【う】

牛島秀彦

昭和10年1月−平成11年7月12日(1935−1999)

 夢の放浪者 江戸川乱歩
  1 屋根裏の世界
   伊賀忍者の里・名張

 乱歩生誕の場所は、名張市役所からほど近い大通りの裏にあった。街並みは、京都風の丹塗にぬり格子の家があったり、杉の小枝を丸くたばねた杉玉(新酒が出来るたびに、新しい杉葉をさし加えるそうだ)を軒に吊した造り酒屋があったりして古風な感じだが、そんな街を、最新型の車や、スクーターに乗った女性がひっきりなしに通っている。
 『江戸川乱歩生誕の地』という小さな石碑が建っている処から、横幅一メートル半ばかりの狭い路地を十メートルばかり入っていくと、桝田
ますだ病院という総合病院があり、そこが、乱歩が産声うぶごえをあげた場所であった。
 鰻
うなぎの寝床のような建物に数家族が同居して、その一角で乱歩は生まれ、幼時の一時期を過ごしたのだが、いまは、鉄筋の医院にとって変わっており、十坪ほどの庭先に石碑が建っている。
 近づいて見ると、表面に「幻影城 江戸川乱歩生誕地」、裏面に「うつし世はゆめ よるの夢こそ まこと 乱歩」と自然石に彫りつけてある。あざやかな紅色の曼珠沙華
まんじゅしゃげの花が、風もないのにゆらいでいる。


掲載 2001年1月19日  最終更新 2002年 9月 20日 (金)