3号に掲載
磯ップ物語−4
ヒトになったイソギンチャク
地球流民

イソギンチャクの磯太郎は、そのあたりに浮いているエサに触手を伸ばしながら、いつものように愚痴っていた。
「ああ、ボクはなんでイソギンチャクなんかに生まれたんだろう。どこにも行けずに、毎日漂ってくるエサを食べては寝るだけだ。」

そこで磯太郎は、近くを通りかかった神様にお願いした。「神様、どうか私を歩き回れる体にして下さい」
神様が、「ほいほい」 と磯太郎をひっくり返して呪文を唱えると、磯太郎はあっという間に、立派なヒトデになっていた。

ヒトデになった磯太郎は、さっそく5本の足を動かして、岩を登り、砂を這い、自由に歩き回って美味しそうな貝を探した。でもそこで気付いたのだ。
手がない!ヒトデには手がなかった。しようがないので、磯太郎は足で貝をこじ開けて、足で食事をした。

次の日、磯太郎はまた神様にお願いした。
「神様今度は、手もあって足もある体にして下さい」
神様はちょっと悲しそうな顔をしたが、すぐに望みをかなえてくれた。

ヒトデだった体はみるみる大きくなり、5本の足の1本は頭に、残りの4本が手と足になり、立派なヒトが現れた。
ヒトになった磯太郎は、喜び勇んで陸に上がり、足で歩き回っては、手でエサを採りはじめた。
エサは食べきれないほど採っても手で持ち運べたから、面白いようにたくさん食べて、たくさん集められた。

でもそのうち両手でも持ちきれなくなった。そして気が付くと、すっかりエサのなくなった荒野だけが広がっていたのだ。
磯太郎は結局、そこから動くことなく、採りすぎて腐りかけたエサを無理矢理口に押し込みながら、朽ち果てていった。


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(C) 1996 Hajime Nakamura.