ウミの箱船 中村 元 「もうすぐ、海が1年間干上がる」 神様は、サメとラッコとカニとヒトを集めて言いました。 「そこで、お前たちのために海のある箱船を作ったのじゃが、弱ったことに少し小さかった。すまんが誰か1種類はあきらめてくれ」 こんな時に、主導権をにぎるのはいつもヒトです。 なぜなら他のみんなの頂点に立つ、地球の王者だからです。ヒトはじっくり考えて、いちばん文句を言いそうにないカニを選びました。 「悪いが君たちが残ってくれるかい?数も多いし、それにあまり役に立ちそうにもないからね」 カニは赤い顔を青くさせましたが、黙ってうなずくだけでした。 でも、ラッコたちが抗議しました。 「待ってよ、カニがいなかったら、ボクたちは生きていけないじゃないか!」 ヒトは怒りました。 「せっかくラッコたちは助けてやろうというのに、なんて自分勝手なことを言うんだ!それじゃ君たちが降りるんだね。1年くらいなら、君の毛皮なんかなくても平気だよ!」 今度はラッコが青くなる番です。 ![]() しかし、サメが言いました。 「おいおい、それは困る。ラッコがいなかったら、オレ様の食うモノがないぞ。ふん、しょうがない、一番嫌われ者のオレ様が降りてやるか。体も一番大きいし」 ヒトはホッとしました。これでやっと乗員が決まったのです。 ところが、今度はカニたちが騒ぎ始めました。 「ダメです。ダメです。サメさんの食べ残しや、死んだときの大きな体がないと、ボクたちのエサがなくなって、生きていけないんです。みんな誰かの役にたっているんですから・・・・」 そしてみんなの目は、一人だけ誰の役に立っていないヒトに集まりました。 「なんだ?おまえたち!」 ヒトが叫び終わらぬうちに、サメはヒトをたべてしまい。ウミの箱船の乗員の件は、これにて一件落着! |