1999年FooMoo7月号にて掲載
水族館から新しい世界を広げる方法。
(子どもと楽しむ、水族館の見学技)
中村 元

 「水族館って、どうんふうに観たら子供のためにいいのだろう?」
 実はそう考えてしまった時点で、水族館のよさが半減してしまいます。大人には大人の目が、子供には子供の目があるし、子供にもさまざまな目があります。動物や地球に対する興味の持ち方には、決まった形などないと考えて、それぞれの目が興味を持ったものをゆっくりと観させてあげることが大切なのです。
 だから、ここでは、その興味や探求心をもっと満たせる方法、あるいは自分では気づいていなかった興味の芽を育てるような水族館の楽しみ方を紹介することにしましょう。

1,海に潜ったつもりで。
 水族館は展示物がライブだから楽しいし、受け取れるものが大きいのです。水槽のガラスは、水中眼鏡だとでも思うといいでしょう。魚の名前だとか、生態についての解説板などを、気にすることはありません。観ていて特に気になった魚の名前を記憶する程度でいいのです。それよりも、動物たちの生きている姿を、次から次へと観ることに専念しましょう。それは自然の中で動物の生活を観たのと同じ様な体験になるのです。

2,子供の時間に合わせましょう。
 子供の情報処理能力は、大人をはなるかに上回っています。そして興味があれば、どこまでもそれを探求しようとします。それがヒトの子に与えられた能力です。大人から観れば、「えっ?もう次に行くの?」と思ったり、逆に「まだ観ているの?」と思ったりするのですが、子供にとって時間という概念は時計が全てではありません。
 普段は、学校や遊びを時間で区切られているのですから、せっかくの海の中、時間を気にせず回れるだけの、十分な時間をとっおくことが大切です。

3,好きな動物をつくろう
 一度一周したら、印象の深かった水槽のところにもう一度行くといいでしょう。鳥羽水族館ではそのために順路を無くして、自由に歩けるようにしてあるほどです。順路が決まっている水族館でも、他の方の迷惑にならなければ、何度でも戻って観ればいいのです。
 そんなふうにして好きな動物ができたら、今度来るときの楽しみが増えるし、来るたびに、動物が成長していたり、赤ちゃんが誕生していたり、あるいは死んでしまっていたり、命ってなんだろうという、一番大切なことを学ぶ機会になります。

4,飼育係には質問を
 飼育係を見つけたら、ぜひ声をかけてみましょう。特に質問がなくてもいいのです。「エサの時間は?」とか「何をしているのですか?」なんていう会話、また観た動物に対しての感想でもかまいません。飼育係は誰もが、一般の人が聞けば、びっくりするようなエピソードを持っています。きっと話したくてうずうずしているはずです。

5,機関誌を定期購読しよう
 たいていの水族館では、定期的に機関誌を出しています。ほとんどの場合、会費か送料だけで送ってくれるはずです。鳥羽水族館のものは30ページもあって、カラー写真も多く、水族館の動物たちの最新情報をはじめ、調査活動や、飼育の裏話、著名人の連載や対談などが盛りだくさんなので、定期購読者が多く毎回1万部も発行されています。
 行ったことのある水族館の機関誌は、普通の雑誌や図鑑よりも親しみがあって、知っている動物の情報が載るとさらに興味が深くなります。こうやって自宅でも水族館を楽しむことができると、水族館へ行くのがただのイベントに終わりません。


★持っていくと面白いもの★

★1,スケッチブック(メモ帳)
 写生をしようというのではありません。気がついたことを、絵などをつかって書き留めておくだけです。もし絵が好きな子なら、ぜひスケッチをさせてあげてください。記録は観察の第一歩。新しい発見がいっぱいできるでしょう。
 普通に観ていると気がつかなかったこと、「あれ?ジュゴンの鼻にはフタがあるし、目にはまぶたもないのに閉じることができるんだ」とか「なぜこんな小さなヒレで泳げるの?」という発見があって、そこから、新しいなぜ?なぜ?へと広がっていきます。

★2,双眼鏡・ルーペ
 双眼鏡は野外で使うもののように思われていますが、最近の大きくなった水族館では、劇場のオペラグラス感覚で使うことができます。双眼鏡でラッコやアシカはずっと近くに寄ることができるし、ルーペでサンゴやクラゲを拡大すると、彼らが生物であることを新たに実感できるでしょう。
 双眼鏡やルーペで観る世界は、高度なネイチャーフォトグラフの世界を、ライブで観るのと同じような感動があります。


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(C) 1996 Hajime Nakamura.