2号に掲載
磯ップ物語−3
甲羅を脱がない理由
地球流民

その日のカメは、ウサギとかけっこをして勝ったのでちょっといい気分でした。
そんなカメの前に現れたのがヒトでした。
ヒトは言いました
「もしもしカメよ亀さんよ、世界のうちでお前ほど、歩みののろい者はない。どうしてそんなに遅いのか?」

カメは胸を張って言いました。
「何をおっしゃる人間さん。 私は今もウサギに勝ったところ。なんならひとつ、あの山のてっぺんまで二人で駆け比べをしようじゃないの」

さっそくかけっこは始まりました。
ヒトはカメより少しだけ早く歩きました。もう少しでカメが勝てると思わせながら、結局最後にほんのわずかだけの距離を置いて、ヒトはゴールしたのです。
もちろん昼寝などしません。

悔しがるカメにヒトはそっと囁きました。
「カメ君、君は本当に足が速いんだね。もう少しでボクが負けるところだった。一つ良いことを教えよう。その重くて体の自由も効かなくしている甲羅を脱ぎ捨てるんだ。君が身軽になったらきっと、走ったって木に登ったって、二本足の僕たちが君に勝てることなんてなんにもないよ」

そう教えてもらったカメはその気になって、甲羅を脱ぎ捨てました。重い甲羅を脱ぎ捨てて、カメは身も心も軽くなったような気がしました。
さあもう一度競争しよう!カメがそう言ったとたん。ヒトはカメの甲羅をぽ〜んと遠くへ蹴り飛ばして言ったのです。
「そうだね、ボクに捕まって食べられたくなかったら、とっとと走ることだ」
 
青ざめたカメは軽くなった体で必死に走りましたが、ヒトは苦もなく追いついて、カメを捕まえると焼いて食べてしまいました。
その日からカメたちは、もう二度と誰かの前で甲羅を脱ぐことはなくなったということです。


 磯ップ物語タイトルへ戻る                         RUMIN'S ESSAY 表紙へ戻る

地球流民の海岸表紙へ
(C) 1996 Hajime Nakamura.