中村 元
ジュゴンは、あたたかい南の海にすんでいる動物だ。魚のようだけど、みんなと同じほにゅう動物だから、オッパイをのんで育つよ。 カバのようだけど足はなくて、イルカみたいなしっぽがあるね。 ヒレの形をした手は泳ぐときにも、海底を歩くときにも使うよ。小さい目と、フタのついた鼻は、ジュゴンのかおのとくちょうだ。 イルカよりちょっと太めで、ゆっくり泳ぐジュゴンは、性格もやさしくて、魚を追いかけたり食べたりしないよ。ジュゴンが食べるのは、アマモという海に生えている草だからね。 ひどくはずかしがりやだから、海でジュゴンを見たひとは、あんまりいないんだ。だからむかし、ジュゴンをはじめて見た探検家たちは、「人魚をはっけんした!」って大さわぎしたんだって。 鳥羽水族館のセレナは、フィリピンの海で生まれたジュゴンの女の子。でも、まだ赤ちゃんのときに、あらしでおかあさんとはぐれちゃったんだ。 セレナはさみしかったし、とってもおなかがすいていた。そのころのセレナはまだ赤ちゃんで、おかあさんのオッパイで育っていたからね。 そこに通りかかったのが、ジュゴンの調査にきていた、鳥羽水族館の人たちだ。セレナがひとりぼっちなのを見た水族館の人たちは、セレナをつかまえて育てることにしたよ。 それからは、水族館の人たちがセレナのおかあさんがわりになった。ミルクをつくって飲ませてあげたり、おかあさんのかわりにいっしょに泳いであげたりしてね。 そのころ、鳥羽水族館では、ジュンイチというオスののジュゴンがひとりでくらしていた。そこで、セレナがおとなになったら、ジュンイチのおよめさんになってもらおうということになったんだ。 セレナは、フィリピンから、大きなジェット機に乗って、日本にやってきたよ。でもジュンイチとはすぐに会えなかった。まだ子どもだったから、結婚できなかったんだね。 ジュンイチと会うまでは、セレナはひとりぼっち。おとなしいセレナはひとりでいると、あまり泳がず、ねむってばかりだから、ちょっと運動不足になっちゃたんだ。 そこで、アオウミガメのカメキチにセレナのともだちになってもらうことにした。カメキチは、サンゴの海にいるウミガメだし、好きな食べ物は、セレナと同じアマモだったから、ふたりはすぐになかよしになったよ。 あるとき、セレナが一日にどのくらいアマモをたべているのか、くわしく調べることになった。そこで、セレナといっしょにアマモを食べているカメキチは、別のプールへひっこしさせられっちゃった。 ところがその日から、セレナは食よくがなくなってしまったんだ。なかよしのカメキチがいなくなったので、さみしくて、食事する気になれなかったんだね。 それで、飼育係は、カメキチをセレナのプールにもどしてあげた。そしたらセレナはもとのように、たくさんのアマモを食べるようになったんだよ。 この話しは、新聞にのって全国にしらされたよ。それを読んだ人たちは、セレナはやっぱり、人と同じ心をもった人魚だったのかもしれないと感心したんだ。 今、セレナは、カメキチや、魚たちといっしょに、元気にくらしているよ。そしてときどき、ジュンイチとデートをするようにもなった。 赤ちゃんだったセレナも、いつかはおかあさんになって赤ちゃんをうむ。そしたらカメキチは、きっと、その赤ちゃんともなかよしになるんだろうね。 |