第1回
ラッコの食事 中村 元
ラッコと言えば、石で貝を割る食事が有名だが、エサは多彩で、アワビ、ウニ、カニ、エビ、タコ、ヒラメ…。 大きなハサミのロブスターはとりわけお気に入りらしい。そう、寿司屋やレストランのメニューに「時価」と書いてあれば、それがラッコのエサなのだ。だから誰もがラッコの食事をうらやましがる。 しかし、ラッコの食事がうらやましいと感じるのはヒトだけである。 動物にとってエサというのは、苦労せずに大量に獲ることができるものが上等なのだ。ハサミで反撃するカニやロブスター、岩に貼りつき殻も肉も固いアワビ、トゲトゲで食べるのに苦労するウニ、ラッコにしてみれば、どれもが苦労の種だろう。 だいたい石で貝を割るなんて、見ている分には面白いが、やってる本人にはやっかいなことこのうえない。 ラッコは海に生きるホ乳動物としては、まだまだ新参者なのだ。 だから沿岸で暮らすことしかできないし、そのあたりで獲ることのできる、面倒でわずかな数しかないエサで我慢するしかない。 一方、イルカやアシカは、どこででも大量に獲れる小魚やイカを主食にしているから世界中の海にいるし、クジラは大量のオキアミで巨大な体を維持している。実はそんなエサこそが、本来の上等な食事である。 値段や希少価値だけでモノの価値を決めるヒトには、高級と上等の区別がつかない。 そしてラッコの食事の大変さにも気が付かないのである。 |