創刊号に掲載
磯ップ物語−2
満足
地球流民

ラッコが海に浮かんでのんびり空を見ていました。流されないように体にオニワカメを巻いています。

そこにイルカがやってきました。
「おーいラッコよ、今日は向こうにたくさんのイワシがいるから、食べにいかないか?」

ラッコは弱りました。泳ぎの下手な彼は、動いている魚なんて捕まえられないのです。
「ボク、貝やカニしか取れないから……」
ラッコが小さな声でそう言うと、イルカは笑いながら、「そうかそりゃ不便だな。オレたちは魚のいるところだったら、どこへでも出かけられるんだがね」と言って泳いでいきました。

次にうるさいカモメがやってきました。
「ねえラッコさん、あなたはそんなところから動かずに、空ばっかり眺めてて、なにが楽しいの?私たちはこうしてどこにでも行けるから、毎日が楽しいわ、おほほほほ…」
ラッコが恥ずかしそうにうつむいている間に、カモメはどこかへ飛んでいってしまいました。

数日後から、海は時化が続きました。風が吹いてカモメは空をとぶこともできず、たくさんいた魚たちも、どこへ行ったのか影も見えません。
イルカもカモメもエサを探すことができずに、お腹はペコペコでしたが、ラッコのことを考えて我慢することにしました。
「私たちはこうして風のないところで休めるけど、ラッコはあのままプカプカだから、まだましよね…」

その頃ラッコは、時化になっても静かな海底からウニや貝を捕ってきて、いつもよりちょっと強い波間で空を眺めながら、つぶやいていたのでした。
「あーあ、退屈、でもお腹いっぱい」。


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(C) 1996 Hajime Nakamura.