古今和歌集
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勅撰和歌集 延喜十三年(913)ごろ成立 二十巻
仮名序 やまと歌は、人の心を種として、万の言の葉とぞ成れりける。世中に在る人、事、業、繁きものなれば、心に思ふ事を、見るもの、聞くものに付けて、言ひ出せるなり。花に鳴く鶯、水に住む蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか、歌を詠まざりける。力をも入れずして、天地を動かし、目に見えぬ鬼神をも哀れと思はせ、男女の仲をも和らげ、猛き武人の心をも慰むるは、歌なり。 |
- 底本 新日本古典文学大系5『古今和歌集』平成元年(1989)2月、岩波書店、校注=小島憲之、新井栄蔵/p.4
●略解
『古今和歌集』は延喜五年(905)、後醍醐天皇の命により撰進。撰者は紀友則、紀貫之、凡河内躬恒、壬生忠岑の四人。「仮名序」は巻末の「真名序」と対をなし、和歌の本質、歴史などを説く。
掲出箇所は「仮名序」冒頭、和歌の働きを述べた箇所。底本脚註から関連箇所を引く。
目に見えぬ鬼神
淮南子・説林「鬼神之貌。不著於目」。おにかみ
霊魂・神霊の意の漢語「鬼神」の訓読語。
紀淑望による「真名序」も、
動天地。感鬼神。化人倫。和夫婦。莫宜於和歌。
(天地を動かし、鬼神を感ぜしめ、人倫を化し、夫婦を和すること、和歌より宜しきは莫し。)
と記す。
「目に見えぬ鬼神」とあるとおり、「鬼」は本来、見ることのできない死者の霊魂を意味していた。藤原千方に従った四鬼は「目に見えぬ鬼神」とはいえず、そもそも「仮名序」は千方伝説成立以前の文献と判断されるが、「目に見えぬ鬼神をも哀れと思はせ」のくだりを千方と四鬼に結びつける『古今和歌集序聞書』『広益俗説弁』などとの関連から掲出した。
●掲載 2001年2月21日 ●最終更新