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明治39年5月25日−平成6年3月26日(1906−1994)
乱歩さんの先祖
中島河太郎、山田風太郎、千代有三、日影丈吉、大河内常平、山村正夫などの諸君と一緒に、私は毎年乱歩さんの命日には、多磨墓地にあるその墓に詣でることにしているが、昨年は、前記の若い友人達と吉野から飛鳥にかけて旅行した帰途、乱歩さんの生まれ故郷である三重県の名張市に立寄った。まだ俗化の垢にも余り染まっていない清潔なその小都市は人情もまた厚く、食堂の小娘まで乱歩さんの生誕地をよく知っていて親切に道を教えてくれた。行きついた所に幻影城と刻んだ生誕碑がたっていた。もともと病院の敷地だったらしく、石碑は増築された病棟の間に窮屈そうにたってはいたが、周囲は屑一つなく清掃され、誰の心遣いか碑前には新しい花と供物がそなえてあった。 |
- 初出・底本 「現代推理小説大系月報3」昭和47年(1972)5月、講談社/p.11
- 採録 2001年1月14日