9号に掲載
磯ップ物語−10
欲張りな人魚
地球流民

 王子が海辺を馬で駆けていると、岩の陰から美しい歌声が聞こえてきました。そっとのぞいてみれば、そこには、この世のものとは思えぬほどの、みめうるわしき人魚が、七色に輝く尾を横たえて歌っていました。
 一目で恋に落ちてしまった王子は、逃げようとする人魚の手をすばやく捕らえて、結婚を迫りました。しかし彼女は、人魚は尾のある海の民としか結ばれないと答えるばかり。

 王子はその夜、国一番の魔法使いを呼び寄せて命じました。
「私に人魚の尾を与えよ」と。
魔法使いは答えます「畏れながら王子さま、尾をつければあなた様は海の国の住人。この国の王子ではいられません」
 王子は動じません。
「いや、それはならぬ。何も足を無くせと言っているのではない。足はそのまま、尾を付ければいいのだ」そう言って魔法使いの首に刃を突きつけたのです。

 魔法使いはしかたなく、王子の腰に七色に輝く立派な尾を与えました。
 王子は喜び勇んで昨日の岩の陰に向かいます。あの美しい人魚を姫として迎えるのです。

 ほどなくして人魚が現れると、王子は輝く尾をさっそうと振りながら近づきました。
しかし、彼を目にした人魚は、ブルブル震えながら「バ、化け物!」と叫んだきり海に飛び込むと、二度と戻っては来ませんでした。
 失意の王子は、とぼとぼと城へ帰って行きました。すると人々が口々に叫んでいます。
「化け物。化け物が来た!」いつしか叫び声に混じって、石や槍が飛んできます。王子はついに国を追われてしまいました。

「足も欲しい尾も欲しい・・・ヒトの考えることのおろかさよ。地上の美しさと海の美しさの両方を得れば、どちらでも生きていけぬものを・・・。」魔法使いは悲しげに目をふせました。


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(C) 1996 Hajime Nakamura.