5号に掲載
磯ップ物語−6
みんなの悩み
地球流民

昔々、動物たちは、大きさが違うだけで、みんな同じ形をしていた。
おかげでカエルはみんなに踏みつぶされて死んでいくのに悩んでいた、クジラはいつもお腹をへらせて悩んでいた。
みんな生きるのに悩んでいたのだ。

ある時、彼らを創った神さまにいい考えが浮かんだ。
それぞれに、食べたいものを一つ選ばせ、それを得るのに必要な能力を与えることにしたのだ。神さまはさっそく広場に動物たちを集めて、それを宣言した。
するとみんなは口々に、考えていたことをお願いした。

カエルは「ボクは虫を食べたいから、よくのびる舌と、ぴょーんと跳べる足が欲しいのです」と言った。
オオカミは「オレは肉が食いたいから、よく走れる足と、ガブッとくらいつける牙を下さい」と言った。
クジラは「私は海にたくさんいるオキアミを食べたいので、泳げる体と、ヒゲのついた大きな口をいただけないでしょうか」と言った。

そんなふうに、動物たちは次々と新しい体を神さまに作ってもらい、喜んで地球上にちらばっていった。

最後にヒトの番だった。欲の深いヒトは一生懸命考えていたので遅くなったのだ。
「神さま、私は子孫末代まで、神さまを崇め奉ります。だから一つだけなんて言わずに、全てのものを食べられるようにして下さい。そして神さまと同じように、なんでも出来る体を下さいませんか」
神さまは、それもいいかもしれないと思い、ヒトの願いもかなえてあげた。

それ以来、ヒトは、なんでも食べて、なんでも出来るようになった。
でも、そのおかげで、ヒトは今日食べるものを選ぶために、そしてもっと美味しいものをもっとたくさん得るために、今まで以上に、毎日悩んで暮らさねばらならくなったのだった。


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(C) 1996 Hajime Nakamura.