トップページへ 脳外傷とは?
海外脳外傷事情トップへ

米国脳外傷協会のご厚意により協会ホームページの翻訳許可をいただきました。

5秒ごとに・・・

アメリカではひとりの人が外傷性脳損傷(TBI:traumatic brain injury )を受傷しています。毎年、合衆国内で外傷性脳損傷を被った200万人のうち、37万3千人の人々が入院を余儀なくされ、約5万6000人が死亡し、一方で10万人が永久に再起不能にされています。同様にして、軍人病院に入院する外傷性脳損傷受傷者が毎年およそ8千人あり、脳の損傷は戦闘における死傷の主な原因となっています。事実、外傷性脳損傷はアメリカの子供たちや青・壮年層の人たちの命を奪い、能力を奪う主な原因なのです。

脳損傷の影響は脳損傷を抱えた本人にとって、そして、その家族、仕事仲間、友人にとって破壊的にさえなりえます。軽度過ぎて無視できるほどの脳損傷はありません。しかし、重度過ぎて絶望するほどの脳損傷もありません。あなたやあるいはあなたの知っている誰かが外傷性脳損傷を被った時、普段の何気ない作業が突然に日常的な難問に変わることがありえます。もし、あなたやあなたの愛する誰かが脳損傷を受けてしまったなら、そして、あなたが寄る辺ない思いに駆られているのなら、脳外傷協会(BIA)とthe Defense and Veterans Head Injury Program (DVHIP)がここでお助けします。


外傷性脳損傷、あるいは頭部損傷とは何か?

脳損傷は身体的、知性的、感情的、社会的、そして職業的にも困難を引き起こす可能性があります。これらの問題は現在と未来の生活、そして、個人のパーソナリティーに影響を及ぼすかもしれません。実に頻繁に生じることですが、1人の人が脳損傷の後に全く元のままではないということがありえるのです。

脳損傷には「閉鎖性頭部損傷:closed head injury」(CHI)と「開放性頭部損傷:open head injury」(OHI)の2つの基本的なタイプがあります。開放性頭部損傷は弾丸や何か突き刺さった物体によって引き起こされます。閉鎖性頭部外傷はどちらかと言えばより一般的です。通常それは頭部の急激な動きの間に、脳が頭蓋骨の内側に跳ね返りながら、前後に急に動かされることによって引き起こされます。閉鎖性頭部損傷はしばしば衝突事故や転落事故の結果、発生します。こうした急激な動きによる圧迫は神経の繊維や軸策をバラバラに引っ張り、伸ばし、脳の異なる部分の間の結合を破壊します。それはまた特に行動や感情を制御す役目のある前頭葉に脳の「挫傷:contusions」(脳の打撲傷)を引き起こします。ほとんどの場合、血管破裂がある可能性があり、頭の内側で圧力を高めながら成長して、脳やその周辺を圧迫する血塊や「血腫:hematoma」を引き起こす可能性があります。

その他の非常に重要な脳損傷の合併症は、窒息、心停止、発作、あるいは溺死しかかることによって引き起こされる無酸素症:anoxia(脳の酸素欠乏症)です。無酸素症と外傷性脳損傷の連携は大多数の脳細胞を破壊したり、冒すことがあります。そして、重い永久の障害に繋がる可能性があります。

脳損傷受傷後の生活


朝目覚めて、どのような服装をしているのか覚えていないことを想像してください。夕食の席について、たった今食べた物を覚えていないことを想像してください。これらのことは外傷性脳損傷を被った人の多くにとっては日常的な出来事なのです。一例として、ジム・ブレディ氏の物語を読んでください。

元ホワイトハウス報道官ジム・ブレディ氏は1981年にロナルド・レーガン大統領暗殺未遂の間に深刻な脳損傷を被りました。ジムが親愛を込めて「理学のテロリスト」と呼ぶ理学療法士と一緒に向かった彼の戦いとしての治療の数ヶ月間、そして、回復の月日を経て、ジムは脳損傷が引き起こす障害と共に生きることを学ばなければなりませんでした。彼の妻サラと彼らの息子スコットもまた、ジムの障害と生きることを学ばなければならなかったのです。

ジムは脳外傷協会(BIA)の重要な役目に就いています。彼は現役の役員の一人であり、ボランティア・スタッフの一員です。ジムはまた熱心に一般啓蒙キャンペーンや教育計画に従事しています。また、彼と彼の妻はBIAを代表して彼らの脳損傷の個人的な経験について講演をするためにアメリカ全土、そして海外を旅しています。

ジムはまた脳損傷を持った人々に対するサービスを向上させるために歯に衣着せずに発言する弁護人でもあります。神の恩寵と堅い決意によって、ジムは注目すべき回復を成し遂げています。しかし、彼の生活は決して同じ物ではないでしょう。ジムはかつてこう述べました。

「私たち(家族)は、かつての私はもはや今の私ではないという事実を耐えて生きることを学ばなければいけません。私は以前は1マイル走の選手だったものでした。私は再び1マイルを走ることはないでしょうけれど、私はそのことを諦めているのです。」

毎日、数千人の人々がジムのように英雄的に障害を乗り越えようと奮闘しています。

外傷性脳損傷に起因する障害は三つの主な類型に分類されます。

1.認知の障害として次のものを含みます。:短期記憶と長期記憶の欠落、思考速度の緩慢、注意や集中を維持することの困難、知覚の障害、意思疎通の障害、読み書きの能力の障害、論理的思考の障害、問題解決力の障害、計画性の障害、反復行動の障害、判断力の障害。

2.身体の障害として次のものを含みます。:発話、視覚、聴覚、その他の感覚の障害、頭痛、身体的釣り合いの欠如、筋肉の痙攣(片側、あるいは両側の麻痺状態)、発作症状、睡眠に関する問題。

3.社会心理的な障害、行動の障害、情緒の障害として次のものを含みます。:疲労感、気分変動、否認、自己中心的なこと、不安、抑うつ、自己尊敬の低下、性機能障害、落ち着かなさ、動機付けの欠如、自己監視が出来ないこと、感情的なコントロールや怒りのやりくりに関する困難、何かに対処することが出来ないこと、動揺、極端に笑ったり、泣いたりすること、その他のことに関する困難。(外傷性脳損傷の受傷後、感情的な無秩序対して目を向けることは、それらがしばしば誤解されたり、誤診されたりするため、特に重要です。)


脳損傷スペクトラム

軽度の脳損傷

「振盪」としても知られている軽度の脳損傷は、もしあるとしても短いか、ほんの瞬間的な意識喪失があるのみで、例えば血腫のような何らかの大きな合併症はありません。しばしば、軽度の脳損傷の人々は病院へ行くことさえもしません。しかしながら、軽い振盪の後でさえ、表裏両面の脳の破壊が比較的僅かながら起きるのです。これにはしばしば一時的な頭痛、めまい、軽度の意識低下、疲労などを含む「脳震盪後症候群」(post-concussion syndrome)が続くことがあります。

軽度の脳損傷の管理の最も重要な要素は、症状が現実のもので、治療できるのだということを認識することです。軽度の脳損傷の症状はほとんどの場合で1ヶ月から3ヶ月で改善します。もうひとつの重要な要素は、通常の作業や、あるいは残業に少しずつ戻りながら疲労の発生の適切な管理をしていくことです。

中程度の脳損傷

中程度の脳損傷は一般的に数分間から2、3時間続く意識喪失とそれに続く2、3日から数週間の錯乱状態を生じます。それは脳挫傷や血腫を伴うかもしれません。中程度の脳損傷を持った人は一般的に数ヶ月間続く認知や社会心理的な障害を持つことになるでしょう。しかしながら、治療によってこれらの人々は概してほとんど完全に回復することが出来ます。

重度の脳損傷

重度の脳損傷はほとんどの場合で数日間、数週間、あるいはそれ以上に長く続く意識喪失、あるいは昏睡状態を生じます。昏睡状態にある人は眠っているように見えますが、目覚めさせられることはできません。その上、刺激に対して意味のある反応もありません。そのような人はしばしば脳挫傷や血腫、あるいは神経繊維や軸策の損傷があり、そのうちの何人かは無酸素症にもなっているかもしれません。重度の脳損傷を持った人は受傷後1年の間に有意義な症状の改善が見込めますし、長年に渡ってゆっくりとしたペースで改善しつづけることが出来ますが、彼らはしばしばある程度の永久的な身体の障害や行動の障害、認知の障害が残されることになるでしょう。

外傷性脳損傷からの復帰

吉報は人間の脳は自然と損傷を補う注目すべき能力を持っているということです。例えば、戦闘中に脳損傷を被ったベトナム戦争の退役軍人の半数以上が利益の上がる職に戻ることが出来ています。

外傷性脳損傷のある人の1人1人、それぞれの家族、そして、介護にあたる人々のために第一にすべきことは、リハビリテーションや教育活動を経て、脳損傷の自然治癒や能力の代償を刺激し、それを望ましい方向へ導くことです。最終的な目標は影響を受けたそれぞれの人にとっての最大限の回復を達成することです。外傷性脳損傷を持った人は個別の障害(例えば発作、麻痺、あるいは話すことの困難など)を残されるかも知れないという事実は、これがすなわち外傷性脳損傷を持った人々が補うことが出来ず、彼らが生産的で満足な生活を導き出すことを妨げるような障害に違いないということは意味しないのです。

外傷性脳損傷のリハビリテーション

外傷性脳損傷のリハビリテーションの分野はこの20年間に発展しています。今では20年前に存在しなかった数多くのプログラムが外傷性脳損傷の人ために役立っています。ほとんどすべての外傷性脳損傷を持った人がいくつものレベルの専門的なリハビリテーション、特に、共同体を拠点とした数々のプログラム(community-based programs)の中で利益を得ることでしょう。利用可能なサービスの様々なタイプには、急性期や急性期後のリハビリテーション、行動の補正、過渡期の生活、自立生活、家庭や各自の補助者のケア、教育や職業などのプログラムが含まれます。しかしながら、各個人に有効な外傷性脳損傷のリハビリテーションの適切なタイプや強度は多くの要素によって変わります。外傷性脳損傷のリハビリテーションは新しい分野であり、なお学ばねばなければならない多くの事柄があります。個々のニーズに最も良く適しているプログラムを裁定し、そして、それらの選択肢を積極的に追及していくことはそれぞれの患者、それぞれの家族、そして医師に責務として任されているのです。

この翻訳の文責 : やまだ てんてん  この訳文に関するご意見、ご質問等は yamada_tenten@hotmail.com まで。

「訳者自身について付することをお許し願いたい。訳者はかつて追突事故に遭い、言語の障害や記憶の障害などに悩まされる身となった。これは訳者にとって非常に辛く、衝撃的な喪失であり、いまだに癒えないが、このことを付記して訳者が願うのはただひとつ、境遇を同じくする多くの方々に人生半ばの突然の喪失が人生の終わりを意味するわけではないということを知っていただくことである。我々の歩みは遅々として進まない。しかし、それでもなお進んでいるはずなのである。」

Sat. 30, Dec. 2000

脳外傷協会(BIA)

脳外傷協会の使命は脳損傷の防止や研究、教育、そして弁護を経て、より良い将来を創造することにあります。

1980年に関心を持った親たちや専門家たちの小さなグループによって創設されて以来、BIAは脳損傷を持った一人一人のために働き、そしてまた、脳損傷を持った一人一人と共に働く、唯一の全国規模の非営利組織にまで発展してきました。

BIAは脳損傷を持ってしまった人の家族のために最も即座に必要なことは、彼らが愛する人が適切なケアを受けることを保証することであるということを知っています。

同様に、BIAは脳損傷が家族にかける巨大な感情的な被害や金銭的な代価を認識しています。BIAの多くの州協会、800団体を超える支援グループと無料の相談電話回線、1−800−444−6443、によって、BIAは困窮している一人一人を支援するために懸命に活動しています。BIAの活動には次のものがあります。

情報発信と教育活動

合衆国国内での会議や国際会議、そしてセミナーを通して、BIAは脳損傷を被った方々や家族の方々、脳損傷の分野の専門家の方々、それに脳損傷について学ぶことに関心のある方どなたにも教育やトレーニングを提供しています。脳損傷による影響を受けた毎年200万人以上のアメリカ人のニーズに応じるために、BIAは隔月発行の新聞、”TBI Challenge!” や年4回の専門誌、”Brain Injury Source”を含む広範囲のコミュニケーションツールを出しています。進行中の努力では、BIAは新しい発表から最高の利益を得られるかも知れない教育や研究、そして予防の領域を見つけ出し、そして、ここで見付けた資料を発展させ、出版し、普及するために様々な専門家たちと共に働いています。ウェブサイト(http://www.biausa.org)の追加により、BIAは脳損傷に関する最も最新の情報を提供することにも力を注いでいます。

認識促進と予防


BIAは世間一般の認知促進、予防、それに教育などのプログラムを通じて、多くの人々が脳損傷の重大な影響や、ケアや治療のための費用、そして予防のための方法を理解することを手助けしています。BIAは次のようないくつかの全国的な啓蒙キャンペーンに貢献しています。

・キャンペーン セーフ アンド ソバー

適切にヘルメットを着用して脳の安全を護ることを呼びかける公共事業を展開し、普及させるための高速道路交通安全事業団(NHTSA) との共同事業です。

・スポーツ中における脳震盪の管理

アメリカ神経学アカデミー(AAN)と協力しています。結果として、脳震盪携帯ラミネートカードと脳震盪評価基準(Standardized Assessment of Concussion :SAC)マニュアルの開発と配布につながりました。

・BIAの”ヘッドスマートR”!プログラムは学校の教師に生徒児童の脳損傷の危険を少なくする目的の予防カリキュラムについて教育する全国的な努力です。「シートベルトのバックルを留める」ことや「ヘルメットを着用する」ことに要するほんの数秒が外傷性脳損傷の発生を妨げ、命を守りさえするのです。

擁護活動

BIAは合衆国内における外傷性脳損傷を抱えた一人一人のための先導的な擁護者として、脳損傷を抱えた一人一人やその家族と友人たち、それに脳損傷のケアや治療を施す専門家たち、さらに、共同体全体に影響を及ぼす広い範囲の問題に焦点を合わせています。立法化の努力を経て、1996年、外傷性脳損傷法(the Traumatic BrainInjury (TBI) Act )が可決されました。BIAは脳損傷を持っている個人個人と彼らの家族が非常に必要としているプログラムやサービスへ辿り着くための手段獲得を保証するために積極的に活動しています。

調査・研究活動

BIAは研究者たちの表彰や、研究費の授与、有益な研究成果を公にする機会の提供によって脳損傷の分野における研究全体をサポートしています。1997年には、BIAはルービン一族と提携し、科学的知識を進歩させ、脳損傷を負った人々の生活水準を改善することを助けるためのアービング I. アンド フェリシア F. ルービンファミリー脳損傷研究基金(the Irving I. and Felicia F. Rubin Family Brain Injury Research Fund)を設立しました。最後に、BIAはアメリカアカデミー脳損傷スペシャリスト過程修了証明(AACBIS) を管理しています。AACBISとは脳損傷のリハビリテーションの分野で働く人々の養成と訓練のための能力基準を定めることによって脳損傷の人々のためのケアの質を改善する全国規模の資格プログラムです。

BIA州協会

各BIA州協会はBIAが地方自治体レベルで人々に支援や情報サービス、教育リソースを提供することを可能にしています。これらの州協会はBIAにとって極めて重要な存在であり、BIAの全国的な募金活動を推進しています。それらは外傷性脳損傷の人々にとって有益な資産です。

Brain Injury Association, Inc
105 North Alfred Street
Alexandria, VA 22314
703-236-6000
Family Helpline: 1-800-444-6443

国防総省・復員軍人省頭部外傷プログラム(THE DEFENSE AND VETERANS HEAD INJURY PROGRAM:DVHIP)

1992年に設立されて以来、DVHIPは国防総省(DOD)と復員軍人省(DVA)、そして脳外傷協会(BIA)の間で作られたユニークな合同作品の一例です。その原則的な目的は、脳損傷を負った全ての現役軍人、退役軍人たちが最も適した評価を受け、治療とその後の支援を受けることを保証するということです。

脳損傷を負った現役軍人と退役軍人たちが最適で可能な限りのケアと治療を受け続けることが保証されている間、同時にDVHIPは様々な外傷性脳損傷に対する治療措置とリハビリテーション戦略の相対的な効力と費用との間の比較を可能にする標準的な成果のデータを集めています。こうした臨床的な調査結果は外傷性脳損傷を負った一人一人にとっての最高の治療方法を明確にすることを助けることでしょう。

その初期段階では、この計画は次のような3つの任務を帯びていました。

脳損傷を負った現役軍人と退役軍人の識別と登録。
治療をし、その後の支援をし、関わりを持つ人々をモニターすること。
中程度の脳損傷と重度の脳損傷を負った人々の詳細で定期的な評価を行うこと。

現役軍人、退役軍人たちの特別な必要を認識しながら、同時にDVHIPと脳外傷協会は脳損傷の人々の一人一人に利用可能な社会資源やサービスに関する極めて重要な情報を供給します。これまでのところ、合衆国全土に渡って7つの地方現役軍人・退役軍人専門脳損傷センターが設立されました。

もしあなたが最近になって現役軍人か退役軍人の脳損傷者病院に受け入れられたのだったら、あなたは自動的にDVIHPの登記簿に記録されていることでしょう。それでもなお、あなたが私たちから何も聞かされていなかったり、あるいは問題に遭遇していたり、疑問があったり、または、助けを必要としているのであれば、私たちはBIAを通じて私たちに連絡なさるようにお勧めします。電話番号1-800-444-6443。

Defense and Veterans Head Injury Program
Walter Reed Army Medical Center
Building 1, Second Floor, Room B207
Washington, DC 20307-5001
Patient referral: 1-800-870-9244

この翻訳の文責 : やまだ てんてん  この訳文に関するご意見、ご質問等は yamada_tenten@hotmail.com まで。

「訳者自身について付することをお許し願いたい。訳者はかつて追突事故に遭い、言語の障害や記憶の障害などに悩まされる身となった。これは訳者にとって非常に辛く、衝撃的な喪失であり、いまだに癒えないが、このことを付記して訳者が願うのはただひとつ、境遇を同じくする多くの方々に人生半ばの突然の喪失が人生の終わりを意味するわけではないということを知っていただくことである。我々の歩みは遅々として進まない。しかし、それでもなお進んでいるはずなのである。」

Mon. 22, January 2001