卒業記念作品「はじめの一歩」ー2  作成1996年12月
はじめの一歩−2
JCが頑張る鳥羽のまちづくり…96年度鳥羽JCの報告と所見
頼りになる鳥羽JCであるために

社団法人 鳥羽青年会議所
1996年度理事長 中村 元



1996年度鳥羽JCは、第2次「ゆめランド」構想をその運動の指針に、まちづくりはデモクラシー運動であるという理念の下、いくつもの新しい事業を展開してきた。
しかしそれらの事業は突然出てきたものではなく、今までの鳥羽JCの運動と活動の流れから新時代へのビジョンとして誕生してきたものであり、その目的とするところは鳥羽JCの歴史がつくりあげたものであると言える。
ここで今一度、今までの鳥羽JCの運動の歴史と、本年度事業の目的と成果を検証して報告するとともに、そこから発生する鳥羽JCの可能性を考察してまとめてみた。

尚、本書は私のまったく個人的な感覚から書かれたものであり、この通りにせねばならないという提言でも、鳥羽JCの理想の姿でもない。
ただ、三重ブロックの中でも常に注目を浴びる存在として認められてきた鳥羽JCの原動力が何であったのかを探り、今後鳥羽のまちから頼りにされるJCに育つためにはどうすればいいのかを、卒業までに模索したいと思い立ってまとめ上げたものである。   
このような考えのJCもあるという資料にしていただければ幸いである。


頼りになる鳥羽JCであるために:目次
T.近年の鳥羽JCの歩み

U.1996年度鳥羽JCの事業
U-1 広域的な地域づくり
    (3LOM合同事業開始)
U-2 文化と環境を大切にしたまちづくり
    (エコシティーシンポジウム)
U-3 鳥羽を愛する青少年の育成
    (生涯学習センター機能構築開始)
U-4 地球市民意識によるグローバルなまちづくり(国際理解事業開始)
U-5 市民参加のまちづくり
     (まちづくりワークショップ開催)
V.「まちづくり」今後のJC運動の課題と展望
V-1 地域主権(市民参加のまちづくり)
      【まちづくりワークショップ】
      【広域まちづくり】
V-2 地球市民意識
      【国際交流協会】
V-3 環境がつくる鳥羽の将来
      【多自然型開発】
      【省資源】
V-4 センター機能
W.ビジョンから行動へ


W-1 ビジョンの作り方


X.高度情報化によるまちづくり
 X-1 文化情報集中都市鳥羽・三重
 X-2 リゾートと高度情報化
 X-3 鳥羽市の現状と三重県の方向性
 X-4 鳥羽JCのできること
【情報発信機能の充実】
【全域的な情報インフラ整備】
【地域ネットの立ち上げ】
Y.青少年開発と生涯学習


  【生涯学習の新機軸】



T.近年の鳥羽JCの歩み             

 まず、日本における青年会議所の誕生が、大戦直後の日本社会の絶望感と虚脱感の中で、日本の復興を信じた青年たちの、未来にかける希望であったことを忘れてはならない。
青年会議所はその創始の時から、ひとり一人の力を合わせることによって社会を補い、だれもがあきらめていることに果敢に取り組むことによって不可能を可能にし、明るい豊かな社会に一歩でも近づくための行動を起こしてきたのである。
 鳥羽JCが誕生したのは、ちょうど高度成長時代のまっただ中であり、世界から奇跡の復興と呼ばれるほどに経済の仕組みが国家的に機能し始めていた頃であった。当時の社会で後回しにされていたのが、急速な経済発展の影に置いておかれた青少年の教育問題であり、急速に発達したモータリゼーションに蹴散らされた交通弱者問題であった。鳥羽JCは当初、それらの問題をとらえて活動を行っていたのである。

 20周年を迎えようとした1980年代半ば頃、今まで急速拡大だけでしかなかった経済の発展が突然ゆっくりとした動きに変わる。日本中に地域経済への不安感が生じ、「地域の活性化」という言葉が聞かれるようになった。
 そこで鳥羽JCでも鳥羽の将来像を見据えた経済的な活性化計画が急務と考えられ、市民フォーラムを重ねた後、まちづくり提言書「ゆめランド構想」を発表し、鳥羽市を海洋リゾート立地都市としてメンバー間の確認をとると共に、今後の地域の開発をリゾートを核としたものにするよう方向付けた。
 20周年記念事業を発端にそれ以降鳥羽JCは、鳥羽の旧来の観光地から海洋文化リゾート地へのイメージ改革と全国への発信を活動の中心とした。(当時このような事業活動は全国各地のLOMで行われていたが、鳥羽JCはその中でもかなり早く手がけ、またそれを効果的に成功させたLOMであった)

25周年を迎えようとする1990年代初頭、バブルのまっただ中でまちの経済的活性化は全国的な再開発ラッシュという現象になっていた。そんな中で中央集権の弊害がクローズアップされ地方分権論が盛んになり、JCは地域主権という考えのもとでまちづくり運動を考えるようになる。経済的な発展はまちの経済的自立のためのものとしてとらえ、われわれJCは経済的な側面だけでなく、市民レベルにおける地域の魅力づくりと未来への財産づくり、あるいは地域主権を目指した行政機能の見直しなどに取り組もうという新たな方向性が明確になりはじめた。
 そしてリゾートという経済基盤をもとに、文化や生活に関わる部分や環境保全などを重視したまちを市民としてつくりあげるという指針を示した「第二次ゆめランド構想」を発表した。
 この構想では、経済基盤であるリゾートなどの産業と市民の豊かな生活を、鳥羽の魅力として共存させることこそがまちづくりであるとの基本理念の下、1)リゾート文化の定着、2)地域性を活かした生涯学習センターの設立、3)リゾートとその他の産業との融合、4)環境保全委員会の設置、5)国際情報センターの設立の5項目を通して、「住む魅力のあるまちづくり」の方向性を示したものである。

 また、鳥羽JCが25周年を迎えた1993年は、三重ブロック事務局を鳥羽JCが運営した年でもあるが、当時35周年を迎えた三重ブロックでは地域主権を見据えた広域的なまちづくりについての提言書を作成し、その後の県下LOMの地域政策に影響を与えることになった。


U.1996年度(本年)鳥羽JCの事業        

 本年1996年度は、基本的には4年前に策定した「第二次ゆめランド構想」と、三重ブロックにおいて提言した広域的なまちづくりの理念を念頭に置き、それらの実現に向けて一気にダッシュした年であると位置づけられる。
 年当初に上げられた「基本方針」と「重点事業」にしたがって報告する。


U-1 広域的な地域づくり → 3LOM合同事業の開始

 1992年三重ブロックで提言した、JCが取り組む広域まちづくりに向ける伊勢鳥羽志摩の地域でのスタートととして、3LOMの全メンバー参加による地域主権ならびに広域行政についてのフォーラムを行った。
 当日の北川知事と野村三重県理事のレクチャーや、メンバーのLOMを越えたグループディスカッションによる地域の密着化もさることながら、それぞれのLOMの担当委員会(広域まちづくり推進委員会)のメンバーの20回を越える合同委員会は、さらに互いを密接に繋げるものとなり、彼らからのLOMへの意識づけの効果が今後も期待される。これが継続されたときのLOM内への波及効果は、住民による地域間のつながりと行動という図式に最も近くなるのではないかと楽しみである。
 今後も続いて鳥羽・伊勢・志摩の順で主管を交代しながら継続される方向性が、非公式ながらもたれているが、これを最初に立ち上げたのが鳥羽JCであるという事実は、次の一巡になるたびに責任ある指針と行動を起こさねばならないことを意味する。
 鳥羽JCは常に提案者としての責任を考えながらこの事業の行方を見守っていなくてはならないだろう。


U-2 文化と環境を大切にしたまちづくり
          → エコシティー鳥羽シンポジウムの開催と提言

 この先の太平洋国土軸構想(伊勢湾口道路)や高度情報インフラの発達によって、リゾートについての考え方や形態が大きく変わることが予想される。また「第二次夢ランド構想」でも述べたとおり、リゾートは住民にとっても魅力のあるまちづくりとして考えるべきである。
 そこで特に近い将来開発が決定されている「マリンタウン21計画」を中心に、海のまちの文化を大切にした環境重視型の開発への方向性を主張する提言を行った。
 魅力あるまちづくり推進委員会では、今までの鳥羽の悪い開発探しから、先進地の事例調査などを進めるうちに、運輸省にまでたどり着き、ついには当初は無関心意識のあった鳥羽市行政もシンポジウム開催にあたって後援をせざる得ない状況になったことは、ある意味での市民参加のまちづくりへ大きな一歩を踏み出したと感じる。
 特筆すべきは、事業の過程において「マリンタウン21計画」の公園緑地部分である県有地のエリアを見直すのための委員会「鳥羽港景観形成モデル事業調査委員会」が、運輸省と三重県によって設置され研究費が計上されたことであり、しかもその委員の市民代表として鳥羽JCが指名を受けたことである。
 この委員会の設置は自動的に、エコポート計画を実施する億単位の施工変更がほぼ約束されたということでもあり、本事業の波及効果は鳥羽JCの歴史の中でも例を見ない直接的な実績をあげたものであった。
また、第二次ゆめランド構想では環境保全委員会の設置を事業の具体例としているが、今回設置された委員会を例にして今後の考え方を見据えるべきであろう。

U-3 鳥羽を愛する青少年の育成 → 生涯学習センター機能の開始

 鳥羽市が海洋リゾート地であることに誇りを持てる文化の育成とともに、それを利用した生涯学習プログラムを開発して、生涯学習センターを設立すべきという第二次ゆめランド構想の提言に対応すべく、過去3年間は地域性を意識した事業が毎年1回行われてきた。 本年はそのそれらの事業目的を、今一度、提言時の主旨および25周年事業の本来の主旨に立ち返り、コストパフォーマンスの高さと地域の参加を促せる「生涯学習センター構想着手」という重点事業を掲げた。
 結果は担当委員会(まちを愛するひとづくり推進委員会)の努力により、構想の着手というよりも、すでに生涯学習センター機能を鳥羽JCで運営したという完成度の高いところまで持ってくることができた。
 なによりもの収穫は運営した市民の総数であると思う。その人たちは生涯学習におけるJC準構成員として今後も主体性をもって、それぞれの生涯学習を育ててくれるであろう。
 市民全員が、また鳥羽市の全域そのものが、鳥羽を愛する子供たちを育てようとすることは、鳥羽JCの運動の一つが認められ広がったたということでもある。
今後は教育委員会などとタイアップして、将来的には市から補助金をもらったり市の生涯学習センターの設立に寄与することが新しい展開であると考える。


U-4 地球市民意識によるグローバルなまちづくり
                  → 国際理解事業開始

 今まで何故か手が着けられていなかった国際観光文化都市の「国際」の部分に、初めて着手した一年であった。グローバルまちづくりに関する事業費捻出のこともあり、同じ主旨を持つ鳥羽市国際交流協会の事務局の運営を引き受け、国際交流協会の事業の開催を行った。 第二次ゆめランド構想においては、外国人観光客と外国人就業者のケアとともに地球規模の視野を持ったひとづくりのために、国際情報センターを設置することを提言したが、すでに鳥羽市からの補助も出ている国際交流協会があるので、これに多くの国際系ボラティア組織のセンター機能を持たせ、鳥羽JCとしても地球市民意識や国際的なまちづくりを考えた事業を企画していくことができるものと考える。
 本年は、市民向けのワールドゲームと国際理解講演会を中心として、市民向けの勉強会の形に力を入れた。 
 また、高度情報化によるボーダレスな国際社会への対応として、鳥羽市のホームページの作成を行った。現在海外からのアクセスが入り始めている。
 しかしながら対外的な事業展開とは裏腹にJCメンバーの意識づけが今一歩推進できなかったのが残念である。

U-5 特筆すべきプラスα事業:市民参加のまちづくり
              → まちづくりワークショップの開催

 別冊の「青年会議所における市民まちづくりセンター機能開設の可能性について」において詳細に記したが、本年度理事長所信の「真のデモクラシー運動が社会をつくる」という理念をより具体的に推し進めた形の「まちづくりワークショップ」が、広域まちづくり推進委員会において開催された。
 これは今後のJC運動に大きな影響を与える手法であろうと考える。
ただし、よく理解しておかねばならないのは、まちづくりワークショップは手段であり手法であるということだ。つまりこれがJC運動の全てにはなり得るものではなく、JCは常に社会の方向性を明確にし、JCとしてのビジョンを提言し続けることと、それを実践できる行動力を持たねばならないのである。



V.「まちづくり」今後のJC運動の課題と展望   

 JCの存在は「まちづくり」のためだけにあるといっても過言ではない。ただしここでいうまちづくりとはいうまでもなく社会づくりのことである。それはこの時代においては、地域主権の推進であり、環境問題であり、コミュニティーの構築であり、経済基盤の自立であり、文化の問題であり、高度情報化の推進であり、国際化の推進であり、教育問題であり…つまり世の中のすべての未来の問題がJCの推進すべきまちづくりなのである。言い換えれば「未来づくり」と表すことができるだろう。
 そしてJCは、この未来から与えられた多くの課題の中から、いくつかをチョイスするのではなく、すべてを包括した地域の未来ビジョンを描き、そしてひとつ一つの課題のつながりを発見しながら、その時代において中心となる核を見いだすのである。その核が理事長による基本方針や重点事業であるともいえよう。
 この時代のまちづくりにおけるキーワードは、「地域主権(市民参加)」「地球市民意識」「環境」「生活と文化」である。
そしてそれらのまるで別物のような分野は、実はデモクラシーやコミュニティーという言葉を横軸に結びついているのである。この横軸の存在こそが縦割り化した行政とJCとの違いである。だからこそJCは全てのことを考え、全てのことに精通しておらねばならないのだ。

V-1 地域主権(市民参加のまちづくり) 

 なぜJCが地方分権と呼ばずにわざわざ「地域主権」という言葉を使っているのか?それはハナから地域の権限は民に在りと考えているからである。しかもその権限には必ず責任がついてまわるものだということも認識しているから、地域が主体となる権限「地域主権」なのである。
 JCが地域主権運動を推し進めるときに、この「個人の責任」という感覚を忘れてはならない。行政に提言したことはJCで必ず実行にむけた行動を示す。市民の声を集めるのであれば、市民の責任をもった意見が無駄にならないようなシステムを構築する。
 デモクラシー運動は個人の未来を手に入れるために、個人の犠牲を払いながら達成され、コミュニティーは個人の生活を互いに便利で効率のいいものにするために、個人と個人のつながりの中から生まれた。
 現時点でJCが行うことの出来る地域主権運動は、コミュニティーから地域をつくるシステムづくりであろう。
ただし、システムだけでもまたまったく機能しない。どれほど優れた手法を持ちシステムを構築したとしても、それをなんの為に使うのか?すなわちJCとしてのビジョンと方向性をはっきりしなければ、どんな素晴らしいシステムも用をなさないのである。

【まちづくりワークショップ】
まちづくりワークショップは、それだけを取り上げれば特にどうと言ったことのない手法である。今までJCがメンバーの全員参加でビジョンを作成するときに使ってきた様々な手法と同じ事を市民対象に行う程度のことだと考えればいい。
大切なのは、どんな目的を持ってするかということと、それが実際に行政の施策に反映されるということであり、その目的と落としどころを持たずにワークショップを行っても何の意味も成しはしない。
 JCの行うべき事は、その市民参加のシステムをつくりあげることであろう。
*詳しくは、別冊「青年会議所における市民まちづくりセンター機能開設の可能性について」を参照されたい。

【広域まちづくり】
 まちを広域的に機能化しようという考え方は、地方分権の議論の中でも大いに取り上げられ、広域行政的な市町村合併の計画は現実論として盛んである。
 しかしJCが考えの基本とすべきは、もっと柔らかな生活者としての市民の側から考えたまちづくりであると感じている。自分の生活圏をわがまちと考えるのだ。
 つまりコミュニティー優先に国家や世界を考えれば、行政区画そのものが意味をなさないものとなる。志摩に住んで鳥羽で働く人、鳥羽に住んで伊勢の病院に通う人、普段の生活における活動範囲がその人のまちである。
 そういった市民ひとり一人の生活を発想の基盤として、どんな行政システムが最も現実的で役に立つのか?と考えれば、自ずから広域的なまちづくりが理解できるし、広域行政のありかたも具体化するだろう。
 広域まちづくりを直接的に行政の合併ととらえると話しが停まってしまう、広域であろうがコミュニティーであろうが、地球市民であろうが、すべてが個人から始まっていると考えれば理解しやすいのだ。

V-2 地球市民意識

GTS参加者が会員の1割以上もいる鳥羽JCであるから、地球市民意識についてはすでによく理解されているとは思うのだが、地球市民意識の根本はひとり一人の人格を認め理解することにつきる。ひとり一人のアイデンティティー、つまり民族であるとか所属国であるとか文化であるとかそういった人格を、国家対国家ではなく一人の人間として認め合うということが必要なのだ。
 自分自身のアイデンティティーとしても、日本国への愛国心・責任や、日本の文化に対する誇りなどはもちろん重要であるが、そこから日本国への島国的帰属意識へと執着しない個人の確立と自立が今の国際社会に求められているのである。
 それは、ひとり一人が社会を築くというデモクラシー運動にも繋がる重要なキーワードであることを忘れてはならない。
今後の社会は、高度情報化や国際交通インフラの整備により、今以上に国家のボーダレス化が進むであろう。すでに海外は一部の特殊な人々のものではなくなっている。
 今後はそれぞれの日本人が、確たる地球市民意識を持たなければ、国家の繁栄も地域のまちづくりも求められないだろう。
 
【国際交流協会】
 国際交流協会の事務局を鳥羽JCが引き受けるようになった理由は、ひとえに鳥羽JCが「鳥羽市の国際化を進めたい」という意識を持ったからに他ならない。
 「国際理解」「地球市意識」「グローバルな情報発信」などを学び常に考えているJCであるからこそ、国際交流協会の事業をよりレベルの高いものにし、その予算を有意義な形で使うことができるのである。
 協会の事務局運営などはそのための一事務と考えるべきで、それを事業と考えるべきものではない。
 鳥羽JCに地域のグローバル化についての意識があり、その方向性にビジョンを持っているから、協会の事務局運営を行うのである。

V-3 環境(多自然型開発)がつくる鳥羽の将来

まちづくりにおける環境問題は大きく分けて、地域的にとらえることの出来る環境保全の問題と、地球環境としてとらえることの出来る資源の問題に分かれる。全国的な取り組みを見るといずれもJCが中心的な役割をはたしているが、今鳥羽JCが取りかかっているのは、環境保全つまり多自然型の開発についての具体的行動である。
 
【多自然型開発】
 言うまでもないが、鳥羽市は漁業や真珠という豊かな海と、それらに端を発したリゾートによってその経済基盤を成している、いわば自然環境に依存したまちである。
 この鳥羽が未来永劫まちの魅力という情報を発信していくには、機能優先の無機質な開発は避けねばならないだろう。
 そういう背景の下、マリンタウン21計画にエコポート計画が導入されることと、そこに鳥羽JCが関わってきた意義は大きい。
 「第2次ゆめランド構想」では環境保全委員会の設置が提言されたが、なんらかの形で今後の開発計画そのものに対する提案は常に行っていくことが必要であろうと思われる。 

【省資源】
 地球市民意識で啓発される最も身近なことの一つが、地球規模の資源枯渇問題とそれを解消する社会のありかたである。
 他都市ではリサイクルシステムなどの省資源化を計る試みが実行されており、近い将来モラルも法制度も省資源の方向性に傾くであろう。それは経済論理上はかなりの痛みを伴った時代の変革になるに違いない。
いまだ鳥羽では、誰もそこまでの言及をするに至ってはいないが、痛みを少しでもやわらげるために、企業人であり生活者である市民JCメンバーの責任は大きい。今意識改革を進めていけるのは新時代を担い地球市民意識を理解しているわれわれなのだ。

V-4 センター機能

 青年会議所のメンバーはそれぞれが市民である。もしJC対市民というような印象をもたれてしまったらそれはJCの失敗であるともいえるだろう。一部の市民からは、まるでブルジョアジーであるJCとプロレタリアートである一般市民、あるいは、行政の下部組織であるJC対市民というよな構図で見られているが、それは今までのJCが経済の活性化のことを中心に考えなくてはならなかったのと、まちづくりに対する価値観を一方的に主張しすぎた結果ではないかと思う。
 まずJCがビジョンを持って運動を展開することは言うまでもないことだが、そのビジョンを実現させるには、JCだけでなく他の市民と一緒に、同じ高さとスタンスでまちづくりを育てていく根気のある活動が必要であるし、市民の意識を高めていくことも必要であろう。また、メンバー60人のJCではなく、JCと方向性を共にする準構成員たる市民をつくっていくことは、運動を広め一般化するのに大きな意味がある。
 それが活動のセンター機能化である。
本年度、もっとも形に残った事業は「生涯学習センター機能の構築」であった。なぜ形として残ったかといえば、ひとえにビジョンがしごくもっともで分かりやすかったことと、それぞれのプログラムをJCメンバー以外にしてもらったからである。プログラムの内容は主催者によってどんな風に変わっていっても問題はないし、逆に主体性をもったプログラムづくりが期待できるであろう。
 そしてJCのビジョンにそった運動として、市民に広く伝わっていくのである。
 そのコストパフォーマンスの良さは、子供たちの参加者数によっても推し量れるが、なによりも、全てのプログラムの運営に携わってくれた市民の数が担当したJCメンバーの数を上回るという効果が、対外事業をより効果的に社会づくりに反映させられるという事業効果となって現れるのである。 W. ビジョンから行動へ             

 ビジョンとは運動の指針となるものであり、特にまちづくりにおいては、JCが常に確
たる鳥羽のビジョン(未来像)と鳥羽JCのビジョン(運動指針)を持っていなければ、まちの変革の能動者たることはできない。
より簡単に言えば、我々が鳥羽の未来をどう描き、それに対して鳥羽JCがどのような運動を行っていくべきなのかをはっきりと言えない限り、何をするにもよりどころがないということである。
 例えば、市民の意見を聞く場を企画したとする。それを企画し設営することには何の前進的な意味もない。なぜ市民の意見を聞かねばならないのか?が重要なのだ。
 もちろんその答えは市民参加が必要だからというもうのではない。「住み良いまちをつくるために意見を交わしたい」「意見を交わすことをきっかけに生活者重視の鳥羽の未来を考えよう」といったまちの方向性を示すと共に、その後それらの意見をJCがどのように具体化していくのか、あるいはどのように処理していくつもりなのかといったことをはっきりと呈示して、はじめて意見を集める場が成立するのだ。
 近年、鳥羽JCのまちに対するビジョンは、周年の手前を節にして提言されることになっているが、目まぐるしい速度で社会環境が変化する現在であることと、常に事業をフィードバックさせることを考えると、毎年メンバー間で勉強会などを開き、ビジョンを確認し合うのがいいだろう。



W.ビジョンから行動へ

W-1 ビジョンの作り方

 ビジョンの作り方にはちょっとしたコツがある。
 1.まず、後々実行の中心となれるメンバーを選ぶこと。
 2.その責任者は過去の流れと社会情勢からある程度の方向性を確立すること。
 3.その方向性に合わせて外部からのアドバイザーを準備すること。
 4.アドバイザーを使ってできるだけ多くのメンバーに意識を持たせること
 5.策定されたものを発表する場を設けること。

【担当責任者】策定の責任者には社会の方向性とJCのビジョンを常に考えているようなメンバーを置かねばならない。大筋をわかっているメンバーでないと、さまざまな意見に対して正確な対処ができないからだ。
 さらに責任者は、近い将来に理事長をするだろうと予想されているメンバーにするのがベターだ。少なくとも理事長になったときにはそのビジョンを自ら実行するという責任がある者でないと、ビジョンは絵に描いた餅になってしまうだろう。

【策定のポイント】ビジョンとして活動指針に耐えるものであることは言うまでもないが、それとともにメンバー全員で、鳥羽JCの運動と活動について確認しあい、事業に対しての意識を高めることが大きな意味であることを忘れてはならない。
そのためには出来る限り多くのメンバーに意見を述べて貰うことが必要であり、しかもそれが後ろ向きになったり、個人的価値観で発言しないようにコントロールせねばならない。そのためにも外部からのアドバイザーは必須であるといえよう。

【発表】ビジョンは発表されなければならない。市へ提言するのもいいし、パンフレットにして各戸に配信するのも、フォーラムを開いて直接発表することも可能である。
 なによりも大切なのは、考えていることを多くの市民に理解して貰うことと、発表したからには自分たちは逃げられないという意識を自らに与えることである。発表しないビジョンには責任が無く、責任がない発言には誰も耳を貸さずメンバーにとってさえ意味のないものになるであろう。


X. 高度情報化によるまちづくり         

 高度情報化社会がすでに生活のレベルにまで広がってきている。
 本来、地方都市にとっては非常に明るい未来のはずではあるが、放っておけば高度情報インフラの中央集権は避けられないであろう。全国(あるいは世界)が一斉に情報の受発信基地になれたとしたら、すでに情報の集中化が行われ情報の取り扱いに長けた地域が強いにきまっているのだ。
 鳥羽のような地方都市こそ、高度情報化を積極的に推進し、目の前に迫っている新しい社会への対応をまちを上げて展開せねばならない。
 特に、北川知事による県政は、三重県の未来を情報先進県として位置づけており、それに乗り遅れることは、情報先進都市として飛躍する大きなチャンスを逃すこととなるであろう。
 JCは全力を挙げて鳥羽市の行動情報化に取り組まねばならないと考える。

X-1 文化情報集中都市鳥羽・三重

 伊勢志摩を中心とする三重県は、特色のある情報に恵まれた地域である。
 伊勢神宮の中心とするさまざまな文化、世界的に有名な真珠生誕の地と真珠産業、世界有数の鳥羽水族館、小説の舞台や独特の文化で有名な鳥羽の離島、伊勢エビや蠣・海藻類をはじめとする海産物、新しいところでは日本のアトランティス鯛の島、日本最大の恐竜トバサウルスなど、地元だけでも世界への発信が可能な文化情報があふれるほどにある。
 少し回りを見渡せば、松阪牛、大台山系、伊賀の忍者と松尾芭蕉、鈴鹿サーキットetc.全国ネットでの情報がこれでもかこれでもかとあるのだ。
 首都圏の情報集中機能を相手にしても、十分に勝算のある情報量であり、しかもその情報は文化的で未だに日本人生活文化として生きている情報ばかりである。
 これらの文化的情報が将来に渡って発信されているかぎり、鳥羽は全国からの注目を浴び続けるだろう。
 常時新しい情報を発信できることの出来るまち鳥羽を目指したいものである。

X-2 リゾートと高度情報化(オフィスのリゾート化)

 先にあげた文化情報こそが、現在のリゾートのまち鳥羽を支えていると言って過言ではない。
 だから、インターネットや新しいTVメディアであるデジタルCSなどの媒体は積極的に利用して、様々な形での情報発信を進めるのは必須のことと言えよう。
 しかし、リゾートのまちが高度情報化によってもっとも考えねばならないのは、高度情報化時代の就業システムやリゾート感覚の変化である。
 特に一部ではすでに日本でも導入されている、フレックスタイム制とサテライトオフィスのシステムは、高度情報システムで結ばれているところであればいつでもどこでも仕事ができるという事実から生まれたものである。
 これによって日本でも、仕事の時間と場所のリゾート化が始まるのではないかと予想する。アメリカのエグゼクティブの感覚はそれに近いものであるが、これこそ日本でも可能な長期滞在型リゾートの形である。 
 リゾートサテライトオフィスの条件は、リゾートとしての環境がすぐれていることと情報インフラが完璧であることに尽きる。
 リゾートのインフラに関しては全国でも最も進んだまちの一つである鳥羽であるからこ
そ、今高度情報インフラの整備を急ぐことが、時代の先を走るまちづくりに直接繋がるのである。

X-3 鳥羽市の現状と三重県の方向性

 残念なことに鳥羽市の現状は非常にお粗末であり、JCを通じて三重県からさまざまな補助金の話しを提案しても、議会対策ができないとの理由で見送られている。
 国際観光文化都市でありながら、JCからのインターネットホームページ立ち上げの提案にも拒否反応を示し、JCが中心となって商工会議所・観光協会・国際交流協会の協力により、鳥羽市ホームページを開設したことは記憶に新しい。
 現在、ホームページを作成した委員会を「鳥羽市高度情報化推進委員会」と改名し、鳥羽市への予算請求を行っている状態である。
 そして鳥羽においてはこのように困難な状況であるのに、三重県内の桑名から伊勢までの伊勢湾岸都市にはすべてCATV(ケーブルテレビ)が設置されており、三重県はそれらを繋ぐことによって、情報ハイウエイとすることを推進しているのである。
 最も情報インフラの必要である鳥羽市が、ここでのんびりと構えていては、せっかくの三重県の情報先進県制作から見事に落ちていくことになるであろう。鳥羽JCとしては、なんとしてもそれを阻止し高度情報都市としての出発を計って欲しいのである。

X-4 鳥羽JC(鳥羽市)のできること。

 【情報発信機能の充実】
 鳥羽市ホームページは、鳥羽市が観光地であるだけに他の地域のホームページよりもはるかにアクセス量が多い。本年、他のJCがJCのホームページを立ち上げることに固執しているのを横目に、鳥羽JCは鳥羽市のホームページをつくることに力を入れていたのは、そのためである。
 このホームページを中心に、PerfecTVなどの地域からの発信が可能なメディアを利用して、情報を発信し続けること、これは鳥羽においてはJCにしかできないことかもしれない。
 
 【全域的な情報インフラ整備】
 本年設立した「鳥羽市行動情報化推進委員会」では、インターネットの教材化、離島教育への利用、福祉への利用、などを事業としてあげているが、JCの事業をからませてこれを推進することができるだろう。
 また97年の市長選の行方によっては、三重県の高度情報化が急激にとりいれられることも予測される。その時の先進的市民としてJCが様々な方向性を可能にしておく必要がある。

【地域ネットの立ち上げ】
 市民を対象とした地域ネットの立ち上げを、鳥羽市だけでなく伊勢志摩地域を見据えた形で立ち上げることができるかもしれない。伊勢鳥羽志摩のバーチャル広域シティーをつくることができれば、広域まちづくりへの実質的な一歩が築き上げられるだろう。


Y.青少年開発と生涯学習

 青少年開発事業は鳥羽JCでは古くから行われてきた事業であるが、教育に関する基本的な社会環境が整ってきた近年では、まちづくりのために「まちを愛するひとづくり」「鳥羽に誇りをもったひとづくり」がJCの行うべき事として継続されている。
 特に生涯学習については、25周年の記念事業であった「冒険キャンプ」の目的、海のまち鳥羽の特性を活かして青少年を育てるという理念が、その後の「みなくる汗感」「海の学校」に継承されており、本年度の生涯学習センターにおける事業のすべてもその理念の下にくみたてられたものである。
 その目的意識は、現在の鳥羽JCのビジョンを基本にする限り忘れてはならない。それを忘れると何故JCが生涯学習に取り組まねばならないかが曖昧になってしまうからだ。
特に青少年を相手にした事業は、子供たちの笑顔や涙による感動と達成感によってついつい目的意識を失ってしまいがちになるので、何度もJCの目的を反芻しながら事業を組み立てて行かねばならない。
ただ生涯学習センターをつくるのだけであれば行政に陳情すればいいのだし、ただ生涯学習が必要であるというのなら教育問題として取り組むべきであろう。

【生涯学習の新機軸】
 残念ながら本年度の生涯学習では取り入れることのできなかったが、本来はまちづくりには決定的に必要な生涯学習のプログラムを、新機軸として上げる。

@コミュニティー系生涯学習
 今までは、まちづくりのためのひとづくりの基本は「地域を知る」「地域を愛する」というキーワードだけであったが、今のJCの運動を考えると「コミュニティーづくり」が重要なキーワードとなってきている。
町内会でのまつりや催しへの参加や文化的な活動は、子供たちのコミュニティー参加のもっとも身近な入り口であり、ひとり一人が社会をつくるという「小さなデモクラシー」の理念を学べる機会である。

A地球市民意識育成系生涯学習
 多くの先進的なまちやLOMで事業化されていることであるが、子供たちの地球市民意識や国際感覚の開発を行うような生涯学習である。
 本年度ワールドゲームに中高生が参加したのは記憶に新しいが、彼らの意識は我々よりも100倍も柔軟で、少しのきっかけで将来の日本を決定できるような意識の構築ができるのである。
 他LOMで行っている例は、小学生の交換ホームステイや中高校生のGTSなど相当レベルの高いものであるが、鳥羽JCでも小さな事業でいいからそれを始める時期であろう。 特に鳥羽JCは国際交流協会という予算化された組織と関わっているのだから、無理なく取り組める生涯学習のアイテムである。

B高度情報通信系生涯学習
 「高度情報化によるまちづくり」の章でも述べたが、首都圏からの距離があり離島も多い鳥羽市においては、だれもが高度情報通信ができることが望ましい。
 子供たちにおいては、それが世界とのインターフェイスともなるであろう。
学校教育ではいくらコンピューター教育をおこなっても、高度情報技術の取得まででありその高度情報社会への対応は困難で、例えれば英語の勉強をして英会話が出来ないようなものである。
 鳥羽市のホームページを利用して青少年に高度情報通信社会を学ばせるような形が可能であると思う。

中村 元:1996年12月作成
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(C) 1996 Hajime Nakamura.