松山俊太郎  

 明治このかたの文学者の中で、しばしばその名に〈大(オオ、ダイとも)〉を冠して記されたのを目にし、実際にそう呼ばれるのを耳にしたのは、大谷崎こと谷崎潤一郎と大乱歩こと江戸川乱歩のみである。
 この稀代の敬称が通用するのは、かれらの不朽の文業のみならず、人間としての比類ない風格が、根強い讃仰の念をもたらすからに相違ない。
 潤一郎は、愚直の王道を邁進して、突兀たる孤高を全うした。
 だから、かれの現実に達成された業績に関心を集中し、仮定の状況における可能性を顧慮しない論究も、充分成立しうる。
 乱歩は、生活の維持と読者の期待のために、不本意な長編の執筆を余儀なくされる一方、的確・公正な判断力のかけがえのなさゆえに、推理小説界の統率者・指導者という大任を担わされ続け、いわば病める大真珠貝のごとく世を畢えた。
 いずれも受動的にそうされてしまった。探偵小説の筆頭人気作家としての乱歩と、推理小説の無二の守護者としての乱歩と、どちらの貢献がいっそう偉大であるかは、評者によって意見の分かれるところであろう。
 明らかなのは、乱歩の功績のどれかに鉤を掛けて引き上げると、夥しい作家と作品が網の目のように繋がって回転双曲線体をなし、推理小説・幻想文学にとどまらず、その裾野がいまなお拡がりつつあることである。

 
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