12号に掲載
磯ップ物語−13
毛はえイルカの進化

地球流民

 イルカと商売人のヒトとが話していました。
 ヒトが言います。
 「ボクの新しい車を見てよ。電動ミラーに、どこでも行けるタイヤ、重厚なシート。これは最も進化した車なんだ。」
 感心するイルカにヒトは続けます。
 「でも君は、ホ乳動物のくせに、脚も退化、毛も退化。ちょっとみっともないね」

 退化!イルカはすっかりしょげてしまいました。 そこを、商売上手なヒトは畳みかけるように言ったのです。
 「でも大丈夫、ヒトは頭脳が進化したんだ。ボクが発明した強力毛生え薬を君に売ってあげよう。君にだってすぐに生えてくるよ。」

 イルカがその強力毛生え薬を買って、さっそく体中に塗り込むと、なんと1週間で彼の体は艶やかな毛に覆われたのでした。
 遠い祖先の毛を取り戻したイルカは上機嫌でした。 もうヒトに退化なんて言わせません。
 彼は仲間のイルカにもすすめようと久しぶりに外洋に向かって泳ぎ始めました。

 なんだか体が重いのですが、これが進化というものなのでしょう。
 だって、ヒトの車なんか、進化のたびに電動ミラーが付いたり、タイヤが太くなったりしているのですから。

 仲間と合流して、さっそく毛の進化した体をみんなに自慢しました。
 「ほら、ボクたちもこれで退化なんて言われないよ。」
 みんなはすっかり感心して、全員で毛生え薬を買い、進化イルカ族と名乗ったのでした。

 ところがそれから5年後、毛のせいで泳ぐスピードの遅くなった進化イルカ族は、エサを思うように獲れず絶滅しかけていました。
 あのイルカだけが瀕死で横たわってつぶやいていました。
 「毛の退化こそ、ボクたちの進化だったのかもしれない。 ヒトの言葉など気にしなければよかった。」



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(C) 1996 Hajime Nakamura.