毛勝 70.7-8
 '70年の夏は就職準備やら雑用で剱合宿に参加せず、はじめての片貝川入り。毛勝谷、東の又谷、南又釜谷を登ることにした。
 片貝山荘への林道を大きなキスリングを担いで歩いていると、たまたま通りかかった、魚津のS先生のスバル360に便乗させてもらった。まるで体操教師に見えるS先生から、途中で片貝川沿いの岩場を教えてもらったりした。こちらまで楽しくなるようなお話しぶりが印象的だった。
 山行中のある日、大雨が降って片貝川が増水した。夜に激流見物していると、流れの中で岩がぶつかり合い、青白く発光していたのが妖しくも美しかったことが記憶に残る。
右又出合  登った谷のなかでも、釜谷はスケールがひと回り大きく、さすがに南又取入れ小屋からの日帰りは無理であった。上部では雪渓がズタズタになっていて、ラントクルフトをへつったり、けっこう緊張感のある登攀になった。

片貝川東の又谷源流。毛勝頂上直下を登る

林道から三峰頂上 釜谷核心部。明るく豪快な滝が連続する
林道から三峰頂上  釜谷山頂に着いた時にはすっかり夕暮れで稜線の草原でビバークを決め込む。翌日南又本谷(猫又谷)を下るが、途中で同行のHが飛び石に失敗し、あわや土左衛門かというアクシデントもあった。あとで聞くと、水中から水面は見えていたが、いくらもがいても底へ引き込まれて、二度と出られそうにないと感じたそうだ。偶然、ザックの端を掴めなかったらどうなったか、今でも寒気がする。
 夏、残雪のある南又の流れは一見平凡に見えるが、水流が激しく渦巻いている所が多く、底が擂り鉢状になっているので警戒が必要だ。
 毛勝の山は稜線へ抜け出ると、歩くのも気がひけるような美しい草つきの稜線が続く。他の山のように踏み荒らされていない、さながら桃源を歩く気分だ。このままの姿がいつまでも残って欲しいと、心から願っている。

釜谷山から南又への下り。踏みあとも、あるかないかの野生味がある