伊勢志摩PO-NPO-N通信
中村 元の、ぽんぽん道楽

episode 「コウモリの翼」



<洞窟のある竹藪にて>
 夕方になってコウモリたちが餌を探しに洞窟から出ていくと、竹林の人気者パンダがいました。
「こんにちは」 コウモリは挨拶をします。
パンダは笹の葉をむしゃむしゃ食べながら答えました。
「フン!こんばんわだろ、こんな暗くなってからは。 君たちも変な奴だね。 ホ乳動物なのに中途半端な翼を持って、だから夜にしか出歩けなくなったんだよ」

 コウモリは、いつものことだから慣れています。
「いえいえ、パンダさん、この翼は私の宝物。 もし天の川の底が抜けても、翼があれば大丈夫です」
 しかしパンダは取り合いません。
「へへん。天の川が抜けるだって? そんなことがあるもんか、この竹藪はオレ様の爺さんの代から豊かで、ずっと気楽に暮らしてきたんだ」
コウモリは黙って、虫を捕りに飛び去りました。

 今度は、スズメの群に会いました。コウモリはそっと飛び抜けようとします。でもスズメたちに見つかりました。
「あ〜、もう! 夜中になんてうるさいの? それに洞窟なんかで暮らしているから臭いったらないわ。 あなたたちってどうしてそんなに中途半端なの? だから、洞窟暮らししかできないのよ。 ここは鳥の竹藪なんだから、よそ者はどっかへいってちょうだい!」
ここではいつも、コウモリは会釈だけして通りすぎることにしていました。

 その年、竹藪に一斉に白い花が咲きました。 それが枯れると、竹藪までが音を立てるように崩れ落ちていきました。
 そして言い伝え通り、天変地異が来て、真っ黒な雲が広がり天が破れたような雨が何日も降り続いたのです。
 いつの間にか竹藪には誰もいません。 ただ、乾いた洞窟でゆっくり休んだコウモリだけが、今夜も餌を探しに出かけていくのでした。
 (おしまい) 

 だれもが、この世の中はずっと平穏に豊かだと思っていました。 市民も行政も政治家でさえ・・・。
 だから、新しく何かをしようと思う人や、市民なのに公益を考える人は、バカにされ、疎ましく思われてきたのです。

 でもこの大変革の時代、そんな平穏な社会が、堰を切ったように崩れ落ちようとしています。60年に一度しか咲かない滅びの花が咲いているのが誰の目にも明らかになってきたのです。 ここまで来て、もし、今まで通り笹を食べていこうと思っている市民しかいなかったら、多様な能力が力をふるうのを認めない行政しかなかったら、まちは新しい竹藪が生える前に消滅してしまうでしょう。

 私たちNPOの翼は、小さく中途半端な力しかないのかもしれません。でも、その力は確実に次の時代に必要とされているのです。

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(C) 2000 Hajime Nakamura.