続「大変革夜明け前」1998名古屋JC-TIMES連載
11月号
酒飲みたちのデモクラシー
もう一つのお金の使い方
著:中村 元(地球流民)
民から民へのお金の流れ
政治の役割
著:村岡 兼幸(日本JC直前会頭)



酒飲み達のデモクラシー
目的はなんだったのか?
地球流民 
株式会社JCの社員は、みんな酒を飲むのが好きだった。ありがたいことに社長も酒が好きだったので、酒こそ会社の潤滑油「飲ミニケーションだ!」と、毎週金曜日には、厚生福利の一環として会社からの補助金を出し、わずかな登録料で居酒屋懇談会が開かれた。

でも困ったことが一つだけあった。みんな酒は好きでも強さは違う。それにも関わらず、社長の考え方は、福利厚生なのだから全員が同じ分量だけ平等に飲まなくてはならないということだった。

おかげで、酒が強く酒に飢えている社員に合わせて同じ量の酒を飲むことになり、アルコールに弱い者は、ひどく酔っぱらい好きな肴は食べれれず、酒に強い者はそれでもまだ飲み足りなかった。

そして最近、もっと困ったことがあったのだ。不況によって業績が悪化し、さすがの酒好きの社長も、あまりお金を出してくれなくなったのである。
酒に弱い者たちは、相変わらず酔っぱらいすぎていたが、酒豪の者たちは物足りなくてしょうがなかった。

それで、会社から補助の出る酒飲み会が、月に4回から、月に2回になったとき、社員達はみんなで相談した。
酒が弱くて肴が欲しい者も、酒が強くて肴はいらない者も、居酒屋に行きたいのは一緒だ。だったらみんなでお金を出し合って、好きなものを注文しようじゃないか・・・・と。

もちろん会社からの補助はなかったので、社員主導の飲み会の週はいつもより安い居酒屋にいくことになった。
でも、酒飲みは好きなだけ酒を飲め、肴食いは好きなだけ肴と酒を楽しんだから、みんなとても満足することができた。

その方法はみんなに受け入れられ、やがて、月に3回は、みんなで考える社員主導の飲み会になり、会社の補助が出る飲み会は、いつの間にか月に1回に減っていった。
それでもみんなはとても満足だった。そしてそのおかげで、毎週飲み会をしながらも、会社はなんとか不況を乗り切っていた。

社長だけはちょっと寂しかったが、あるときに気が付いた。自分も一人の酒飲みになって、社員主導で行われている飲み会に参加すればいいのだ。

会社は不況から立ち直ったが、社員主導の飲み会はその後も月に三回のままだった。そして会社から補助の出る月に一度の飲み会は、誰もが喜ぶ、ちょっと高級な料亭だったり、ウキウキするランパブだったりと、みんなが平等に楽しめるものに変わっていった。
もちろん、社員も社長も、毎週ある飲み会に参加しながらとても満足だった。
 (おしまい) 


民から民へのお金の流れ
村岡 兼幸 
まちづくりは行政がやるもの・・・・もしかしたら、そう思いこんでいませんか? 私たちは今、その固定概念から脱却しなければなりません。

この連載の最後に、まちづくり市民財団の理事長としての経験を通して、誰もが最も実感できる「お金」の面から、パートナーシップ型の社会にアプローチしてみましょう。

行政・企業・NPOという三つのセクターで構成される社会を考えるとき、私たち市民はそれらの根本にいます。つまり社会を構成するのは市民一人一人であり、その市民一人一人がそれぞれの立場で三つのセクターの面を生みだしているのです。

例えば、お金という側面で考えてみても、行政の税金、企業の収益、NPOの会費、それら全てがもともとは市民一人一人の努力、もっといえば市民一人一人の参加による生産物であるからです。

よって三つのセクターの真ん中にいる市民の多様な力が、三つのセクターで生み出されるお金により、多様にかつ相互に活かされる社会でなくてはなりません。
しかし、「市民が社会をつくる」という意識のまだまだ薄い日本にあっては、市民や企業の寄付によって市民活動を支えるという仕組みは育っていないのが現状です。

そんな社会状況下、市民の立場から地域問題を解決していこうとする市民運動への助成を行うことを目的として、1991年に日本青年会議所が世に生みだしたのが(財)まちづくり市民財団です。
この財団では、独自の運用財源ならびにトヨタ自動車より協賛を頂き、審査で選ばれた全国のまちづくり団体に、年平均20件、総額600万円ほどの助成活動を行い、設立後の6年の間に計146件、4050万円の助成実績があります。

もちろんそのお金だけでは、まちづくり事業の資金としては一部にしかなりませんが、市民が主体的に行おうとするまちづくり運動の初動財源の一助にはなっているでしょう。
私の著書「大変革夜明け前」の印税もすべて、この財団が受け取っていますから、どこかのまちで、それが役にたっていると思うと、たいへん嬉しいものがあります。

まちづくりを意識した市民から、まちづくりを実践する市民へのお金の流れ、それはようやく非営利民間の社会活動の存在意義が認められようとしている現在、最も必要とされているシステムです。民から民へのお金の流れをつくり、行政を通してだけでなく、個人の意志が直接社会に活かされるような仕組み、すなわちもう一つのまちづくりシステムを持つことが大切なのです。
(了) 


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(C) 1996 Hajime Nakamura.