太平記の主題に基づくプレリュード

登場人物  藤原千方(ふじわらのちかた)
      四鬼(しき)        
       金鬼(きんき)      
       風鬼(ふうき)      
       水鬼(すいき)      
       隠形鬼(おんぎょうき)  
      紀朝雄(きのともお)    
      天智天皇(てんじてんのう) 

 天智天皇の時代の話である。
 藤原千方という者があった。
 千方は鬼使いである。
 金鬼
 風鬼
 水鬼
 隠形鬼
 四匹の鬼を意のままに使役した。
 四鬼には不可思議な力があった。
 金鬼はその身が堅固で、矢をもってしても射抜けない。
 風鬼は大風を吹かせて、敵の城さえ吹き破ってしまう。
 水鬼は洪水を起こして、敵を陸地に溺れさせてしまう。
 隠形鬼はその身を隠し、密かに接近して敵を押し潰す。
 いずれも人の力では防ぎようのない術である。
 この四鬼を従えて、千方は伊賀と伊勢とを領していた。
 両国の王化は妨げられ、天皇の治は届かなかった。
 伝え聞いた天皇は、紀朝雄という者に勅命を下した。
 朝雄はその地に赴いて、一首の歌を鬼に送った。

 草も木もわが大君の国なればいづくか鬼の棲なるべき

 くさもきもわがおおきみのくになれば
 いずくかおにのすみかなるべき
 草も木も、この世に生を享けるものはすべて天皇の治に従う。
 鬼といえども、天皇に背いてこの国に住むことはできない。
 歌を見た四鬼はたちどころに非を悟った。
 吾々は悪逆無道の臣に従い、善政有徳の君に背いていた。
 いずれ天罰は逃れられぬところであろう。
 罪を知った四匹の鬼は四方に消え去った。
 千方は勢いを失った。
 朝雄は千方を討伐して、見事勅命を果たしたのである。

略解
 『太平記』巻第十六の「日本朝敵の事」に見える藤原千方と四鬼に関する記述を現代文に直した。文飾を施してあり、逐語訳ではないことをお断りしておく。


掲載 2001年1月26日  最終更新 2002年 9月 19日 (木)