11号に掲載
磯ップ物語−12
エリートの条件

地球流民

 平和なアシカ村に、男の子のアシカが3頭いたよ。
 名前はゴンとロンとクー。
 ゴンはガキ大将だ。 体も大きいし勇気もあって、アオアオ鳴きながらいつも友達の先頭を歩いていたよ。
 もう大人と同じ深さまで潜って魚を獲ってこれるから、女の子にモテモテさ。
 大人になったら、たくさんのお嫁さんと子供をいっぱいつくるって言ってたよ。

 友達のロンは頭がいい。目をクリクリ回して毎日猛勉強。
 いろんなことを知っているから、大人にだって一目置かれていたよ。
 ロンは将来、アシカ村の村長さんになりたいんだ。

 もう一頭の子アシカはクー。この子は弱虫で臆病者。
 なにをするのだっていつもビリで、クークー鳴いているばかり。
 海が恐くてまだ岸から離れて泳げないから、一人で魚を獲るのも、もうちょっと後。これじゃいつまでたっても大きくなれないよね。

 そんなわけで、大人のアシカたちも、女の子のアシカたちも、ゴンとロンに期待していた。

     アシカ村はゴンとロンみたいなエリートがいれば安泰だってね。


 ところが平和なアシカ村に、腹ぺこのシャチがやってきたんだ。
 シャチは柔らかくて一飲みにできる子供のアシカが大好物。
ガキ大将のゴンも頭のいいロンも、海の中じゃシャチにはかなわない。大勢の大人のアシカたちと一緒に食べられてしまったよ。 

 アシカ村はもう全滅?いやいや、そんなことはないさ。弱虫のクーが生き残っているもの。
 それから十年たった今、クーがアシカ村の村長だ。
 シャチはまだやってくるけど、弱虫クーの子供たちはひどく臆病だから簡単には食べられないよ。
 今じゃアシカ村では、弱虫がエリートの条件なんだって。
 どんな性格が一番優秀かなんて、誰にも分からないものなんだね。



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(C) 1996 Hajime Nakamura.