4号に掲載
磯ップ物語−5
醜いカエル王子
地球流民

魔法使いにカエルにさせられてしまった王子様は、水面に映る自分の姿を見ては、嘆き悲しんでいた。
「ああ、なんて醜い姿なのだ。大きな口、苔のような模様とイボイボ、ヌラヌラした粘膜・・・。こんな姿に口づけをしてくれる乙女など現れるはずがない」

思い悩んだ王子は、魔法使いに掛け合った。
「体の大きさはこのままでもいい、でも、せめて姿だけでもヒトの姿にして欲しい」と。
魔法使いは、ニヤッと薄気味悪い笑みを浮かべて言った。
「おお、いいともさ。ヒトの姿でカエルたちと暮らすがよい」
白い煙があがって、王子が肌寒さにブルッと震えながら水面を覗けば、そこには大きさはカエルのまま、元の美しい金髪の王子がいた。

王子はとても嬉しかった。もう醜くなんかない。
ただ、ヒトの上品な口ではもうバッタを丸飲みにはできない。何を食べようか悩んでいると、藪からヘビが現れた。
まずい!王子はいつものの習性で近くの窪みに体を伏せた。カエルはこうして、背中の模様とイボイボを地面に似せて隠れるのだ。
でも、それは成功しなかった。王子の白い肌と金髪はとても目立っていたものだから。

王子は慌てて逃げ始めた。必死で走る。草にすれるたびに、粘膜で守られていない体には傷がついていった。傷だらけになりながらもやっとのことで池に飛び込んだ王子は、仲間のカエルたちに叫んだ。
「助けてくれ!」
しかし、カエルたちは、カエル語で叫ぶ小さなヒトを怪訝な顔で見るばかりだった。そして、小さい口で、ひょろ長く、白い肌と金髪で、毛皮もウロコも粘膜もない王子に向かって一斉に言ったのだ。
「嫌だね!だって、お前、ひどく醜いもの!」
王子は、あっという間にヘビに飲み込まれた。


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(C) 1996 Hajime Nakamura.