伊勢志摩PO-NPO-N通信
中村 元の、ぽんぽん道楽

episode 「アリの時代」


<大地にて>
 アリたちは悩んでいました。最近、キリギリスたちの調子がいいのです。昔々、歌ばかり歌っていて、冬になるとアリたちのところへ哀れな姿でやってきた面影はありません。

 暖冬で景気がいいのでしょうか。近頃では、キリギリスたちにバカにされてばかり。「アリさん、アリさん、毎日毎日穴ばっかり掘ってご苦労なことだね。でも君たちは社会にまったく役にたっていないよ。ボクらはほら、歌を歌ってみんなに安らぎを与えている」

 アリたちは、自分たちが社会の役にたっていないことを嘆きました。そこで、思い切って一年間穴を掘るのをやめることにしました。今までの穴があれば住むのには困りません。日の当たらないところで、際限なく長い穴を掘る必要などなんにもないのです。そうして余った時間を、何をすれば社会の役に立つかの議論に費やしていました。

 それから1年がたった夏のある日。アリたちはキリギリスの鳴き声が聞こえないことに気付きました。そういえばだれの鳴き声も聞こえてきません。心配になったアリたちは、穴からぞろぞろと這い出しました。

 すると大地には、いつもなら青々と茂っているはずの草原がありません。赤茶けた荒野が一面に広がっているだけです。そこにみすぼらしい破れ羽のチョウチョウがふらふらと飛んできて言いました。「アリさん、あなたたちが穴を掘って家を作らなかったから、土が耕されず、植物がはえなかったのよ」
 アリたちはやっと気付きました。自分たちが毎日穴を掘っていたことが、すべての動物たちの生活を支えていたのだと。アリたちは再び、終わりのない穴掘りを始めました。
 (おしまい) 

 先日、北川知事を囲むNPOの座談会をコーディネートさせていただきました。その時に知事が「何が変わったと言って、知事がこうしてNPOの方たちと同席していることでわかるでしょう。昔は政財界の方としか会わなかったけど、今ではみなさんとの方が多いですよ」とおっしゃったのが印象的です。

 社会をつくるのは、派手な政策や経済の活性化、あるいは巨額の資金を投入するプロジェクトだけではありません。市民一人一人による小さな活動もまた、社会を創造する大きな力なのです。
 そして三重県では今、その力が再認識される時代へとシフトされているのです。市民活動を評価する時代、それは社会という大地を耕す力を、大切にする時代に他ありません。

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(C) 2000 Hajime Nakamura.