光子の日々是好日 金つなぎ

 2月26日(月)  菩提寺に参詣する  寒風すさび、一時風花舞う
金つなぎ
寒日の中、有難くお経を聴く
写真提供:山林典子さん

夫の祥月命日を明日に控え、郷里の三重・松阪にある菩提寺に出向く。
寒風の中、ご住職に墓前で供養の読経をして頂いた。静かに続くお経が、ただただ有り難く、頭を垂れて深く聞き入る。

平成6年2月27日早暁、夫は唇をキリリと結んだまま、逝った。
わずか4日間の入院生活。「オレが入院する時は、死に病やからな」と、日ごろの口癖であったのに、まさか、まさかと思っていた。
食道静脈瘤破裂から、肝性脳症、肝不全に至る諸症状を、時々刻々、律義に私と2人の息子たちに見せながら、「オレは、こうやって死んでいくからな、良く見ておけよ」と、言わんばかりの逝き方であった。

死は、思いがけずやってくる、と教えて夫は逝った。一期一会を忘れるな、とも教えて逝った。
夫が逝って、私は確かな死生観「死生有命(死ぬも生きるも天命のまま)」を持つことができた、と言っていい。死に対して明るい諦観を持つことができたのも、うれしい次第である。
これら、夫がくれた"生き抜く力の源"に思いをいたすとき、「逝者は生者に力をくれる」と、素直に信じられる私である。

厳しい冷え込みの中、お墓にお念仏を上げてくださったご住職に、あのころの私はずいぶん救われた、と思い返す。
どんなことも、受け入れてくださった。言葉はいつも、「あなたの宜しいように」と。

葬儀のやり方、法事の行い方をはじめ、墓所を決めたり、建墓の開眼に至る諸々の事どもにおろおろする喪主の長男と私を、常に暖かく受け入れてくださった。
この有り難い接し方を、いま私は、多くの追い詰められた病友がたに、少しばかりお返しして、あの日のご恩に報いたいと願っている。
病友がたから入る昼夜を分かたぬ縋るような電話の内容を、とにかく受け入れよう。しっかり聞かせていただこう。そして、「金つなぎの"5つの理念"を信じましょう」と言い、また、「きっとよくなる 必ず良くなる」と繰り返し、安心・得心してもらって電話を終える日々である。

そんな、私流カウンセリングを教えてくださったのが、外ならぬ菩提寺のご住職であった。
墓前で読経中の背中に向かって、ひそかにお礼を申し上げる。

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