RAMPO Entry 2010
名張人外境 Home > RAMPO Entry File 2010 > 02-10
2010年3月1日(月)

書籍
文学全集を立ちあげる 丸谷才一、鹿島茂、三浦雅士
2月10日第一刷 文藝春秋 文春文庫
A6判 カバー 325ページ 本体619円
著:丸谷才一、鹿島茂、三浦雅士
初刊・旧版:文藝春秋 2006年9月
関連箇所
日本文学全集篇(p105−318)
白樺派、プロレタリア文学の問題(p204−265)
大衆小説をどう扱うか(p232−237)
日本文学全集巻立て一覧(p314−318)

文学全集を立ちあげる

丸谷才一、鹿島茂、三浦雅士  

 日本文学全集篇

  白樺派、プロレタリア文学の問題

   大衆小説をどう扱うか

丸谷 江戸川乱歩。これを一巻にするか二分の一巻にするか。
三浦 一巻は無理。三分の一か四分の一。
鹿島 僕は、乱歩はもうちょっと再評価していいと思うよ。確かに小説としての出来ははなはだ悪いよ。だけど、それとは別の次元で、江戸川乱歩の評価は一巻入れてもいいような気がする。「一寸法師」とか「芋虫」とか、エログロ系のへんてこりんな作品があるでしょう。その変ちくりんぶり、つまり「変態」というものをつくり出したことは評価したい。それに、後の推理小説に与えた影響を考えると、入れないわけにいかないでしょう。
丸谷 「パノラマ島奇譚」といった作品は、近代日本文学のなかに他にはないからね。乱歩は二分の一巻で入れていいような気がする。
──アイディアから言うと、乱歩は谷崎の大正期のモダニズム作品とすごく似てますよね。
丸谷 乱歩は谷崎に一生懸命傾倒したわけだものね。乱歩が人を介して、谷崎に色紙を書いてくれと頼んだことがある。ところが谷崎は、「大衆作家に色紙は書くわけにいかない」と一顧だにしないで断わったんだって。僕は、本当は谷崎は、乱歩が自分の真似をしてると思って嫌だったんだと思うね。
三浦 だって谷崎自身、非常に大衆的な部分ありますものね。
丸谷 谷崎は、自分が文壇で大衆作家と言われるのが怖かったんだよ。
──でも谷崎は、昭和の始めに「大衆文学を論ず」で、中里介山や直木三十五まで熱烈に支持してます。
丸谷 それとはまた別なんだよね。谷崎が「新青年」に「武州公秘話」なんかを書く。あれは、原稿料がものすごく高かったんだそうだけど、だからこそなおさら大衆作家と言われたくない。その谷崎にとって、いちばん危険なのは江戸川乱歩だったんだよ。
──なるほど、エピゴーネンということか。
鹿島 ラ・ロシュフコーが「エピゴーネンの価値は、真似た人の欠点を拡大するところにある」というようなことを言っている(笑)。
丸谷 なるほど、うまいこと言うなあ。
三浦 「武州公秘話」なんかも、拡大鏡で見りゃ、江戸川乱歩じゃないかって言われちゃうところはあるよね。構成はめちゃくちゃだもん。だけど感心するほどうまい。そこは乱歩とは格段の差がある。

 
 文藝春秋:文学全集を立ちあげる