【わ】

渡辺啓助

明治34年1月20日− (1901− )

 探偵横丁下宿人

 「乱歩さんは、たべものでは、何が一番お好きだったのでしょうか」
 私と同伴した娘のこうした質問に対して、静子さん(隆太郎夫人)は、さァと考えるふうであったが、夫を見やってから、
 「ねえ──きっと芋氷が大の好物であったようですよ」と答えた。
 芋氷──娘は小首をかしげた。芋氷なんて聞き馴れない言葉だった。氷あずき、氷いちご、氷白玉
しらたまの類はわかるけれど、芋氷なんて初耳である。
 静子夫人の説明では、関西、つまり三重県あたりでは(乱歩は三重県名張の人)芋氷や芋がゆなどは、ごくあたりまえの嗜好品であって、関東人と好みが違うにしても、それはカンナの上に氷塊をのせてカリカリと削る前時代のもので、それに芋を加えたものらしく、日頃の乱歩の風貌とはどうにも調和しない感じだ。


掲載 1999年10月21日  最終更新 2002年 9月 20日 (金)