10号に掲載
磯ップ物語−11
ウミの箱船

中村 元

「もうすぐ、海が1年間干上がる」
神様は、サメとラッコとカニとヒトを集めて言いました。
「そこで、お前たちのために海のある箱船を作ったのじゃが、弱ったことに少し小さかった。すまんが誰か1種類はあきらめてくれ」

 こんな時に、主導権をにぎるのはいつもヒトです。
なぜなら他のみんなの頂点に立つ、地球の王者だからです。ヒトはじっくり考えて、いちばん文句を言いそうにないカニを選びました。
「悪いが君たちが残ってくれるかい?数も多いし、それにあまり役に立ちそうにもないからね」
カニは赤い顔を青くさせましたが、黙ってうなずくだけでした。

 でも、ラッコたちが抗議しました。
「待ってよ、カニがいなかったら、ボクたちは生きていけないじゃないか!」
 ヒトは怒りました。
「せっかくラッコたちは助けてやろうというのに、なんて自分勝手なことを言うんだ!それじゃ君たちが降りるんだね。1年くらいなら、君の毛皮なんかなくても平気だよ!」
今度はラッコが青くなる番です。

 しかし、サメが言いました。
「おいおい、それは困る。ラッコがいなかったら、オレ様の食うモノがないぞ。ふん、しょうがない、一番嫌われ者のオレ様が降りてやるか。体も一番大きいし」
ヒトはホッとしました。これでやっと乗員が決まったのです。

 ところが、今度はカニたちが騒ぎ始めました。
「ダメです。ダメです。サメさんの食べ残しや、死んだときの大きな体がないと、ボクたちのエサがなくなって、生きていけないんです。みんな誰かの役にたっているんですから・・・・」

 そしてみんなの目は、一人だけ誰の役に立っていないヒトに集まりました。
「なんだ?おまえたち!」
ヒトが叫び終わらぬうちに、サメはヒトをたべてしまい。ウミの箱船の乗員の件は、これにて一件落着!



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(C) 1996 Hajime Nakamura.